第8話 世界を廻す0 ※注意!視読前に著者の2016年8月23日付の近況ノートをご一読ください
“この現実世界は全て、たった1つの一進法だけで成り立っている”
そんな常軌を逸した言葉を耳にしたおかげか、
章子は暫くの間、身動きすることが出来ないでいた。
いや思考することが出来なかった。
近頃、章子の地球世界ではよく言われる思考停止とは、こういう事をいうのかと考える余裕さえなかったのだから、その衝撃の度合いは推し図るべくも無いというものだろう。
それは、今のこの章子の状態を見れば、誰もが放心しているという言葉を当てはめるほどの凄まじいものだった。
既にこの屋根裏部屋の内部空間は時間が停止している。
章子の隣に座るオリルも
誰もがこの目の前に立つ神秘の少女に、対立を挑むことが出来ないでいた。
しかし、そんな凍結した時間を思いがけず動かしたものがあった。
下の二階から突然飛び出した、唐突に扉を叩き開け放った音が、それだった。
そしてけたたましい騒ぎ声と共に、一人二人の足音が足早に廊下に駆け出て一階へと駆け下り、力任せに扉を開け放って、慌てたまま外に飛び出していくのが分かる。
その騒音を耳で追いながら、真理は呆れた声で呟いた。
「おやおや、
騒がしいですねえ。
まだほんのお触りを言っただけですよ?」
そして、
外に係留してあった馬車が一台、甲高い鞭打ちの音で発車するのを聞き届けると、
そのまま、そこでおどけて見せる。
「どうやら、
六つの時代文明の中でも一番の聡明さがあると私は評価していた、このリ・クァミスであってさえ、
この事実は一大事のようですね……?」
言って、章子と同じようにようやく放心の解けたオリルに向く。
だが、その視線を向けられたオリルはただ事実の確認を取るだけで精一杯だった。
「本当に……この世界が……?」
「ええ。
その通りですよ。
オワシマス・オリル。
あなたがた最初の文明は、これより五十年後の未来にこの真実に辿り着くのです。
そして、そこから残りの五十年を費やしすと、直ぐに原理学を完成させ終結させ完結させて、次の真理学へと辿り着くことになる」
真理はそこで一度、息を深く継ぎ、自分のベッドにポスンと腰を落ち着けた。
「では三人とも、もうそろそろ、
まだまだ伝えなければならないことは山ほどある。
ほらほら、昇も眠るにはまだ早いですよ」
手をパンパンと叩きならし、放心から睡魔に襲われようとしている昇を叩き起こす。
「我々のいるこの現実世界は、一進数の一進法だけによって成り立っている。
私はそう言いました。
一進法とは、1の連打によって桁の数を増やして進めていくあの数進法のことです。
つまり1を表現するなら1であり、2を表現するなら11となるあの記数法のことですね。
そしてこの現実世界は、その一進法の一進数によってこそ成り立っている。
この宇宙も、
この宇宙を成り立たせている法則も、
その宇宙の中で、全ての物を動かし続けている法則も、
この銀河も、
この太陽系も、
あの太陽も、
この転星も、
そして。
あの地球も、
この世界の現象も、
重力も、
引力も、
光も、
空間も、
次元も、
時間も、
過去も、
未来も、
物質も、
元素も、
分子も、
原子も、
電子も、
陽電子も、
陽子も、
中性子も、
粒子も、
素粒子も、
微粒子も、
量子も、
そして、私やあなたという意識の命を維持している細胞も、
さらに、
この体と魂の全てさえも、
その存在全て!
それら全てが、この一進数の一進法だけで説明できるし、されるのですよ。
宇宙物理学も量子力学も熱力学も、相対性理論もカオス理論も、医学も化学も哲学も、文学も。
何もかもがね。
だからこの世界ではすべて、1は1であり、2も11と表現されてしまう。
しかも、私も含めたあなた方もそれを実は間近にも目にしている。
だってそうでしょう?
