第36話 うさん臭い白猫 其の三

「えーと・・・、この上の砂漠っていうと・・・デザートの街から研究所に行く途中にある・・・?」

「その通りにゃ、この上の砂漠は魔獣のひしめく危険地帯のはずだからにゃ。そこの姫が砂漠の真ん中で危険な目にあっても大丈夫なように、一応作っておいたにゃ。」


 ふぇ!? じゃあエルが危険な目にあったのは俺のせいということでもあるのか・・・。


(芳雄様)


 エルが俺に触れてテレパシーで語りかけてきた。今日はなんか察しがいいね。


(まだ確定じゃないけど・・・それっぽいよな・・・。)

(というかほぼ確定かと・・・。でも、私が芳雄様のおかげで助けられたのもまた事実ですから、ご自身の責任など感じないでください。私はただ、芳雄様に感謝しておりますので。)


 天使や・・・天使がおるで・・・。


 しばらくエルと見つめあっていると、猫が訝しんで声をかけてきた。


「なに黙ってるにゃ?」


 やばい怪しまれる。


「い、いや何でもない、まーそのーなんだ。俺が凄い回復力を持つ水になれる能力を”偶然”持ってたからな、運よくエルも助けられたということなんだ。」

「そうだにゃ・・・僕の計画も詰めが甘かったにゃ・・・。危険な目にあわせてすまなかったにゃ。」


 その言葉に猫は初めて申し訳なさそうな顔をし、顔を伏せた。

 うっ、なんだろうちょっぴり罪悪感を感じる・・・。でもこいつの計画の甘さがエルを傷つけたのも事実だし、謝罪もちゃんと受け取っておかないとな、それにまだ危険な目にあったやつはいるしな・・・。


「いえ、天使様に頭を下げて貰うほどの事では・・・。」

「まぁエルへの謝罪は受け取っておくとして、ルリの事はどうするつもりだったんだ?」

「ルリ? 誰の事にゃ?」

「わ、私です。」

「お前がどうかしたのかにゃ?」

「私はエルを助けようとしてあの研究所に捕らわれ、身体を改造されそうになってしまったのです。」

「そ、そうなのかにゃ、僕はそのエルフがあの研究所に来るように運命をいじっただけだったからにゃ。関係ない者を巻き込んでしまってすまなく思うにゃ。」

「い、いえそんな、私の事はいいんです、エルを守ろうとしたのは私の意志だし。でも・・・やっぱり私もエルを危険な目に合わせたことに関してはいくら天使様でもちょっと許せないですね・・・。」


 ルリも遠慮がちながら責めるような視線を白猫に向ける。

 猫も自分のしたことで二人を傷つけた事実を理解したのか、顔をうつむかせ、沈黙してしまった。


 しばしの間、重苦しい空気が場を支配する。


「みんなちょっと待ってくれないか。」


 沈黙を破った茂に全員の視線が一斉に向かう。


「あ、うん、あのみんなそんな怖い顔しないでね、そのー、テンテンにも理由があるんだよ。」

「理由?」

「そうにゃ、魔王を倒すために僕たちはどうしても優秀な仲間を集めなくちゃいけないんだにゃ。」

「エルがそんなに優秀なの?」

「優秀にゃ。」

「ま、私が優秀だとしまして。」


 だとしちゃったよ。


「そのー・・・、魔王が復活するのがそんなに大変な事なんですか?」

「そうだな、まさか世界が滅ぶとかベタな事は・・・。」

「滅ぶにゃ。」

「え?」

「このままだと世界が滅ぶんだにゃ!」


「「「な、なんだってー!?」」」


「ウソダナ。」

「にゃ!?」


 白猫の一世一代の告白と俺たちのリアクションをマドカが一刀両断してしまった。

 白くなった目線が一斉に茂の肩に集まる。


「魔王は儂の父上が百年前に討伐したと聞いてイル。ソんな者がポッと出てきて世界を滅ぼせルわけがなイ。」

「にゃ、にゃんだお前は! 何者にゃ!」

「儂カ? 儂の名はサタケ=マドカ! オーガの国の第一王女であル!」


 大仰にマドカが 啖呵を切った、自分の父親の偉業を語れた事が嬉しいのかどことなく満足げな顔をしている。

 彼女だけは天使と聞いても臆することが無いようだ。


「にゃ!? にゃに!? オーガの国の王女がなんでこんなところにいるんだにゃ!?」

「儂はエル姫と親友でな、彼女がさらわれたと聞き、いてもたってもいられず探しに向かったのだがその途中人さらいに捕まってしまったのだ!」

「そんにゃ・・・それじゃお前も僕のせいで・・・。」

「それはよイ、過ぎた事ダ。エルも儂もヨシオのおかげで助かった事だしナ。」

「マドカの親父さんは魔王を倒したことがあるのか。」

「アア、儂が生まれる前にナ。その時の魔王には兵も国もあったらしイ。しかし今回はこれから復活するのであろう? そんな者が世界を滅ぼすような大それたことなどできるわけがなイ。」

「違うにゃ! 今回復活するのはそんな小物じゃないにゃ! 本当の真の魔王なのにゃ!」

「なんだそりゃ、魔王って複数いるもんなのか?」

「本来魔王は一人しかいないにゃ、魔王と名乗るほとんどのやつは自分で勝手に名乗ってるだけにゃ」


 ああ、第六天魔王とか・・・、いや、あれは他称だったけか。


「ナンダト?そんな話は初めて聞いたぞ。」

「私もです。」

「真の魔王は有象無象の魔王たちとは比べ物にならない力を持っているにゃ、なんせ・・・いや、何でもないにゃ。」

「なんだよもったいぶらずに教えろよ。」

「い、いや何でもないにゃ。兎に角、僕たちは世界を救うために旅をしてるんだにゃ。」


 はぐらかすのへったくそだなこの猫、でもまぁそこまで興味ある事でもないし深くは突っ込まないでいいか。

 それにしても天使やら神様やら魔王やら勇者やら本当にゲームの世界みたいになってきたなぁ。


「芳雄、そこでちょっと提案があるんだが・・・。」


 どこか申し訳なさそうな雰囲気を出しながら茂が俺に声をかけてきた。


「なんだよ。」

「魔王討伐にお前達にも手伝ってもらえないかなと・・・。」

「はぁ? なんで? それはそっちの仕事だろ?」

「実は・・・。」


「ゆうしゃさまああああ!!だいじょうぶですかああああ!!」

 不意に洞窟の入口の方から大きな声が聞こえてきた。

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