この家のことは一年しかいないとはいえ、大方覚えている。間取りも例外ではない。毎日のように通るルートであるから当然、家の中ならなにも意識せず目的地に向かう事ができる。私は部屋を出たあとそのまままっすぐ洗面所へ向かった。


不思議なことにこの時自分の顔を鏡でみることは叶わなかった。仕方なく、毎朝しているように顔を洗った。温水と冷水で一回づつするのは私の日課だった。水気をタオルで拭き取り、何気なく顔をあげた。


鏡に写っていたのは、なんてことはない、ただの私の顔だった。私の顔に見えた。


ほっとしたのも束の間、違和感を覚える。私はこんな顔をしていたか?と。

各パーツはこんな風にならんでいただろうか。いやそもそも、各パーツに馴染みがない。大きな目に薄い唇、コンプレックスである低い鼻にそれなりに整った歯並び、丸顔気味な輪郭。すべて私であるはずだ。なのに、嫌な違和感がぬぐえない。なぜだ、なぜ自分の顔で動揺している?いやそもそもこれは自分の顔なのか?もし…もしこの違和感を信じてこれが自分の顔でないとしたら、


私は、誰なんだ。

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