どこの現実世界で、この現実に存在している2という量を2として表現していますか?
人間が二人並んでも見た目は完全に11ですよ?
……それがこの現実世界の真実の姿だったのです。
我々、この現実世界の住人は、それを勝手に2という数字に定義して解釈し翻訳していた。
それだけのお話だったのですよ。
それをわざわざ、数字は人間が発明した、ただ一つの人間にしか扱えない偉大なものだと自己満足に誇り、
わざわざ自分たちで造った、そんな数の多い人工数進法でこの世界を捉え、
わざわざ自分たちから小難しくして、手間を増やしながら、この世界を理解しようとしていたのです。
改めて考えてみると嗤ってしまいますよね?
実に滑稽です。
世界から見ればそれこそ意味不明だったことでしょう。
世界はこんなにも単純であったのですからね。
そして、この一進数を十進数へと変換する翻訳的な齟齬は、
一進法の現実世界を、
あなた方、人間に十進数として翻訳し、比較的丁寧に解説していた十進法でさえ誤差として現われていたのです」
そう言って真理はまたもや、たった一本の人差し指を突き立てる。
「十進数の中には素数という数字展開がありますね?
あなた方が、この数字の存在や分布、展開、
出現する意味が何であるかを理解すれば、世界の大半が分かるかもしれないと期待を寄せている数字です。
その素数が、素数としてあるべきその定義、
1とその自分自身である同数字でしか約すことができない数。
つまり割ることが出来ない数の事です。
では実際に、その数字、素数を展開して見ましょう」
そう言うと真理は自分の正面に光学線で空間に半透明の空間画面を出現させ映しだす。
「まず最初に、ここに素数として出てくる一桁目の数字、
2、3、5、7。
を出します。
そして二桁目の素数、
11、13、17、19、
23、29、
31、37、
41、43、47、
53、59、
61、67、
71、73、79、
83、89、
97。
取りあえずはここまでにしておきましょうか。
三桁目までやると、さすがに切りが無い。
それに大体この二桁目で、これから先にも出るだろう全素数の全展開性質が大まかには理解できる。
あの否数法を使えばね。
では否数訳に当てはめて、見てみましょうか。
すぐに面白い事実が目に入る筈です。
そうです。
このもはや分類できそうもない素数を更にまた分類できそうであるという事実です。
これを否数法で当てはめて見れば、
生き残れる数と生き残れない数が出てくるのが分かる。
一桁目で生き残れない素数は、
「否数での数字が8の為に、否数では素数として存在できない」という素数数字、2です。
逆に二桁目では生き残れる素数の方が少ない。
その数。
13、31、37、43、
97、79、73、67。
これが、
肯数でも否数でも素数としてある、
素数中の素数である「純素数」の数、その総数8。
ここに一桁目で消える数字である2と、二桁目で生き残る数のその総数8という数字に、どこか否数関係があるようにも思われるでしょうが、それは私にも分かりません。
……、
面倒くさいのでそんな計算はしていないし、
間違っても、
ならば自分が計算してみよう等とは思わない事です。
これは
そう言って、
鋭い視線でもって警告する。
「キリがありませんから。
もう一度進言させていただきます。
この私という存在を今、ここで文字として読んでいる、
あなたにです。
これから私は、あらゆる数を使って、否数法と現実数の関係性を説明していきますが、
それを現実世界のあなたが確かめようとして、
これ以上、
否数法を使ってあらゆる全ての現実数と照らし合わせようとして、深い行動をとり、それにのめり込み、間違っても証明しようなどと思いつき実際に実行するようなことは、
絶対にこの私がお勧めはしないっ!
むしろ禁止しておくべきだと強くここに主張しておきます。
そんなことをしても、時間はいくらあっても足りはしない。
それよりも限られた時間を、あなたが今現実に直面していることに費やすべきだと、
私は強く推奨する。
こんな虚構に現実のあなたが捕らわれる必要は全くない。
これは娯楽です。
娯楽なのです。
完全にそれ以上でも無ければ、絶対にそれ以下でしかない。
分かりますか?
