第8話 濁点

 ド田舎に病院を作ったら、人間より人外の者たちの方が多く来るのには驚いた。そんな日常にもやっと慣れかけたころの春の話。


ドンドン。

診療時間終了まぎわ、もう閉めようと思ったときに限って誰か来る。

俺  「は~い」

あけると、テングが立っていた。2mはある大男。長い鼻にヒゲ、高下駄の姿だ。


テング「うー、熱がでてるんですが」

俺  「おや、どれどれ……ああ、こりゃ

    デング熱

    ですな。お薬だしましょう」


そこへ、ドンドン。

俺  「は~い」

あけると、シカが立っている。


シカ 「むー、熱がでてるんですが」

俺  「ふむ、こりゃ

    ジカ熱

    ですな。お薬だしましょう。」

シカ 「ありがとうございます」

俺  「性的交渉でも、うつるのでおひかえ下さい」

シカ 「……はい。ポッ」

俺  「ははは、顔を赤らめちゃって。お大事に~」

テング「ポッ」

俺  「あんたは、赤らめんでもいい」


そこへ、またドンドン。

俺  「もう、またか」

あけると、イヌが立っている。


イヌ 「ひー、熱がでてるんですがワン」

俺  「はいはい、風邪ですね。この薬持って帰れ」

イヌ 「ちょっと、まってワン!

    ボクもなんかの病気なんでしょ?

    イ゛ヌ熱 かなんかなんで、性的交渉でうつるんでしょっ!?      ……ポッ」

俺  「ないない。

    何、勝手に顔赤らめてんの!」

テング「ポッ」

俺  「え~い、あんたは顔赤らめんでいいっつってるだろ!!

    とにかく、そんな熱なんぞないから、はよ帰れ!」

イヌ 「ひどー。なんでボクだけ扱いが雑なんですかワン!!」

俺  「なんだと~!?

    大体、さっきからきいてりゃ『イ゛ヌ熱』?

    『イ゛』ってなんだ? 『イ』に『”』って?

    そんな発音は日本語にないぞ!?

    そんな事いうのは、

    この口か!? この口なのかあっ~!!」

イヌ 「イ゛デ デ デ デ~、グ ヂ の゛バ ジ、ヅネルのやめで ~ ワ゛ン゛」

俺  「わかったら、もう帰るんだああ~!!

    グズグズしてると、意味なく太いハリでビタモン注射うつぞっ!」

イヌ 「わ゛~! お゛だ ず げ ~ だ ワ゛ン゛」

テング「うん、うん」

俺  「あんたもだ、あんたも!

    はよ帰れ! 何うなづいてんの!?

    ……ったく、春先で発情期になるとろくな客がこんわ」

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SFギャグ集「カンガルー先輩」 印度林檎之介 @india_apple

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