第34話 うさん臭い白猫

 あの時のクラスの全員を送った!? ・・・じゃあ、他のやつらはどうなったんだ!? 

 俺とテンテンと名乗る猫に詰め寄った。この世界は元の世界と比べたらずっと死が身近にある。実際俺は何度も死ぬような目にあったし、危険な人物やモンスターに会ってきた。あいつらはこんなところで犬死していい奴らじゃない、もちろん全員と親しかったわけじゃないが俺たちは同じ悩みを抱え同士とも呼べる関係を築いていた。


「ちょ、ちょっと待つにゃ。心配するにゃ、お前ら以外のやつらはちゃんと元の世界に帰したにゃ。」

「帰した? じゃあお前、俺たちを元の世界に帰すことができるのか!?」

「だから落ち着くにゃ、今説明するにゃ。」

「茂はなんでこんなとこにいるんだ!? 勇者ってどういうことだよ!」

「ごめん俺もちょっと今混乱してて・・・。とりあえず俺はテンテンに召喚されたとは聞いていた、けどまさか芳雄たちまで一緒に召喚されていたとは・・・。」


 茂が残念そうな顔をしてうつむく、この白猫はこいつとどういう関係なんだ!?


 いや、ちょっと冷静になろう。こいつの言う通り一旦落ち着いて話を聞こうか。


「わかった、落ち着こう。でもまずはこっちの質問に答えてもらうぞ。」

「そうにゃ・・・。僕たちは助けられた側だからにゃ、仕方ないにゃ。」


 仕方ないって・・・偉そうだなこいつ。

 

 俺たちはこのテンテンと言う白猫に、なぜ茂が勇者なのか、なぜエルの事を知っているのか、なぜ俺たちをこの世界に召喚したのかを聞いた。


 テンテンの話は驚くべきものだった。

 まず俺たちをなぜこの世界に召喚したのか。近々魔王が復活するからその対抗策として異世界にいる「勇者の因子」を持つものを召喚したんだそうだ、それが茂らしい。

 俺たちまで召喚したのは「次元の揺らぎ」と言うものが関係しているという。


 「次元の揺らぎ」とは、ある世界とある世界の狭間にある壁が揺らぐ現象の事で、この期間だけは特殊な能力を持つ者は別の世界に干渉することができるようになるんだそうだ。


 しかし「次元の揺らぎ」は限られた時間しか起こらない上に、次元を超えるには”通常の生物は生身で次元を超えることができない”などざまざまな制限があったこともあり、揺らぎが起こった時この猫は仲間の手も借りられずたった一匹だけで俺たちの世界を覗いて勇者の因子を持つものを探したんだそうだ。


 かなり確率の低い賭けだったらしいのだが、奇跡的に俺たちのクラスの誰かがその因子を持っているということがわかったそうだが、そのうちの誰が持っているのかまでは特定はできなかったために、やむを得ずそれから9年後、もう一度「次元の揺らぎ」が起こった時に俺たち全員を魂の状態で召喚し、その中から改めて勇者の因子を持つものを探すことにしたんだそうだ。


「勇者以外の魂はそのままだと本当に死んでしまうから適当な弱いモンスターに入れたにゃ、勇者を見つけた後は厳しいダンジョンのような生存率の低い場所に置いて一度死んでもらい魂の状態にした後元の世界に返したにゃ。」

「なるほど、大変だったっていうのはわかった。しかし急に魔王やら勇者の因子やら言われても頭がついていかないというか・・・なんかお前の言うことがうさん臭く思えてくるんだが・・・。」

「にゃ!? 僕が嘘を言っているというのかにゃ!?」

「芳雄、こいつの言っていることは本当だ。俺が保証するよ。」


 白猫を肩に乗せている茂が割り込んできた、どうもさっきからこの猫の肩を持っているような感じがする。

 白猫を一瞥してから茂に目線を合わせる。


「どうしてお前にそんなことがわかるんだ?」

「実は俺この世界に召喚されたときに・・・。」

「待つにゃ! 茂!」


 白猫が大声をあげ、茂の言葉を遮った。その後何か耳打ちをしているようだが、何を話しているんだろうか? 

 煮え切らない態度に少しイライラとしてきた。


「なんだよ、どういうことなんだよ!」

「ああ、いや・・・その・・・。そう、なんで俺がこいつの言ってることが真実だと知っているのかはだな・・・実際に見たからなんだ。」

「何を?」

「魔王をだよ。」

「なんでそいつが魔王だとわかったんだ?」

「それは・・・、なんといえばいいか・・・俺が勇者だから?」

「そりゃないわ! わけわかんねえよ!」

「すまん! 俺もあんまり詳しくは言えないんだ、兎に角俺を信用してくれないか、こいつの言ってることは真実だって、それにお前だってなんでこの世界に召喚されたかなんてわかってないんだろう? こいつの言っている事以外に考えはあるのか?」

「あー? そりゃまぁ、うーん・・・。」


 正直言って茂の言っていることは要領を得ないし、俺の不信感は増すばかりだ。しかし、確かに茂の言う通り、俺はなぜこの世界にやってきたかなんてわからない。考えてもわかっているのは穴に落ちて気が付いたら砂漠の真ん中にいたって記憶だけだ。

 俺が具体的な事を話すことができないなら、これ以上突っ込んでも無意味かもしれない。しかしまだ気になることもある。

 

「しかしなんでわざわざそんな回りくどいやり方なんてしたんだ? お前が帰せば良かったんじゃね? それになんでお前が魔王が復活するとか知ってるんだ?」

「そ、それは・・・秘密にゃ! 言うわけにはいかないにゃ。」

「はぁ!? それも言えないのかよ。それならどうやってお前の言うことを信用しろって言うんだよ。」

「ぬうう、仕方ないにゃ、誰にも言うにゃよ。」


 それを聞いた茂が猫に耳打ちする。


「いいのか? テンテン。」

「まぁこれぐらいは問題ないにゃ。」


 改めて俺に向き直り。言葉を続ける。


「猫の姿に化けてはいるけど、実は僕の正体は天使なのにゃ。とあるお方の密命で下界に降りて魔王討伐の密命を受けているんだにゃ。」


 俺の頭の中にO-ピー3分クッキングのBGMがなり響いた。

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