第7話 円周率11.11(否数法)

 円周率11.11……。

 その少年の発した数字は、目の前や隣に座る三人の少女たちの視線を否が応でも集めていた。

「円周率……」

「11.11……?」

 章子あきこもオリルも、その常識知らずな一笑に付されるべき異様な数字を、驚異と脅威が入り混じった意思で持って対峙している。

「11.11って……」

「おかしいでしょ……。

どう考えても……」

 呟いたオリルも否定する章子もその数字だけは、どうしても受け入れ難いようだった。

 それもその筈だろう。

 円周率とは円の直径の長さをその円周の長さとを比して、数値化されたものだ

 つまり全ての円の円周の長さは、その直径の長さの3.14倍であることを示している。

 もし、

 仮にそれが11.11であると云うのなら、

 その円はその数字通り、円周の長さが直径の11.11倍を持ってしていなければおかしいことになる。

 しかし、

 そんな円などどこにも存在する筈がない。

 そんな事は中学二年生の咲川さきがわ章子でも分かる。

 だから章子はその数字を全力で否定していた。

「11.11って、

いくらなんでもそれは無理よ……」

 章子は、11.11という数字を言った張本人である隣で項垂れたままの半野木はんのきのぼるの様子を伺いながら、

 正面のベッドに座って相対している少女、真理マリへと向き直った。

「合っていますよ。

それで……」

 しかし、そんな章子の主張を下僕である真理は意にも介さない。

「……では、少し、

をやってみましょうかね……?」

「算数?」

「そうです。

算数です。

章子は、計算は苦手でしたか?」

 そんな事はないでしょう?

 そう言って自分のあるじを肯定する言葉で褒めそやかし、真理は自分が陣取っていたベッドから立ち上がる。

 立ち上がった真理は、怪訝な顔をする章子とオリルの様子を慮ることに注視していた。

 章子はその目がどうしても怖い。

「それは……。

数字にもよるけど……。

でもでいいの?

数学とか、

もっとそれなりに難しい数式じゃなくて?」

 章子は不安そうに真理の顔を下から覗き込んだ。

 章子は大袈裟ではなく本当に不安だったのだ。

 真理は何時だって奇想天外なことを、いつも小難しい数学式や方程式では無くて、簡単な子供でも分かるような、それでいてどこか分かりにくい言葉や数字の表現方法だけで、章子の不可解力の突破を果たしてきた。

 章子にはそれが恐ろしい。

 きっともそんな単純な言葉や数の動かし方だけで説明されてしまう。

 そんな気がして恐ろしかったのだ。

円周率パイポイント‐11.11ダブル・イレブン

「え?」

「え」

 唐突に口を開いた真理は笑っていた。

 不敵に。

「円周率11.11の通称ですよ。

なかなか厨二病的に栄えある黒歴史に殿堂入りするぐらいに、ダサ格好いい名称でしょう?

まあ、大丈夫ですよ。

心配は無用です。

これを証明するのに、

そんな小難しい方程式などは必要ない。

今から、その数字の意味をお教えて差し上げます。

ですから少し、

算数をやってみましょう。

……安心してください。

それで、

全て、

カタが着く」

 直ぐにね。

 そう言って、真理は章子や昇には自分のチケットを出すように指示し、

 オリルには簡単な計算が出来るように、

 暗算か計算魔法の準備をするよう進言する。

「ではいいでしょうか?