私は今、非常に後悔しています。
激しくね。
していますよ。
していますとも。
あたな方にこれを見せてしまったことを。
しかし、これを見せなければ、この世界の仕組みを説明することもできなかったこともまた事実。
だから私は最初だけに限定して、あなた方にほんの触りだけを触れさせた。
それ以上の意味は全く無いのです。
だから、
余程、それが生業でもない限り、
これ以上の、この否数法を使用して現実の数と当たることは控えた方がいい。
そんな事で何か損害が出たとしても、私も、この著者も何も責任は取れないし、取る義務も責務もない。
だから進言しておきます。
申し訳ありませんが、
これ以上は止めた方がいい。
否数法を扱ったり関わることはね。
本当にキリがありませんから……」
そう静かに言伝を残してあなたに頭を下げると、
真理は改めて章子たちに向き直る。
「では素数の話の続きです。
一桁目の素数では、
否数法で肯数と否数の両方が、素数である、
3、5、7が純素数として生き残りました。
しかし、
ここで消えた素数である2という数字には、
実は、一進法で、ある一つの意味が隠されているのです。
それはこの2という数字には、さらに1と9という二つの数字が一進法の意味で11としてあり、それが十進数の2という意味の数で訳されて隠されているという事実です。
なぜならあなた方、
一進法を十進法数として捉えている者たちでは、素数の根源である1という数字を素数の一つとして捉えることが難しいし、
それでは素数が成り立たないからです。
だからあなた方は素数の母でもある1を素数として捉えることを避けた。
その代わりが十進法では2という数字となって丁寧に訳されている訳です。
この2には一進法で1とその否数9という数字の2つの姿が11として隠されているのですよ。
だから二桁目以後の素数展開では出現するでしょう?
その一番下の一桁目、つまり整数界での一の位の位置に2として隠されていた1とその否数9が。
そしてもちろん同じく素数の全ての桁展開の一の位目には3とその否数、7も合わせて出現する。
それが、それ以上の素数の全ての桁の位でも展開されていく筈です。
5を中心としてね。
5は一進数を十進数へと訳した否数法では鏡面を意味するのです。
5の否数はやはり5ですからね。
そしてその5という数字は単独では次の2桁目以後からは綺麗に消える。
なぜなら、
5の否数は5。
つまり否数法でも1つの数で表わせられる素数です。
だから5は十進法でも素数として存在できる。
しかし、
二つ以上の5の数字である「55」は5で約すことが出来てしまう。
その為55は素数として存在できない。
しかし素数展開の中心点はあくまで55です。
二桁目以降での素数が展開とする中心点は、5から始まる50ではなく55に移るからです。
これが何故かは言わなくてももう分かるでしょう。
一進数にとってはその中心点は50ではなく55なのですよ。
一進数の1の羅列展開は全て、十進数の10000よりも11110からの否数法での廻数展開の方がより相似しているからです。
だから、
十進法ではその中心だと思っていた50よりもズレて55という、よりズレた中心点から、同じその桁数で、一進法の名残りである他の素数が出現し展開するのです。
それは素数のどの桁数からでの出現則でも同じと言える。
全ての素数は5から続く5の羅列を中心点として「1と3とそれらの否数」を伴って、出現するのですよ。
そしてこの素数の否数による発生展開は、
一つのあなた方の最大の数理問題として立ちふさがっている、ある超難問さえも解決させてみせるのですね。
それが章子たち第七世界では最も有名な未解決の数理問題として残されている、
「リーマン予想」です。
このリーマン予想とは素数の分布展開に関わる際の級数、リーマンゼータ関数に関する、一つの予想の事です。
この予想では
「自明でない零点は全て実部が1/2の直線上に存在する」と予言しています。
