肝試し

 順番?

 相澤の言葉を俺は一瞬理解できず、おそるおそる相澤に聞いてみた。

「あの、相澤さん?」

「なんだい?」

「順番って、まさか一人ずつ行くんですか?」

「そうだけど--あっ、ごめん! 森繁さんは知らないか」

 忘れていたと謝ってから相澤は説明した。

「実は僕達はルールを決めていてね。これまでいろんな所をみんなで一緒に回ってきたんだけど、全員では入らず一人一人順番に回るようにしてるんだよ」

「何でそんな風に?」

「楽しむためさ。みんなでワイワイ行くのもいいけど、独りで行くことでより雰囲気を味わおう、っていう理由からだよ」

「誰か他の人がいると少なからず安心するじゃないですか? 折角行くんだから恐怖なり雰囲気なりをしっかり感じよう、って話になったんです」

 唐澤が次いで話してきた。

「怖くないんですか?」

「そりゃ怖いですよ。今だって心臓バクバク言ってます」

「だったら......」

「でも、そこがいいんじゃないんですか」

「そうそう」

「この緊張感がたまらないんです」

 永生と北村が唐澤に同意した。

「なんかこう、自分以外誰もいないっていう感覚がいいんですよ。まるでその空間を独り占めしたような気分になれるんです」

「そうですよね。ちょっと自分が特別な存在になったような、悦に浸れるんですよね~」

 狭山が頬に手を当て、うっとりとした表情を浮かべた。

「それに独りなら邪魔が入らず、神経や感覚を研ぎ澄ますことが出来るから、もしかしたら何かの存在や力を察知できるかもしれないからね。話し合いの結果、全員一致で採用したんだ」

 どうやら相澤達は、ただホラースポットを巡るだけでは物足りないようだ。神社の歴史を調べている点からも、根っからのオカルト好きということは理解していたつもりだったが、底が浅かった。彼らは俺の想像の遥か奥底まで、どっぷりオカルトに身を沈めていた。

 ちょっと、共感できないな......。

 相澤達のように、何かに夢中になれる姿を羨ましく思っていたが、ここまでくると正直身を引いてしまう。たぶん俺は彼らと「友達」にはなれるかもしれないが、「同志」にはなれないだろう。

「よし、早速順番を決めようか」 

「前回みたいに、じゃんけんですか?」

 相澤の言葉に狭山が尋ねた。

「あ、僕クジを作ってきましたよ」

 そう言うと、北村は小さなショルダーバックに手を入れ、缶を取り出した。

「相変わらず用意がいいね、北村君は」

「みんなが用意しなさすぎなんですよ。携帯に財布、懐中電灯と最低限の物しか持ってこないじゃないですか。おかげで僕がいつも用意して、しかも荷物持ち係みたいになってるんですよ」

「この地図も北村さんが用意してくれたんですよね」

「いやいや、いつも感謝しているよ」

「ありがとうございます」

「気の利く男はモテるよ」

「おだてても何も出ませんよ」

 そう言う北村だが、声には嬉しさが含まれており、満更でもないようだ。

「じゃあ、ちゃっちゃか引いて始めましょう。まずは相澤さんから」

 北村が隣の相澤の前に缶を差し出し、中のクジを引かせる。それから順に狭山、唐澤、俺、永生とクジを引いた。

 順番は次の通りになった。

 一、唐澤

 二、永生

 三、狭山

 四、相澤

 五、俺

 六、北村

「やった。私一番!」

「また僕最後!?」

 唐澤と北村が正反対の反応を見せた。

「僕これで七回中五回ビリっけつなんですけど......」

「あるあるで、作り手が貧乏クジを引くってのがあるよね。そのせいじゃないかい?」

「だったら相澤さんが作ってきてくださいよ!」

「嫌だよ。それじゃあ僕が最後になるじゃないか」

「くそ。唐澤さん、チェンジは......」

「絶対嫌」

「ですよね......」

 うなだれる北村。

「それじゃあ、次からはクジを作るのも順番に......」

「嫌だよ」

「無理です」

「却下」

「断固拒否」

「ひどくない!?」

 北村が悲痛の叫びをあげた。

 最後がなぜ嫌なのか疑問に思った俺は尋ねてみた。相澤達が言うには、一番はやはり誰よりも早く体感できるという理由で嬉しいが、最後はみんなの体感した後ということで、なんとなく気分的に落ち込むそうだ。風呂の最後の人はぬるくなったお湯に浸かる、的なことだろうか。たぶんそんな感じだろうと俺は判断した。

「じゃあ、一番、唐澤由美子。行ってきます!」

 唐澤は俺達に向かって敬礼し、それから林の中へ姿を消した。

 こうして俺達の肝試しが始まった。

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