特異な性格

「いいか、よく聞け! この世に呪いだ祟りだなんてものは一切ない。人が死んだ場合、事故か自殺か病死、もしくは殺人。それ以外にないんだよ」

 香川が狭山をビシッと指差して言った。

「お前らの友達の死もその内のどれかしかない。そして、彼の死は間違いなく殺人だ」

 香川の勢いに、いや彼の言葉に俺達は一瞬硬直した。

「さ、殺人って、誰に殺されたんですか?」

 香川の言葉に驚きながら唐澤が聞いた。

「それを今調べているんだ。分かったら、呪いだなんだとくだらないこと口にするな!」

 香川のその言葉を最後に、俺達全員は黙ってしまった。

「香川さん、この事件殺人なんですか? そんな話、僕まだ聞いてませんよ」

 渡部も初めて知ったのだろう、驚きながら香川に聞いていた。

「お前と合流する前にあっちの連中に話を聞いてきた」

 くいっと親指で後ろを指し、相澤がいる場所を示した。

「鑑識の連中によれば、被害者は首を絞められたことによる窒息死。喉元に索条痕があったそうだ」

「索条痕って、縄とかで絞められた痕のことでしたよね?」

「ああ。細い紐みたいな物で首を絞められたようだ。だから、これは間違いなく殺人だ」

「みたいなって、凶器見つかってないんですか?」

「ああ。今探しているところだ。それから--」

 香川と渡部は事件について話始めた。だが、俺は二人の話が全く頭に入ってこなかった。

 殺人? どうなってんだよ。

 つい先程まで仲良く話していた人間が死体となって見つかる。ましてや殺人と言われた。そんな状況にショックを受けたが、それは永生達も同様だった。いや、むしろ永生達の方が衝撃は大きいだろう。彼らはずっと相澤と交流してきた仲間なのだ。今日初めて出会った俺とは比較にならないだろう。その証拠に彼らは呆然としたり、恐怖や悲しみの表情をしている。

 しかし、俺にはショックとは別に身体に重くのし掛かるものがあった。それは、『殺人』という単語からだ。

 以前の事件といい今回といい、なぜこうも短期間で死体と関わるようになったのだろうか。

 レイの事件を調査する。その事件は未解決ということもあり、犯人と出くわす、もしくは殺人現場に遭遇するという可能性もある。その覚悟はもちろんしていた。しかし、こうも短期間に別の事件で死体と関わることは想定していなかった。

 たしかに前回に続き連続して死体と関わるようになったが、それは偶然、たまたまに過ぎない。しかし、そう思う一方でこんな考えもあった。

 

 そう。巻き込まれているというより、自ら事件の起きそうな所に向かっているような、そんな感覚を覚えた。まるで事件を求めているような......。

 はっ。そんなわけないだろう。でも......。

 そう思うが、なかなか頭から消えない。というよりは、忘れたくないと思っている自分がいた。なぜなら、という思いがあったからだ。その理由は--。

「おい、何してる!」

 突然の大きな声に身体がビクッと震え、意識が現実へと戻された。誰の声だろうかと顔を向けると、その先には険しい顔をした永生がいた。

「あんたたち、何をしてるんだ!」

 声の主は永生と分かったが、彼は怒りに満ちた表情で歩き始めた。

「ちょっと、勝手に動かないでください」

 渡部が前に立ちはだかるが、永生は彼を押し退けて歩き続けた。

「動くなと言ったろ!」

 香川が永生の腕を取り、進行を止めた。しかし、永生はそれでも歩こうとする。

「止めろ! そんな乱暴な扱い方するな!」

 香川に止められながらも永生は鬼の形相で怒鳴り続けていた。

 何をそんなに怒っているのだろうか。永生の目線の先を見ると、神社の横にある小さな祠があった。どうやら、そこを調べている捜査員に向かって永生は怒鳴っているようだ。

「もっと丁寧に扱え! あんたらここがどんなに神聖な場所か分かってるのか!」

「永生さん!」

「落ち着いてください!」

 北村と渡部が香川と一緒に永生を押さえた。

「離せ! あんな雑な扱われ方して黙っていられるか!」

 永生は今にも捜査員に飛び掛かろうとするほど暴れていた。北村達が必死に押さえている。

「おい、大人しくしろ!」

 香川と共に北村と渡部の三人がなんとか永生を遠くへ連れていくが、その間も永生は叫び続けていた。

「一体急にどうしたんですか?」

 永生の急変ぶりに驚くと共に疑問に思った俺は、唐澤と狭山に聞いてみた。

「たぶん、祠に触れたからだと思います」

 答えてくれたのは唐澤だった。

「どういう意味ですか?」

「永生さんはホラースポットを誰よりも神聖視しているんです。そこに謂われのある建物や物を絶対に触ろうとしないんです」

 唐澤が次いで説明してくれた。

「ホラースポットは人の手によるものじゃない。未知の力や存在があるからこそ神聖なんだ。そんな神聖なものに、人間が触れるなんて穢れもいいとこだ、と」

「あ~、だから永生さんはさっき怒ったんですね」

「はい。相澤さんが亡くなったわけですから捜査は必要で触れるのは仕方がないと黙っていましたが、あの人達のぞんざいな扱いにとうとう我慢ができなかったみたいです」

 なるほど。必ずお参りをするように言われたが、この理由からだったのだろう。

「こんなこと今まであったんですか?」

「あったもんじゃないですよ。以前には暴力沙汰にまでなりましたから」

「そんなに?」

「その時も迷子になった相澤さんをみんなで探していたんです。相澤さんが見つかって帰ろうとした時、たまたま遭遇したグループがいたんですが、その人たちはそのスポットのシンボルと言える墓石に乗って写真を撮っていたんです。それを見た永生さんは今みたいになって殴りかかったんです。お互い喧嘩になり、相手側の方が先に降参したんですが、永生さんは構わず殴り続けて相澤さんと北村さんが必死に止めました」

 あの時は本当に疲れましたよ、と言う唐澤に俺はただ苦笑いするしかなかった。

 永生といい、唐澤といい、相澤といい。このグループは性格が特異すぎると俺は思った。

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