章子や昇にはチケットに電卓機能がありますので、地力での計算が間に合わなければそれを使ってもらって構わない。

オリルにはそんな心配も無用だと思いますが、念のための申告はさせて頂きました。

それでは、始めましょう。

とは言っても、

まあ、本当に簡単な算数なのですが……。

取りあえず、まずは第一問目からやってもらいましょうか……。

では、あなた方、三人に問題です。

1に9を足すとその答えは、何になりますか?」

 真理が怖い笑みを浮かべながら言う、その単純な問いに、

 だが章子もオリルも答えられなかった。

 一体何の答えがそれの正解であり、その正答から今度は何が返ってくるのかが分からなかったのだ。

 だから当惑する二人の少女は、同じベッドの一番端の窓際に座る最後の少年の姿を見る。

 少年は微動だにしなかった。

 章子たちの視線をワザと知らない素振りで無視しようとしているのが有りありとよくわかった。

「誰でもいいですから、早く答えてください」

 真理が痺れを切らして囃し立てる。

 すると、

 押し黙っていた少年、半野木昇が渋々と口を開いた。

「……10

 その当たり前にも当たり前すぎる答えに、章子もオリルも思いがけずに安堵していた。

 自分たちの常識は、まだ常識として存在している。

 その事実だけが章子たちをただただ安心させていた。

「その通り10です。

では2と8では?」

「10」

「10」

「10」

 それで安堵しきったのか、

 勢い余って、

 三人が三人とも同じ答えを言う。

 それがやはり章子やオリルには安心だった。

 そしてそれをやはり肯定するように真理も頷く。

「そう、10です。

ほらね。

そんなに怖がるような事ではないでしょう」

 正答を褒める真理は安心させるように章子たちに笑いかけた。

 だが、その気遣いだけは少しだけ逆効果だと章子には感じる。

「これは言わずもがなの、当たり前の計算です。

1足す9は10であり、

2足す8も10である。

その当たり前の計算を、今この時にした意味をこれから、皆さんに解説していきましょう」

 そう言って真理は自分の人差し指を一本、目の前で立てて見せる。

「私は言いました。

1足す9は10であると。

そして、

2足す8も10になるのは当然。……では、その先はもちろん、

3足す7も10であり、

4足す6も10であり、

5足す5も10。

6足す4も10。それに続く、

7足す3も10で。

8足す2も10。

9足す1も10となる。

……ではここで応用問題です。

0には、何を足すと10になりますか?」

 真理に問われた二人の少女は自然、端に座る少年を見た。

 その視線の集中砲火に、先に答えを言わざるを得ない少年は辟易とする。

「……10……です」

「そう10ですよね。

これも当たり前です。

0は10を足して10となる。

これをよく覚えておいてください。

この0に、10を足して10とすること。

これをに解明しようとする学問、いえ詳しくは数理論と呼べるべきそれが過去のギガリス、

現在のオワシマス・オリルの基となったの人物がいた本来のリ・クァミスがいた時代の未来である、真理学の覇都、ギガリスには、

それがありました。

その名を否数学アンマスティクス否数法アンマシングといいます。

この否数法では、

1など、最初に置いた数を、世界が肯定する数、

肯数ハイマスと呼び、

その置いた肯数を10にするべき、次に足される数、

つまり1でいうなら9のことですね。

この9を、

世界を否定する数、

否数アンマスと呼び習わしました。

すなわち、

これを並べていうと

1の否数は9であり、

2の否数は8であり、

3の否数は7。

4の否数が6、

5の否数は5、

6の否数が4、

7の否数が3、

8の否数が2、

9の否数が1、

0の否数が10となる。

と云った具合です。

そして肯数1と否数9が足されて合わさった数の10。

この10を、起こす数。

起数バンマスと呼ぶ。

起数は例外なく10です。

ただし、その起数である10自体には否数がありません。

いえ、あるにはあるが十進法上での一桁の数字では表現できない。

これがです。

0には否数が10としてあるが、

その10の否数は0となってはならない。

それはなぜか。

10という数字には、0の次に1があるでしょう?

まずは、

この1の否数を求めてましょう。

そうです。

9になる。

では0の否数は?

