第4話 進歩


俺はラーメン職人だ。


今日、俺の店、

有名ラーメン店『がんこ職人 元祖けちゃっぷラーメン 岩雄』

にカップルが訪れた。


断片的な会話から、

二人ともラーメン好きで早食い自慢であるので意気投合した事、また、本日が初デートであるので早食い勝負をするつもりなのが分かった。カウンターに座った二人が注文したのは、

「濃厚クリームけちゃっぷ エベレスト盛り」


正直、おれ自身完食したことがない、年に数回しかない超特盛りだ。

この前もTVの生放送で有名な大食いチャンピオンがやってきたが、7合目付近で遭難、放送中泣きながらスタッフに土下座してロケは中止、彼はその後引退に追い込まれたといういわくつきのメニューである。

完食すれば料金はただになるが、たべきれず「遭難」と言う事になれば料金は一万円いただいている。


「へい、おまち!」


俺がエベレスト盛りを出したとたん、店の空気が一変した。

二人から殺気のようなものが感じられ、店の空気がピリッとした。


男は割り箸をとるやいなや、ポケットから割り箸をもう一本出し、割り箸3本を右手に握ると、麺をはさまずにフォークのようにすくい口の中に連続して放り込む。


女はと見ると、割り箸を割るとさらに真ん中から真っ二つに折り、両手に持って麺をすすり始めた。


二人は無表情で食べ続け、なんと二人同時に完食した!!

だが、緊張した雰囲気はとけず、二人はののしり合いを始めた。


「何よあんた! 麺を箸ですくうってバカじゃないの!? しかも箸3本ってどういうことよッ!!」

「君こそなんだ! 箸を折って両手で食べるってのは!? まるで、カニがエサを食ってるみたいだぞッ!!」


そして、つかみ合いのケンカを始めてえらい騒ぎだ。

店中を巻き込む大騒ぎとなったが、最後は常連とスタッフに店の外につまみだされた。



俺はその夜、家に帰るとラーメンを作った。

そして、両手に箸を3本ずつ握り麺をすくって食べてみた。

「……べんりじゃねえか、これ」

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