第32話 オーガの姫に俺の体液を絞りとられる!?

「マドカ! 大丈夫か!」

「グフッ! コレぐらいかすりき・・・グ。」


 意識を失ってしまった、一応スライム体で止血はしてあるが、事は一刻を争うだろう。


「あ、やばいならこれを・・・あいたっ!」

「なにスッ転んでるにゃ! 貴重なエリクサーが一本無くなってしまったにゃ!」


 後ろでなにかやってるが放っておこう。

 急いでマドカの口の中に触手を入れ、ゆっくりと俺の液体を流し込んでいく。


「ング・・・ング・・・。」

「すごい・・・。これが私にも・・・。」


 マドカの身体にあった傷は見る間に修復され、青ざめていた顔も色を取り戻していった。エルやルリの時よりもあっさりと回復したようだ、オーガというのは生命力の強い種族なのかもしれない。

 ふぅ、と安堵し触手を引き抜こうとする。しかし、マドカに触手をがちりと握りしめられた。


「またか、うぐおおお!?」


 そのまま腕に力が込められ、ぎゅううと絞られてしまった。中に残っていた液体もみんな飲み下されてしまう。

 痛くはないんだがビビるわぁ。


「ゴックン・・・。ぷはぁ! これは美味イ! もっと無いのカ?」


 死にかけていたのに屈託のない笑顔をしやがって、つい俺もまんざらでもない気持ちになってしまう。

 しかし、ここで許してしまうといつまでも飲まれてしまうのはエルとルリで懲りている。


「いや、もう空っぽだよ。」

「ソウカ、残念ダ。」


 あからさまに落胆しているのが心苦しいが、我慢してもらおう。

 口を開けて待ち構えているルリにペチッと一撃を食らわせた後、勇者に向き直る。


「あんたが勇者か?」

「ああ、いかにも俺がこの世界の救世主、勇者クリフォードだ。助けてくれてありがとう、まさかモンスターたちに救われるとは思わなかったよ。」

「オオ! 其方が勇者殿カ! 儂はオーガの国の王女マドカという、以後お見知りおきを願いたイ。」


 マドカが勇者に向かって恩を売り始めた。この辺はさすが一国の王女と言った所か。

 黒髪短髪に黒目の若い男だ、肩には従魔のきれいな毛並みをもつ白い猫が乗ってこちらを見据えている。しかしこんなにアジア人ぽい顔はこの世界に来て初めて見るな、名前はクリフォードって言ってたから日本人でないんだろうけど・・・。

 あれ? ちょっとまてこの顔見覚えが・・・。


「ま、まさか・・・。いや、間違いないよな!?」

「ん? 何がだ?」

「お前はクリフォードなんかじゃないよな?」

「へ!? いや、な、なにを言って・・・。」

「ム? ヨシオ、お主勇者殿の事を知っているのカ?」


 勇者が狼狽え始めた。やっぱり・・・。


「おま・・・、あ、そうか俺の姿見てもわからないか。」


 思わず口角が上がる、なんせこの世界に来て初めての”知り合い”だ。


「俺だよ、坂本芳雄だよ! 高校の時同級生だった!」

「へあ!? 芳雄!?」


 俺の目の前で中世風の鎧を着こみながらクリフォードと名乗り、エルを花嫁にしようと宣っていたというこいつは、俺が高校1年の時同じクラスだった「高橋 茂」という同級生だった。

 クリフォードなんて名乗っているからきっとすっかり勇者になり切っていたんだろうなぁ。


「え!? 芳雄ってあの芳雄か!? なんでスライムなんかになってんだ!?」

「それはまぁ色々あってな、てかお前こそクリフォードってなんだよ。偽名か? まさか自分で考えたのか?」

「ああ、まぁ・・・はっ! いや違うぞ! そのー、この猫が名づけたんだ!」

「はぁ!? もっと勇者っぽい名前がいいって言ってたのは何処のどいつにゃ!」

「言うなああああ!!!」


 その時はたと気づく。

 あれ? そういえばエルはどうした?


 俺は「お前が名づけたってことにしてくれえ!?」と言っている勇者を無視し周りを見渡した。すると・・・。


「たすけてくださーい・・・。はさまりました・・・。」


 隙間の方から間抜けな声が聞こえてきた。俺の中のミル○・クロコッ○が「お前は何をやっているんだ」と呻くのが聞こえる。


「すまん、積もる話はあるが、まずはエルを助ける、ちょっと待っててくれ茂。」


 俺の言葉に勇者が顔を引きつらせ、涙を浮かべながら答えた。


「いや、俺の名はクリフォ・・・。」

「声が裏返ってるにゃ、しかし一体何が起こってるんだにゃ。」

「勇者は偽名を使っていたのカ。」


 茂、いやクリフォードよ。もう遅いわ。

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