そう10です。

これらの数字を、桁はそのままに足してみましょう。

そうです。

10足す90。

つまり、

10の否数は100になる。

さらに、

その起数は、肯数10と否数100を足して、

110。

だから10の否数は0ではない。

9と10の100なのです。

そして100の否数は1010で、その起数が1110。

ならば1010の否数は10100となる。

……その為、

10からそれ以上のの否数と起数を考えることには意味がない。

続けましょう。

ここからが本題です。

この否数学による否数法の、肯数と否数の和である起数は、

現実世界に存在、あるいは出現するあらゆる数、実数、整数、小数、自然数、素数、虚数等の種類を問わない全てを含めたや化学に数学、

またはあらゆる全ての科学分野に出現する数字を、

全て例外なく、

その肯数の桁数に応じた、

整数ならば、肯数より一桁多い…1110。

小数なら肯数の整数界が一桁繰り上がった、11.111…の起数の羅列に変化させるのです」

「え?」

「え?」

「え?」

 これには半野木昇も例外なく驚く。

「そして、

この時の…11…から続く全ての1の羅列数字、

すなわち、

整数界の最小桁に出てくる0から始まる1という数字、

または、小数界ではそのまま、果てしない…11…が続くという1の数字の羅列、

その肯数と否数の総和である起数の数、この1の数字の羅列解を、

廻す数。

廻数パイマスと呼びます。

その廻数に、

この世のありとあらゆる所に存在する全ての現実数字は変化させることが出来る。

では、実際に変化させてみましょう。

丁度、の慣らし運転にはおあつらえ向きの数が、現実世界にはあります。

その数……。

2.65475131106。

……これは√7ルートセブン

七の平方根の小数表現です。

章子の国の教育課程ではルート、つまり平方根は中学校三年生から習うはずですから、

予習でもしてない限り、ちょっと分かりづらいかもしれませんね。

特に学の低い半野木昇には??????だと思います。

しかしここではルートなどという名称は無視してください。

要は数がいじれればそれでいいのです。

ではちょっとやってみましょうか」

 そう言って真理は、

 今度は、この文を読んでいる目の前のにも向く。


画面や紙面から私たちを見て読んでいるもご一緒にやってみますか?


なに、

これくらいの数を動かすなら、あなた方でも何も問題はありません。

手元にあるスマホか携帯にある電卓機能を使ってもいい。

なんなら、そろばんでも暗算でも好きな物を使ってもらっても構わない。

できますよ?

同じにある数字ですから……」

 そう言って今度こそ章子たちに向き直る。

「では始めましょう。

肯数2.65475131106。

これの否数展開はこうです。

否数8.45635980004。

肯数の右端、下から上がって三桁目と四桁目の1と1がネックでしょう?

肯数下二桁目の、0の左に更に1があるのでそれを纏めて10と捉え、その否数を100とする。

そしてその100の「1」がある桁には、

そこにもさらに別の1が先に肯数として存在しているのでそれを9の否数にし直して、そこからまた改めてその100にした先頭の「1」を足しての10にしなければいけない。

そしてそこから3の否数7の場所に、右から飛んできた先ほどの10の「1」が足されて8になる。

説明している私でも何を言ってるのか訳が分からなくなる、非常にややこしい計算方法ですが、

これがこの否数法のなので、

目を瞑って頂くしかない。

それにこれはただの足し算です。

そこそこ足し算ができる計算能力さえあれば、それなりに慣れるでしょう。

いえ、慣れてください。

そうとしか、私からも言えない」

 そう言うと真理は思い出したように首を振る。

「まあ、そんな話はいい。

話を戻します。

この肯数を、その否数に展開することを否数法では、

「否数に訳す」と言います。

つまり「否数訳にする」と慣習では呼称する。

そしてその肯数を、その否数訳トランスレート・アンとの総和である起数にすることを「廻数に戻す」と言う。

では戻して見ましょう

2.65475131106という肯数に

8.45635980004という否数を足す。

……。

……出ましたか?

綺麗に、

11.1111111111の廻数が……。

なりましたね?