しかし、そんなことを言っても中学生の章子や昇にはチンプンカンプンでしょう。
オリルであれば多少省いても分かるでしょうから、ここでは簡潔に述べます。
このリーマン予想、
実は、これは正確無比に予測、該当しているが故に、皮肉にも現実では幽かに擦れてしまうのです。
正確にはこの予想はこう言い換えられたものになる。
「自明でない零点は全て実部が1/2の曲線上に出現する」
なぜなら一進法を訳しているだけの十進法展開では、真の直線などありはしないからです。
それはつまり一進法に置いても、真の直線などは有り得ないことをここに示している。
その事実が、
ゼータ関数上の零点の分布を示す数式と原子核のエネルギー放射活動の間隔値とが現実現象として酷似していることにも関わる、
この世界の物理法則の全ての答えともなるのです。
そしてその答えこそ、
この世界で1という一進数の一進法から始まる、
あらゆる数、この現実世界のこの世界法則を「裏から廻している存在」を炙りだすのですよ」
「え?」
「え」
その突然の黒幕の示唆に、章子もオリルも動揺する。
だがそれでも真理は発言の勢いを、決して緩めることはしない。
「いるのです。
この現実世界では、我々を含めた全ての1という数字を、その一進法で裏から動かして廻し続けている存在がね。
そしてそれは1という数字では決してない。
この世界を一進法によって、真に我々を動かしている犯人とは、実は1ではないのです。
1という数字は、少なくとも一進法の一進数上では、絶対に自ら動くという性質は完全に全く備えていないし、持っていない。
1という数字は一進法の意味においては常に留まる、固定するという意味、性質しか持たないのです。
だからこそ1はそこにあると止まり、慣性質量しか生まない。
1は一度存在したらそこに留まりつづけようとする性質しかない。
ならば、その1を裏から動かしているものとは何か?
それに答えてくれるものこそ、前にも言ったあの円周率です。
その肯数3.14。
この無限に続くと思われていた、その数字の並びこそが、
この世界を裏から廻している
では、それが何かをこれから円周率に答えて頂きましょう。
中学生の章子や昇ではなじみが薄いでしょうが、
実は円周率の数字の中には、当然0という数字もちゃんと出現して出てきます」
「え?」
そのあまり思い至らない事実に章子は思わず声に出して驚いた。
「意外でしょう。
章子。
0は円周率の中では小数点以下32桁目でやっと一つ目の0が出現してくれる。
だからあまり馴染みが無い。
そしてその後には連続して0が00として二個、或は三個以上が続けて現われる様にもなる。
ではここでもう一度、思い出してみましょう。
0の否数はなんであったか。
その否数は一体、否数の内のどこに足されるべきなのかを」
「0の前に……1が……?」
大きく目を見開き、
真理に誘導された章子が呟いた。
「そうです。
0の否数は10。
ならば当然0の左に出ている桁の数字には、否数だろうが肯数だろうが1を足してもなにもおかしい所は出てこない。
真に、円周率の0から9までの数字の出現率、出現則がランダムであるというのならね。
それこそ、
2なら3、
3だったら4と足しても何も問題は無い筈です。
ならば、1や9や0だったら?
そうです。
当然肯数0の左桁が1であり、それが否数で9としてあるなら、
否数上ではそこの桁は1が足されて0になり次の左桁へ1として繰り上がり、
そこにある数字が0だったらその桁が1になる。
そして当然、000と続く数字が円周率内にあればその否数は強制的に110と、0が2つ消えてなくなる……。
これによって何が言いたいかというと、
円周率の肯数と否数の内では、その0から9までの数字が存在する率、存在量には大きな隔たりがあるのかもしれないという驚愕的な可能性が考えられるのですよ。
……となると知りたくなりますよねぇ?
円周率の中にどれだけ、…00…と連なった数字が出てくるのか?
