第33話 圧
「芳雄ぉぉぉぉおおお! 俺がクリフォードとか名乗っていたのはどうか秘密にしといてくれえぇぇぇぇえええ!!!」
「知らんがな、っていうかもうその名前でこの世界の隅々まで知れ渡ってしまったんだろ? もう遅いわ。」
クリフォードと言う偽名はマジで自分で考えた名前らしい、その完全日本人顔でクリフォードはないだろ。
俺に縋りついてくる茂を一蹴してエルの救出に向かう。
「大丈夫かー?」
「挟まってますー。」
「いや、そうじゃなくて。怪我はないか?」
「はいそれは大丈夫なんですけど・・・、ちょっと苦しいですー。」
まぁ、こうなったのには俺たちにも責があるからな、助けてやらないとな。
エルには引っかかるところが無いと思ってしまったから・・・。良かったなエル・・・引っかかるところがあって。
「あのー、何を黙ってるんですか?」
ちょっとエルの言葉に棘がある気がするのは気のせいだろうか。
「とりあえず、マドカとユリはシゲ・・クリフォード(笑)をつれて向こう側に回り込んでいてくれ、こっち側より向こう側の方が広くなってるみたいだから、向こう側から引っ張ってくれ。」
「わかっわ。」
「わかっタ。勇者殿、行こうカ。」
「やめてぇぇえ。お願い、俺が悪かったです! 茂ってよんでええ!」
「坂本芳雄・・・嘘にゃ・・・そんなはずないにゃ。」
クリフォード(笑)と白猫を担いだマドカたちを見送り改めてエルの救出に向かう。色々と気になることはあるが、何はともあれこっちが先決だ。
「どうなってる?」
「お尻と胸の部分が挟まってますー。」
「(ちゃんとあったんだ)よし、じゃあこっちから押してみるわ。」
自分の体を平べったくしてエルの身体を片側から押してみる。
「んんー! ・・・だめですー。がっちりはまって抜けないですー。」
だめか。きっと俺たちの戦闘に参加しようとして、無理に抜けようとしたんだろう。いくら押しても抜けそうにない、長い耳が邪魔そうだ。
これ以上力をこめると怪我をしそうだし・・・さてどうしたものか。
「んー、なにか潤滑油のようなものがあるといいんだけどねー。」
「潤滑油ですか? そうだ! ・・・したらどうですか?」
何事か思いついたらしいエルはとんでもない提案をしてきた。
「へ?」
「お願いします。」
「いやいやいや、まてまて。」
「でもこれ以外に方法が・・・。」
確かにこの方法しかなさそうだけど・・・しかし・・・。
「お願いしますー! やってください!」
まぁこうなったのは俺のせいでもあるからなぁ・・・。本人もこういってるし恥ずかしがってる場合じゃないか・・・。
「よし、じゃあじっとしてろよ。」
そう言って俺はおもむろに自分の体をエルと壁の間に滑り込ませようとする。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
圧がかかって気道が締まってしまったのか、エルの息が荒くなっていく。とりあえず、一番怪我の可能性が大きい耳をスライムでコーティングしておこう。
「ああ・・・耳が楽になりました・・・気持ちいいですぅ・・・。」
次に身体・・・特に胸と背中、お尻と股の部分にスライムを滑り込ませていく。
「ひゃううん!」
「すまん! ちょっと強かったか?」
「いえ、ちょっとびっくりしただけです。続けてください。」
「そうか、痛くなったらすぐ言えよ。」
エルの体の感触が直に伝わってくる・・・、圧のせいで何だか体全体でエルの事をぎゅうっと抱きしめているような感覚だ。
「はぁ・・・、はぁ・・・。」
「ごくり・・・。」
また少し圧が強くなってエルが苦しそうに息を吐く。
エルの体はやはり華奢だが、女の子らしい部分は柔らかい。その感覚が俺の全身に伝わっている。
「よし・・・どうだちょっと動いてみろ。」
「はい・・・、ん・・・。」
ず・・・、ず・・・、と少しずつ俺を(・・)潤滑油代わりに押しつぶしながら進んでいく。
「ふぅ・・・、ふぅ・・・。」
「エル苦しいならそのマスクとった方がいいぞ。」
「そうですね・・・、よっ・・・と。」
「!!」
エルが身をよじり彼女のいろんな部分が俺に圧をかけてくる感触に変な気持ちになりそうな自分を押え、彼女の手助けをすることに集中する・・・。
集中・・・集中・・・集中・・・。
「ふー・・・。」
「よし・・・なんとか抜けたな。」
ようやく抜け出した先には仲間たちが待ってくれていた。全員無事な様子を改めて確認してほっする。
スライムにまみれたエルを見て約一名、前かがみになってるやつがいるみたいだが、突っ込まないでおこう。
「しかし茂、なんでこんなとこ・・・。」
「エ、エル=クリスティアナ=ゼルディアス!? な、な、な、な、なんでこんなところにいるにゃ!?」
茂に話しかけようと思ったら突然、マスクを外したエルの顔を見た茂の肩に乗っている白猫が狼狽え始めた。
ん? なんでこの猫はエルの事を知っているんだ?
「どうしたんだよテンテン?」
茂が訝しがるが、テンテンと呼ばれた猫は全く意に介していないようだ。
「さっきからおかしいにゃ・・・、そもそもこのダンジョンだって僕が作った物にゃ・・・魔物だってレベリング用に沢山配置したのにみんないなくなってしまったにゃ。」
え? 何? レベリングだって? この猫がこのダンジョンを作った!?
「おい、本当にどうしたんだよ。」
「うるさいにゃ! 僕もわけがわからないんだにゃ! ちょっと黙ってろにゃ!」
猫はものすごい剣幕で茂にかみつき始めた、その迫力に茂が怖気づいてしまったようだ。マドカとルリが剣の柄に手をかけカチャリと音を立てたので慌てて止める、ちょっとこいつの話を聞いてみたい。
「おい! そこのエルフ族! お前は僕が運命率を操作してあの研究所に送ったはずにゃ! なんでここにいるんだにゃ!」
「え!? 私ですか! わ、私はその・・・そこにいらっしゃる芳雄様に助けられて・・・。」
そう聞くや否や、猫は次に俺に噛みついてきた。
「お前か! お前が僕の計画を台無しにしたのかにゃ! っていうかなんでお前がここにいるにゃ! あのクラスにいた魂はみんな送り返したはずにゃ!」
「は? いやちょっと待っ・・・、俺だってなにがなんだか・・・。え?」
今こいつなんて言った? 「送り返した」って言わなかったか。
「おい、”送り返した”って言ったか!? 送り返したってどういうことだ! まさかこの世界に俺たちを召喚したのはお前なのか!?」
そう聞いた猫はしまった!と言うような顔をし。
「・・・そうにゃ、僕がお前ら、元清和 男子高校1年2組全員をこっちの世界に召喚したんだにゃ」
と、あきらめたように答えた。
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