もし、これを電卓などでやろうとして桁数が足りなくなるという状況になるのでしたら、途中で区切って貰っても構いませんよ。

ただし、その時は整数での整数界なら右の最低桁が0になります。

小数点がある小数界なら、0は表示されませんので最後の桁は必ず1です。

しかし、こんなのは計算する時の基本中の基本ですよね。

小数計算では、最後の0を表示する意味はそれほど無いのですから。

だから肯数から否数を求める計算法はここまで。

これからこの否数法の本来の使用目的を述べます。

それはこれが現実世界にある円周率、3.14や他の物理数字、数学数字、化学数字から続く全ての現実数字にも適用できるという事実です」

「あ」

「あ……」

 その言葉に、

 今度こそ、

 章子やオリルは唾を呑み込んだ。

 その喉越しの音がきっと昇にも聞こえたと章子は思いたくない。

「……やってみますか……。

物は試しというヤツです。

丁度おあつらえ向きに章子は円周率の数値を、小数点以下10桁ほどまで覚えている。

優秀ですね。

優秀な主人を持って下僕である私はとても鼻が高い。

どこかの誰かさんとは大違いです」

 そう言って昇を侮蔑した眼差しで見下げ果てる。

「では章子、お願いします」

「……円周率。

3.1415926535……」

「ありがとうございます。

じゃあさっそく、イジってみましょうか……。

これの否数訳は、

7.9695184575。

これを肯数、

3.1415926535の円周率数字と足します。

どうですか?

綺麗になりますね?

最期の桁が0になり、その為に下一桁が減って、整数界の上一桁目が1として繰り上がって増えて出現した、

円周率の廻数。

11.111111111が……。

しかしここで、この1の数字の羅列に一体何の意味があるのか?

そこを真っ先に知りたいと思うのが皆さんでよね?

それが人心というものです。

しかし、

そんな事には意味がない……。

なぜならにはしかないからです。

それは、この現実世界にある、ありとあらゆるについても云えます。

これらこの現実世界にある全ての現実数を、

否数法によって、

全て整数…1110。

あるいは小数11.111…よりの…11…という数字の羅列に変えてしまう意味など、

だからそれは、最後に言いましょう。

今はそんな味気ない1の廻数よりも重要な数字がある。

そう、

円周率の

7.96958……に続く数字です。

この数字、実は3.14で区切ってみると、

その否数は、7.96ではなくて7.9を示すのですよ。

その理由は何故か、分かる人はいますか?」

 見ると今度は昇の回答を待つまでもなく章子が挙手をする。

「3.14の次の下の桁には1という数字があるから」

イグザクトリィその通りです!

さすがは咲川章子。

私はあなたの下僕として感激せざるを得ない」

 うんうんと頷く真理。

「円周率では3.14の4より次の右の桁にでる数字は1、

つまり、これは否数訳で9になる数字が出てくる。

すなわち四捨五入して繰り上げた方が、辻褄は合うのですね。

だから、

3.14の否数は7.96ではなくて7.97になる。

これは他にも、3.14をその廻数11.1の最下桁に更に1を付け足した11.11でくぐらせればすぐにわかる。

それが前にも云った、

円周率パイポイント‐11.11ダブル・イレブン

この数字がここに出てくるのです。

そしてこの数字から3.14を

やってみてください。

11.11から3.14を引いて7.97。

出るでしょう?

