第38話 隠していたこと

 意味深な言葉を吐いた茂を先頭にして岩陰から出ていく、一応主役は茂になるからな、次がエルとその頭に乗って従魔の振りをしている俺、マドカ、ルリと続いていく。

 勇者⇒救われた王女⇒エルを救いに来た親友の王女⇒エルの親友というような順だ。


 こういう時、俺はしゃべらなくていいから楽だな。


「我は戻った! 出迎えのものよ! 凱歌を上げるのだ!」

「おおおお! 勇者さま!!」

「勇者様が戻られたぞ!!」

「ぶっ」

「勇者様ぁぁぁあ!」

「エルは!? エルは無事なのか!?」

「あれ? どなたか今吹き出さなかったですか。」


 こ、こいつどんなキャラ作っちゃったんだよ、一人称どうしたんだよ。

 あとルリさん、気持ちは凄くわかるけど、吹き出しちゃだめだよ。俺今ものすごく頑張って耐えたんだから。


 あっ、やばい、後ろから見える茂の首筋がマドカの肌より赤くなってる。今の喧騒の中でルリが噴出したのに気が付いたのだろうか?


「笑うなと言ったのに・・・。」


 茂が人でも殺せるんじゃないかと言うほど恨みがましい目を向けてこっちに囁いてきた。


 いやいやいや、俺じゃない俺じゃない俺じゃない。


 必死に小刻みに体を震わせ、目で否定するが茂の目線は益々強まるばかりだ。


「クリフォード! なにしてるにゃ! しゃんとして前を向くにゃ!」


 白猫に耳元でささやかれ我に返った茂がハッと前を向く。俺は淀みない「クリフォード」を聞いて我慢できなくなり下を向いた。


「なんで勇者殿はいきなり口調が変わったのダ?」


 マドカよお前は鬼か? ・・・って鬼か。じゃなくて。

 すかさずルリがフォローを入れる。


「マドカ姫、あれはキャラ作りと言うものなのです。ああやって、いかにも勇者っぽい感じを演出してるのです。」


 茂の肩が小刻みに震えだした。急な振動に肩に乗ってる白猫が慌てて爪を立ててしがみつく。

 痛そう。


「クリフォード! 危ないにゃ! 何してるにゃ! 早くエルフの姫君を助けたことを報告するにゃ!」


 頑張れ勇者! 無慈悲かもしれないが、俺は心の中で応援することしかできないのだ。


「ひっ・・・ひっ・・・。」


 ・・・勇者さんもう泣いてない? 大丈夫? 


「・・・へ、ぶ、無事! エルフの姫を助けてきた! 道を開けよ!」


 何とかセリフを絞り出した茂の肩越しから、ひょっこりとエルが顔を出した。小太りのおっさんと門番の犬耳のおっさんと背が高く耳の長いナイスミドルなおっさんと1人の凛とした感じの美女の姿が見える。


「おおおおおお!!」

「勇者様バンザーイ!」

「エルぅぅぅぅ!」

「国王様、あまり走ると危ないですよ。」


 声でけぇ、勇者がここにいるのは秘密じゃなかったのか? 帰ってきたから解禁されたのか?


 ってあれ!? なんかナイスミドルおっさんが1人こっちに突っ込んで向かってきてるんですけど!? なっ・・・。


「うわぁ!」「お父様!」「エルぅぅぅうう!!」「ほげっ!」


 ドゴッ!! ベシャ!!


 おっさんがエルに向かってタックルしてきた。おっさんの背がかなり高かったため、エルの頭の上に乗っていた俺は反動でおっさんの顔面に思い切り張り付いてしまった。


「モゴ! モゴゴゴ!!」

「お父様ー! 苦しいですー!」

「うわああおっさんの汁がああ!」


 俺が張り付いていることも気にせず、おっさんがエルにしがみついている。

 おっさんの涙やら汗が俺の中にしみこんでいく・・・うげえ気持ち悪い、突然のことに驚いてしまい上手く体が操れない。


 しかしお父様ってことは・・・この人がそうなのか?

 マドカのうしろでルリが顔を引きつらせているのが見える。


「エ、エル? このお方がもしかして・・・。」

「は、はい、私のお父様の・・・。」

「モゴ! モゴゴゴ! モゴ!」

「そうだ! 余がゼルディアス王国の王! レナード=ゼルディアスである!・・・とおっしゃられています。」

「マジで!?」


 いつの間にかそばに来ていた凛とした感じの美女が答えてくれた。そうかこのなんだか落ち着きのない人がやっぱりエルフの国の王様なのか。


「オオ! レナード王! 儂はオーガの国の第一王女マドカ! 久方ぶりでございますナ!」


 マドカがいつもの迫力で自己紹介する。でもマドカの敬語って初めて聞くな、なんか新鮮な感じだ。

 てか早くどかないと。おっさんの肌の上とか気持ち悪くてしかな・・・うわあ! 動くな! 危ない!


 おっさんは首をぶんぶん振ってマドカに答える、俺は落とされないのに必死でしがみついてしまった。



「モゴ! モゴゴゴゴゴゴゴ・・・モゴ・・・モゴ・・・モゴ・・・。」

「おお! マドカ姫も手伝ってくれたのか、感謝する。とおっしゃられています。」

「アア! もちろんだとモ! ん? どうしたレナード王殿?」

「モゴゴ・・・モゴ・・・モ・・・。」

「息が・・・できない・・・とおっしゃられています。」

「あっ」


 急いで離れようと身体を動かしたが時すでに遅く、ドシーンと音を立てて王様が倒れてしまった。

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