1

わたしは松下杏子、19歳。

実家から上京し、アパートで一人暮らしをしている。

幸い実家は裕福で、バイトなどはせず親からの仕送りで毎日慎ましく生きている、普通よりすこし幸せな大学生。


そんなわたしでも、それなりにストレスが溜まるときはある。例えば、友人関係や授業に関すること。時たまストレスが溜まりにたまって、どうしようもなくなってしまう場合もある。

そんな時にわたしがすること。それは、


『小説を書くこと』


自分の中の暗い部分を筆先にのせて、その時の勢いのまま書き上げ、小説として昇華させてしまうのだ。


この方法に出会ったのは丁度1年前、大学受験の時だった。わたしがいるこのQ大学は、決して広き門ではない。むしろ狭き門の部類にはいるであろう。そんな大学に、当時のたいして頭のよくないパッとする所もない一高校生が入るためには、それなりの努力が必要だった。結果、当然というか必然というか、受験ノイローゼにかかってしまった。このままではまずい。受かるものも受からない。そんなとき、なんとはなしに勉強用のノートに数行の詩を書いた。たしか、

「わたしがしていることは他のひともしていることだから、他のひとがしないようなことをしたい」

みたいな内容だったと思う。この詩を書き終えた瞬間、心にある暗いモノたちが、一瞬で消滅したのを感じた。


それからというもの、受験の焦りのなか、わたしはいま焦っているこの状況を描写した詩をかいた。何枚も何枚もノートを犠牲にして。そのうち、詩より小説のほうが解消されるのではないかと思い、短編小説を書いた。案の定、消滅量は多くなった。原稿用紙にも書くようになった。


この習慣は受験が終わった今でも続いている。この1年ほどで、したためた詩は4つ、小説も4作となり、今も全てファイリングして引き出しにしまっている。読み返すことはない。…すこし、恥ずかしくなるから。


そしてわたしは今、5作目の小説をかいている。題材は、自分のこれまでの生き方だ。

『―わたしは今まで、沢山の人々に助けられ、救われ、育まれてきた。それなのにわたしはいまだお返しができていない。なにか、恩返しをしたい。そう思った。』

続きが思い浮かばず、思わずうーん、と唸る。元々ただのストレス発散のためにしていた執筆は、3作目くらいからは趣味の一環になっている(勿論ストレスを発散するためでもあるのだが)。


集中が切れたのか、多少の眠気を感じ時計をみる。午後11時。明日も学校があることだし早く寝なければ。きちんと授業を聞かないと一瞬でおいていかれるから、授業中に寝ることは許されない。


続きは明日しようか、とわたしはペンをおき、ベッドに入ってすぐ眠りについた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る