第37話 父です

「ゆうしゃさまああああ!!だいじょうぶですかああああ!!」


 不意に洞窟の入口の方から大きな声が聞こえてきた。


「なんにゃ!?」

「勇者殿を呼んでいるナ。」

「俺!?」

「あっ! 芳雄様、扉!」

「あっ!」


 まずい! そういえば閉めるの忘れてた!


「まずいなぁ、”この扉は俺がエルフの姫を救い出したらまた開くだろう”って領主の人に宣言してきちゃったから、ひょっとしたらエルフの姫を迎えるためにデザートの街のお偉いさんも来てるかも・・・。」

「マジか、なぜにそんな宣言したんだお前。」

「いや、恰好つくかなぁと思って。」


 この中二病が! 名前の件と言いこの世界の雰囲気にのまれすぎだ。


「とりあえず積もる話は後にしましょ。勇者様、きっと門番が貴方を心配して降りてきたんだと思う、焦ることは無いわ。」

「なるほど、そうだな。じゃあ、そのーエルさん? 出来れば俺が研究所から助けたって体で演技してもらえないだろうか?」

「はぁ・・・。」

(どうします?)


 エルがテレパシーで確認をとってきた。


 うーん・・・でも考えてみると俺みたいな得体のしれないスライムが助けたことになるより、勇者が救ったってことにした方が色々と面倒にならないんじゃないだろうか。

 俺がなんであんなところにいたのかとか説明できないし、そもそもエルにはあんなことやこんなことをしちゃったし・・・エルフ国王にばれたくないことが沢山あるからなぁ。


(そうだな、俺が助けたことになるより茂が助けたことになった方が無難だろう。それからごにょごにょ・・・。)

(わかりました。)

「では勇者様に話を合わせることにいたします。」

「そうか! ありがとう!」

「正し条件があります。」

「条件?」

「ルリ、マドカ姫そして芳雄様を勇者のパーティーとして紹介してほしいのです。」


 勇者一行が出た後に扉を閉められても困るし、正直言って茂とこの猫とエルだけだと、とても不安だからな。


「仕方ないにゃ。」

「え、それはちょっと困るというか・・・。」


 茂、確かに同級生の前で自分の考えた中二ネームで呼ばれるのはきついと思う、しかし俺から送れる言葉はこれだけだ。


「あきらめろ。」

「うわぁぁぁあああん。」


----


?????


「あたくしはまだ生きているわよ・・・。」


-----


ダンジョンの入口近くの岩陰にて。


「勇者様は無事でしょうか。」

「まさかここから魔物が飛び出してきたりはしないですよね!?」

「エル~!! 無事でいてくれ~!! おい! 門番! もっと声を出すのだ!」

「はいいいい! ゆうしゃさまああああ!!!」


 入口の方からいろんな人の声が聞こえてくる。なんかエルの心配してる人がいるがエルの知り合いかだれかだろうか。


(おそらく父です。)

(マジか!?)


 ってことはエルフの国の王様!? いやいや、来るにしても早すぎるだろ!


(父は魔術の天才と言われています。恐らく勇者が帰ってくると聞いて転移魔法で飛んできたのだと思われます。)

(にしても早すぎるだろ、俺たちがあの扉を開けたのってついさっきのことだぞ!?)

(まぁ、その・・・そういう人なので。)


 エルが困ったような顔をして答える。

 普通国王が別の国に行くこと自体結構大変なことだと思うんだが・・・この世界の常識では違うのだろうか。


「おい、しげ・・、あっ、クリフォード!」

「なんだよ!わざわざ言い直すなよさっきまで茂って言ってくれてたじゃんか!」

「いや、人前ではまずいだろ? もうクリフォードって名前で知れ渡ってしまったんだし。」

「ぐぬぬ・・・。」

「そんなことより、お前エルフの国の王様にも姫を助けるって知らせたのか?」

「え? ああ、うん一応俺がこの世界で一番最初に降り立った国だからね。そもそもエルちゃんの救出もあの王様に依頼されたものだし。」


 そうなのか、でも俺が扉を開いて数時間しかたってない気がするんだが、どうやって知ったのだろうか?


(父は私の事になるとちょっと見境が無くなるところがあるので・・・。きっと国の極秘諜報機関を総動員しているのだと思います・・・。)


 極秘にしなきゃいけない物をさらっと使って大丈夫なのだろうか・・・。いや、でも自分の娘の事だしなぁ親としてはそんなものなのかもしれない。


「クリフォード、あとは誰がいるかわかるか?」

「~~~~!!! 死にたい! 喉かきむしって死にたい!」

「いや、もうその件はいいから。」

「はぁ・・・、多分声からすると一人はこの街の領主のバレルさんだと思う。でも今そんなことを聞かなくてもどうせ芳雄たちは初対面って体で話すんだからいいだろ。」


 言われてみればそれもそうだ、あんまり情報を知りすぎて逆に不自然になってしまったら本末転倒だわな。


「じゃあ、改めて確認するけど俺たちは旅の途中勇者に選ばれた仲間たち。エルはこの先の研究所でし、クリフォードに救われたってことで。」

「了解しタ。」

「わかったわ。」

「わかりました。」

「はい、にゃ。」

「・・・。」


 ん? 茂だけなぜか思いつめたような顔をしている。どうしたのだろうか?


「どうした? し・・・クリフォード?」

「芳雄・・・。」

「ん?」

「これから何があってもぜっっったいに笑うなよ!」


 ものすごい剣幕で俺に詰め寄ってきた。


 え、こいつまだなにか隠してるのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る