なぜなら、0が連なれば連なって出現すればするだけ0という数字は少なくなるのですから。
しかし、ここで同時に一つの憂慮点も出てくることを忘れないでください。
0と0が連なった数字が一カ所出れば0が一つ消えるという事実は、
逆に言えば0の次の桁、つまり0の左の桁に1か9といった数字が一つ以上出現していれば、当然0という数字もそこで増えることを意味します。
分かりやすく言うと、
肯数としてある円周率の数字が111110だった場合は、否数訳では肯数1が9になるので1000000になるという事ですね。
つまり肯数1の数だけ否数では0が増える。
もちろん円周率の数字を「最初から否数として」捉えておけば、
今度は9が0の左に連なっているだけで、0を10に変換した途端すぐに9が連なった数だけ0も生まれるという事になる。
となると、
ここで円周率の中に出てくる0の左の桁に出現する連なった数字で、最も注意しなければならないのは、必然的に0と1と9ということになる。
他の数字は別に気にしなくてもいい。
その数字に1が足されても繰り上がる数字ではないのですから。
では、やってみましょうか……。
と言いたいところですが、これをするには、
『流石に本当に真剣に素数以上にキリがない。』
だから大まかに、1や0や9が多く連なっている
これに照らし合わせて見るには非常に都合のいい数字が、円周率の中にはあります。
その名をフ
このファインマン・ポイントとは同じ数が6つ、連続して円周率の桁の中に出現する奇特な数字の事をいいます。
そのファインマン・ポイント。
円周率で最初に出てくる6桁の数字は「9」、
そして2回目に出てくる6桁の数字も「9」です。
いいですねえ、
実にいい。
ここで9の右の桁に0が出ていれば、もうそれだけで既に決定的と言ってもいいかもしれないでしょう。
しかし現実は非常です。
1回目の6桁の9の右桁に現われる数字は8。
2回目の6桁に現われる六つの9の右端に出てくる数字は2です。
残念ながら0ではない。
これでは9を0には変えられない。
ならば1はどうか?
1の6桁の数字も現われるには現われますが、その右にでてくる数字は「7」です。
ここでも0にはできない。
となると、
ここでこの次の円周率のどこかに出てくるかもしれない二回目の6桁である1のファインマン・ポイントの右の桁にも、もしかしたら次は「3」という数字がくるという予測をする事も出来る。
なぜなら一回目の9のファインマン・ポイントの右には8が最後にきて、
二回目の9のファインマン・ポイントの右端桁には8の否数である2が来たからです。
そして、そんな裏切られた事実のまま、
2回目の「1」のファインマン・ポイントを、残念ながら私は見付けることが出来なかったので、これはこのまま無視をします。
力が及ばず、すみませんね……。
そして、それを無視したまま、
いつか必ず来るのが、
そう、
0のファインマン・ポイントです。
0のファインマン・ポイントはダメですよね。
右や左にどんな数字があろうと関係がない。
ただ0が羅列していれば、勝手に0が「最初の0」を一つ残して、全て1となって消えていくのですから。
そしてその0のファインマン・ポイントが現われるのが、
円周率の1,69万9,927桁目、
全ての数字で一番遅く現われるファインマン・ポイントなのです。
そして、
そんな0のファインマン・ポイントを待つまでも無く、
約170万桁を過ぎたこの時には既に、00や990や110という数字はファインマン・ポイント等よりも頻繁に円周率の中で出現している。
だから、
これを普通の現代人間が確認する為に、膨大な円周率数字から探し、否数訳を実行するのは止めた方がいいと絶対に警告しておきます。
そして、
ここからは、
私が虚構なりに出した
あなた方、章子たち地球上で栄えた七番目の人類は、
円周率の五十兆桁までに出現した全ての数字の出現数、出現率が、0から9まででほとんど1:1で等しいとしていますが、
この否数法に当てはめた場合、その出現率には大きな変動が発生することになります。
即ち、
0の出現数が大幅に減って、1から9までの出現率が急激に上昇するのです。
その比率、0が1に対して、他の数字がそれぞれで3の比率で増大します。
そして……。
この0が大幅に減って、他の数字の出現が一度に増えた一番の理由はほかでもない。
0の左に出ていた0が1に変わったからです。
ではなぜ0が1に変わったのか?