ではこの7.97という数字、

これは一体、何なのか。

ちょっと、もう少しだけこの数字を動かしてみましょうか。

そうですね。

今度、動かすのは最初の7がよさそうですね。

ちょっとこいつだけを単独で動かして見ます。

7.97の整数界にある頭の7。

この7を、その否数3で引いて4にしてみましょう。

そしてこの4を今度はで割ってみる。

出てくる数字は、2.97。

……。

実はこの数字、

この自然界ではちょとした重要な数字なんですよ。

今からそれを説明します。

この数字、2.97という数字は、自然界では早々見かけませんが、

その名を「円の内周率」と言います。

円の内周率とはその名の通り、円の直径とその直径による円のの長さとのその比率のことです。

これを分かりやすく言うと、

陸上競技で使用されるトラックのインコースとアウトコースの違いですね。

3.14の円周率が、円の外周比を表わしているのに対して、

2.97の内周率は、円の内周比を表わしてるといっていい。

つまり内周率は円の内側、裏側の辺の比を測るものだということです。

それは円周の裏の曲辺の長さだろうが、球体の裏面積だろうが、球の表面積分の体積を除いた内体積だろうが全て使い方は円周率と完全に同じです。

ただし!

ただし、この2.97は外周率3.14に対しての、

その最大接近限界値であることは、絶対に忘れないでください!

2.97は円の内側の辺線の長さが、そのままで外周3.14にまで最も限界まで接近できる極限の数値なのです。

この世にある全ての線や物質は、この2.97の壁を超えて内周の長さ、厚さを、同じ直径でその外周にある3.14へ迫らせることは決してできないっ。

届かないのです!

それは全てが極限まで細く描かれた曲線による円だろうと、あるいはもっとも薄い物質でつくられた球体だろうと全て同じっ。

この2.97よりも3に迫る内周数値比で、より細く、より薄いで同じ直径の外周比3.14に届く円や球体は絶対に存在することができない事を意味している。

つまり2.97と3.14のその差、

0.17という数字の線よりも薄く、あらゆる物体や全ての極細線は、円や球体として存在できない!

それ以上薄い存在は成り立たない。

それを証明するものなのです」

「そんな……」

 章子は声を上げるが、だが真理は自分の発言を止めない。

「逆に3.14は、

3.14以上にも未満にも同じ直径で円の外周辺の拡張収縮はできない。

3.14はそこが、いかなる細線や物質であろうと、円が円としてある為の、外周が内部の点との間に設定された絶対の固定設定比率なのです。

つまり、

どのような円や球や物質、物体だろうと

この世に存在する全てには、常に0.17という見えない壁、境界線が内包されていることを意味するのですよ。

もちろん私たちのこの体にもね。

その事実を、

円の円周率と内周率に表示される数値は教えてくれるのです……」

 そして真理は、章子たち三人を見渡す。

「そして、この0.17という

つまり0.03と0.14。

3と、3の否数である7の2倍になる数値。

これこそがこの私たちの世界の全てを形作っているとも言える。

思い出してください。

あなた方は見た事がある筈です。

この0.17が求められる素となった数字。

その2.97に似た数字を。

これがどこか、物理や、この世界の何処かで存在していることを……」

「……そんなっ」

「……まさかっ」

 真理の言葉に、章子とオリルは大きく目を開かせる。

 だが章子やオリルたち二人の少女の反応とは裏腹に、昇はキョトンとしていた。

 その表情は完全に無反応に近い顔だった。

 そのトボけた顔を視界の端に入れて、章子は痛感する。

 知らないのだ。

 いや、もしかしたら覚えていないのかもしれない。

 位置エネルギーが現われるまでは、

 それまで世界で最速の速度を誇っていたものの数値を。

 章子は今ほど、目の前の昇ぐらいに無知であることが羨ましいと思ったことは無かった。

「そうです。

それで合っている。

それは、地球にいた頃、

あたなが必死になって覚えた数値です。

咲川章子。

そこのその頭がカラッポそうな顔をしている少年に、あなたが一生懸命に追い付こうとして、頭に叩き込んできた数字……。

その数値。

光速度、

毎秒、

,2,458メートル。

これこそが、

現代人類世界を含めた七つの地球時代世界の全てで、同じ長さの基準となっている数字です」

 その言葉はつまり、全ての古代世界が同じ長さの幅のものを単位として使っているという事実を意味する。

「では今度はこの数字、光速度の数値にメスを入れていきましょうかね……」

「あ……」

 真理の躊躇の無い声に章子は自然と声を上げてしまった。

「どうしました?