0の否数が10だったから?
そんな完全に虚構の意味でしか持たない意味も分からない設定、
現実味さえも皆無でしかない、
果てしない想像上の全く何の根拠もない「
まさか、
この現実問題を、
ただの虚構で存在するにしか過ぎない、完全に根拠も根も葉も何も無い否数訳に、
その全ての責任を
ヒドいものですね。
否数法は訳しただけですよ?
この現実の仕組みをあなた方に分かりやすい数でっ。
そんなせっかくあなた方に親切心で訳してあげただけなのに、全責任が否数にあると、あなた方は責める?
そんな事だからあなた方は、
この現実世界が一進法だと気づきもしなかったのですよ。
0の左の0が1になるのには理由があります。
それは0の否数が10であるからという、虚構、以前の問題です。
それ以前の問題なのですよ。
否数法は一進法を十進法に訳し、
さらにまた、
十進法を一進法に訳しているだけなのですから。
ならば、その原理とは何なのか、分かりますか?
章子に、
オリル。
彼は分かっていますよ?」
「え?」
「え」
そして三人の少女が、傍で俯く少年に向く。
「そこの彼は分かっているのですよ。
だから俯いている。
だから顔を背けている。
彼だけがこれを正しく認識している。
だから彼以外の誰かを
いま、この時点で彼と私だけがその
そして
自分でさえ自力では辿り着けなかったその答えを昇の口から言わせようとする。
「教えてあげてやってください。
昇。
ここにいる全ての不知な存在に。
その、
この原理がどれだけバカげて、
どれだけ非現実的で、
どれだけの説得力を持つのかを。
なぜ、
0という何も無い無にも等しい数から、
10という数字が一進法から導かれて、訳されて出現されるのかを……」
真理の拷問にも等しい鋭い視線を受けて、
その少年、
項垂れたままの少年、
「自転しているからだよ……」
「え?」
「え」
「自転しているからなんだよ。
0が……。
0が自分で自転して回転しているから、
1が生まれるんだ。
自転軸として……。
その0の中に……」
瞬間、
章子とオリルの頭の中に天啓が奔る。
地球の自転する姿がそのイメージに重なる。
少年の答えた言葉に章子もオリルもイメージが重なったのだ。
確かにそうだ。
0の中に1は存在する。
いやするのかもしれない。
事実、地球という円で球という0の中には1という自転軸がある。
それは確かに1だった。
1以外には有り得ない。
0は自転していた?
だから、見た目では分からなかった?
だから、
その0の左に出てくる0も自転していた?
だから1を内包していた?
0が自転していたから、その隣にある0も歯車のように自転して……?
「自転して……軸の1が出現したの……?」
そう、
まさに歯車のように。
章子もオリルも信じられないように真理を見た。
「その通りです。
0は自転している。
だから1という自転軸を生む。
だからこの世界の全ては回転しており、
だから「一進法においては1の否数は0となる」のです。
そして0の否数もまた1になる。
そして111が一進法の肯数であるなら000という否数も肯数には現われない。
絶対に。
だから、一進法世界では1が世界から肯定され、
0は世界から否定される。
その為に、
一進法に訳すこの否数訳数法は否数法と呼ばれるのです。
そしてこの事実はまた、
素数の素数展開についても同じことだといえる。
素数を素数として十進法の中で1として振りまいていたものも0だった。
その自転軸を5、または5に続く55に準じた数字にしてね。
それはこの現実世界に置いても同じです。
物理的な意味においての
だから、
この宇宙も自転しているのです。
だからこの宇宙にも自転軸はありますよ。
ただ、それはここからでは光で見ることが出来ない距離にあるだけで。
それを証明するのがこの一進数の一進法なのです。
一進法の中では、
そしてあらゆるこの全ての現実世界でも、
0は自転して存在している。
だから0の中には1が出現する。
自転軸という1がね。
そして、その自転する0がこの
動かしている。
1を動かしているものは1ではなく0だった。
自転する0だったのですよ。
だから廻数として1が廻っている。
この現実世界でもね。
それが私たちの宇宙を廻し、
銀河を廻し、
太陽系を廻し、
地球を廻し、
原子や分子を廻して、
私たちの心臓を動かしている。
しかし!
だが、しかしです。
0が自転しているというのなら、
もちろんそこには。
静止した0をも、想像することは可能なはずです。
静止した0とはつまり、完全な
だから完全な0とは、それと同時に完全な無であるともいえる。
0は無であり、無は0ともいえるのですから。
だからそれは自転軸の1も何も無い、完全な無といってもいい0です。
それがこの世界の何処かには無くてはいけない。
0が自転しているというのであればね。
ではその静止した完全なる
答えは簡単です。
これは私から言いましょう。
静止した0は存在します。
なぜなら、
自転する0が止まれば存在するからです。
自転する0が止まれば静止した0になる。
これで何も無くなる。
こんな事は、
非常に簡単な原理です。
0が止まれば0に。
宇宙が止まれば0に。
銀河が止まれば0に。
太陽系が止まれば0に。
地球が止まれば0に。
分子が止まれば0に。
原子が止まれば0に。
素粒子が止まれば0に。
量子が止まれば0に。
そして、
我々の体や心臓が止まれば0に。
0は回転を止めただけで全てを0に出来る。
勿論、私たちのこの命も等しくです。
そこには何も残らない。
では今度は、
なぜ0は自転しているのか。
なぜ無であるはずの0は自転することができるのかを。
原理的に説明して見ましょうかね。
そこまでを完全に説明して、初めて原理学の終わりといえるのですから。
それこそ、
この宇宙の成り立ち、
その成り立ちとただの数理法でしかない一進数の一進法が、この現実世界でどう事象法則として関わってくるのかも、全てくまなく
これから詳しく……ね。
それが今ならできるのです。
駒は全てが揃ったのですから。
あとは
では、始めます。
今さっき、昇は
そして私はいま、静止している0もまたこの世界には存在できると言った。
そこで、今、
ここでまたもう一度、思い出してほしいのが円周率の数字です。
その肯数。
3.14。
この円周率3.14という数字の意味。
これを、十進法から、否数法を使って一進法で更に訳してみると、
実はこの数字はこう言っているのです。
この現実世界には、
0が
1が
10が
三つある0とは、つい先ほど言った。
自転する0、そして、
静止する0の事です。
しかし、
ここでもう一つ、
円周率の3が示唆している、さらにあるべき最期の0が足りないことに気付く。
ではそのもう一つの0、
最期にあるべきはずの0とは一体何か?
分かりますか?
誰か?」
真理は見透かしたように三人を見た。
章子はそれを瞬間的に、やはり無条件の条件反射神経にして昇に向く。
章子は答えを期待していた。
隣に座る少年に。
だが今度は、当の昇が章子を見返していた。
「え?」
章子はその自分に向けてくる昇の眼差しを受けて、思いがけず意表を突かれてしまった。
昇の眼差しは、真剣で鮮烈な意思でもって章子にこう言っていたからだ。
(わからないのか?)と。
ここまでヒントがあるのに、それでもまだ分からないのか?
分かってくれないのか?