章子?」

「い……いや。

なんでもないわ……。

真理……」

 改めて首を振って章子は項垂れていた。

 その数字に触ることだけは憚られたのだ。

 だから思わず声を上げてしまった。

 その数字に触れてはならない

 それは神にも等しい数字だと、章子の本能が全力で警告している。

 だが、そんな事を目の前の神の娘が気遣うはずもない。

「大丈夫です。

安心してください。

ではやってみましょう。

この光速度、

299792458。

これの否数は、

811318652。

ふむ、

中々いい感じの数字が出てきましたね。

そうは思いませんか?

では今度はここから上二桁目までの頭数、81だけを区切って単独で動かしてみましょう。

取りあえず最初は81からその否数29を引いてみます。

これで数は、

52になる。

うーん。

まだ大きいですね。

割ってみますか……。

しかし2で割るにはかなり大きいですので、ここは思い切って、

で割ってみましょう。

それで出てくる数字は……13。

これを81の下にあった数ともう一度、繋げてみましょう。

131318652。

ではここに、一番上から二桁目の3に、を足して見たらどうですかね?

141318652。

ひっくり返してみましょう。

256813141。

……最期は、この数字の中にある3の後に小数点を付けてみて、更に下一桁目の1の背後に円周率の3.141以降の数字を付け足して見ましょうか。


…256813.1415926535……。


出てきましたね。

これで。

円周率3.14の整数部の3の先の左の桁に出てくる数字は1。

その次が8。

これがこの世界の答えなんですよ。

ここまでやって、やっと円周率の最期に来る数字がこれで間近に目にすることが出来る。

円周率は実は循環小数であり、無限小数だった。

それがここに説明される。

それをこの否数学の否数法が、

の仕組みの全てを暴くのです。

しかし、そんな大それたことを言っても。

端から見れば、

こんなものはただの数遊びにしか見えませんよね?

何故なら、

なぜ光速度の否数から頭の数81だけが切り取られるのか、

なぜそれを29という数字で引くのか?

なぜそれをという数で割るのか?

そして、

なぜ、出てきた13という数の3に、

1という数字を足すのか?

そして、最後に、

なぜ、

その数字を唐突に、回文数のように

百歩譲っても、ただ似ているだけとしか言わざるをえない、

光速度からきた3141という数字の後ろに、わざわざ円周率のそんな別の数字を繋げようとするのか?

これに対して、まったく何の説明もないからです。

ではその理由を今から掻い摘んで説明していきましょう」

 そう言って、静かに起立したままの真理が親指から中指までの三本の指を立てて見せる。

「……突然ですが、

私たち、今ある全ての命は今、

ここに、三つのかずを持ってこの現実世界に存在し、一生を生きています。

その三つの1とは言うまでもない。

この世界に、

私たちが

産まれた時のかず

さらに今持っている命のかず

そしてこれから先で天命を全うするだろう、これから死ぬかず

の、この三つの1です。

我々、命あるものは例外なくこの三つの1を持って、

今のこの時を生きている。

しかし、

我々はまだ死んでいないので、死ぬ数だけは0.9です。

それをここで生きていくための体とし、

それら全てを合わせて2.9とする。

だから我々は2.9という数字の体を抱えて、この世界を生きているのですよ。

そしてその2.9という数字を抱えて死を迎えた時。

0.9に0.1が足され1になり、死という1が

しかし、

そこで最期の1が足されようとも、

そこで3という数字が完成することは永久に無い。

3という数字が完成される前に、他の数字は、死という1がカウントされたと同時に、存在できないからです。

死ぬのですから。

だから、

産まれたというかずも当然無くなり、

命そのものであるかずも当然なくなるのです。

そして、当然、それらの合わさった数、2に依存していた0.9という身体も存在を保てない。

だから死ぬ数、0.1はそのまま、のです。

3に届かない2.997という数字で我々すべてをこの世界に縛る光速度、

その光速度に永久に捕らわれたままである、

一つの命の死という事実が、

現在の命の数を表わす2.9の29という同じ数字である、

光速度数の頭二桁にある、29からの否数81がその肯数で引かれ、更にこの体や世界を構成するで割られて求められた、

13131の上二桁目の3にね。

これで、

この時に初めて、

14131という、円周率3.14の逆順番号ができる。

そしてこの時の、

この数字のの意味とは、非常に単純です。

繰り返すのですよ」

「え?」

「繰り返すのです。

我々は、

死んで自分が持つ1という数字を

さらにまた、

同じ場所に産まれ、

そして、また、

死んで

さらに、

また同じ位置に産まれ直されて、

繰り返す。

同じ場所から、同じ位置で、同じこの人生という1をっ!」

 章子は真理が突然何を言い出したのかが分からなかった。

「我々はまた死んで再度、繰り下がり、

さらにまた、この同じ体に繰り上がって産まれ直され、

また同じ過去の位置に誕生し、

そしてまた同じ事をして、この同じ人生をまた繰り返すのですよ。

死によって繰り下がった1がまた3を4にし、

生による1として4と3の間にある1を通過して繰り上がり、

3.14の3から、また3という同じこの2.9の体で同じ場所から生まれ、

また光速数の否数変換1313の頭からの3を、繰り下がった自らの1という死の数によって1413に変え、

4と3の間にある1を通り、

また繰り上がって同じ3.14という球体のこの母星大地の3から未来で死ぬ数1を引かれた2.9の同じ体として、3の次にある出生時の1と同時に刻まれた、また同じ最初の位置にいる同じ母親の体から産まれるのですっ。

そして、また、

死んで繰り下がっては、

繰り下がった過去から、

また同じ1として繰り上がって産まれて、

この同じ世界の時間を繰り返す!

永遠に!

……私は、

いえ、

この否数法は、そう言っているのです。

我々は、

いえ、

この世界に存在し得る全てのものは完全に

とね。

それは別に誰かが考えて、そうなろうとしてなったわけでは、きっとない。

これは多分、誰とも知らずにそうなるようになってしまったのです。

それをこの否数法は教えてくれているのですよ。

なぜならこの否数法によって導かれる全ての現実数の解とは全て、

……11.11……の廻数によって説明されるのですから。

ではこの……11.11……より表わされる肯数と否数の総和である起数、

廻数の、

大分前に言った、たった一つの存在意味を教えましょう。

この廻数パイマスはね、

その…11…という数字の羅列だけで、この現実世界の全ての仕組みを余すことなく、

こいう風に説明して言って教えてくれているのですよ……」

 そして真理が次にいう言葉。


「この現実世界は全て、たった1つの一進法だけで成り立っている」


 その言葉に章子もオリルも昇もどれだけ息を止め、衝撃を受けたかは言うまでもない。

「……とね。

これがこの現実世界の全てにある全てのの答えなのです。

否数学の否数法による全ての廻数はそう言っているのですよ。

そしてこの事実が、

原理学の終わりであり、

また、純理学の全貌でもあり、

この全宇宙と、

この全宇宙の全法則、全理論を含めた、

全ての現実世界への疑問への最終回答でもある。

もう一度言いましょう。

いま、我々のいるこの全ての宇宙を含めた現実世界は、

一進数の一進法によって永遠に動かされ、廻され、それで成り立って

構築され、構成され、存在させられているのです」

 それを証明するのがこの否数学の否数法だった。

 なぜなら否数学の否数法とは、全てのこの世にある、ありとあらゆる数字の全てを……。


「否数学の否数法とは、

この世にある、ありとあらゆる全ての数字、数進法、数進数を、全てたった一つの……、

一進法に訳すのですから……」


 この事実が、これから章子たち三人の少年少女たちを真理学への入り口へと誘う門だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る