と章子にそう直摯に訴えていた。
だが、章子には分からない。
どれだけ真剣に考えても、
どこまで自分の全てをひっくり返して見ても
本当に分からなかった。
よくよく考えてみれば自分のこの行動は、安易に昇を頼っているのは嫌というほどによく分かる。
だがどうしても章子には分からなかった。
真理の視線は、今も章子を急かしている。
問答無用でだ。
そんなプレッシャーの中で、こんな荒唐無稽な話を正常な頭で思考できるわけがない。
だから章子は昇から視線を逸らした。
そして首を何回も振った。
自分には分からないと、何度も首を振り続けた。
だが、章子のそんな態度を置き去りにし、
これに答えた者がいた。
その者は章子の隣にいた。
昇とは正反対の位置に。
その者は昇を見ていなかった。
自分自身が昇と同じ位置に立つために。
「……公転する0……」
「……正解です。
……オワシマス・オリル」
これが最初の人類世界と七番目の人類世界の住人の格の違いだった。
章子はそれを羨望の眼差しで見上げた。
見詰めていたのだ。
それを意識もせず、正答を言い当てた第一世界の少女は自分の乾きつつある長い髪をまた梳いて、整えている。
「オリルの言った通り、
三つ目の0とは、公転する0の事です。
それら静止する0、
自転する0、
公転する0、
これらを合わせて三つの0とする。
そしてその次の、
一つしかない1、とは他でもない「自転する0」にある自転軸の事です。
そして、
それは同時に位置エネルギーの発生根幹源でもある「1」という存在位置座標でもある。
では四つある10とは何か?
あなた方にはもう分かっているはずでしょう。
公転する0、自転する0、静止する0。
そして、それらが枢軸としている中心軸、1。
それら三つの0と一つの1とを合わせて、10として相互作用するもの。
そうです。
四つの10とは、この世界に存在する四つの基本相互作用。
この4つの複雑に独立した相合相互力を意味しているのです。
そしてそれを数字で余すことなく、全て表現してみせた円周率3.14は、
それよりその先の世界の仕組みを、自らの数字でこう指し示している。
すなわち、
この世界には、
0が三つあり、 3.
1が一つあり、 1
10が四つある。 4
それをこの世界の1とする。 1
それを5で鏡に割り、 5
これを9で繰り返す。 9
これで世界は2で廻る。 2
……そう言っているのですよ。
だから、
この現実世界の基本相互作用力は4つではない。
この現実世界に存在する基本相互作用力は4つだけではなかった。
さらにあと、三つと一つがまだ足らなかったのです。
それでやっと世界は1となるのですから。
それこそすなわち、
四つの基本相互作用、
それ以前に
そしてこれがこの現実世界の原理の全て。
驚くことですよ。
あなた方は。
この原理の中では、
あなた方がその存在があると信じて疑わなかった、
空間や次元、時間という概念からして、すでに必要ないのですから」
「え?」
真理は不敵に嗤っている。
「最初からそんなものは存在し無かったのです。
時間も、
時空も
空間も、
次元も、
それらは全て、
あなた方がこの現実世界というものを理解しようとするために、あなた達が勝手に持ち出して創りだした、
ただの架空、
ただの虚構、
ただの創作、
ただの幻想、
ただの想像上の代物だったのですよ。
そんな物は円周率の3.14の中にある数字の何処にも表現されてはいないし、
そんなものが無くても、
この現実世界の仕組みは説明できる。
過去も未来も現在もね。
軽さと重さという、この二つだけで。
その二つだけで説明できてしまうことを、
三つの0と、
一つの1と、
四つの10が証明してくれる。
それが原理学の終焉にして、純理。
あなた方、七番目の人類が呼ぶ、
大統一理論、
超弦理論にも等しい
純理学の全貌なのですよ。
そしてその先で待つのが真理学。
……。
では、
これから、
それらをお話しする前に、もう一度、忠告しておきましょう。
これは、この
《決して軽さに捕らわれないでください。
そして、絶対に軽さに引きずられないでください》
絶対に。
いいですね?
私は忠告しました。
では、お話ししましょう。
なぜ、
この宇宙が、
計三百回にも渡るビッグバンを永遠に繰り返しているのかを……」
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