第31話 吸収VS吸収

一昨日・砂漠(荒野)


 カバに乗りながら俺は枯れサボテンにペチンペチンとスライムの破片を当てていた。


 俺はマンティコアとの戦いを経て、自身のレベルアップが重要だと考えた。なんとか化け物を倒せたとはいえ、エルの助けが無ければおそらく負けていたからだ、あの時は速度も足らなかったが、こちらからの攻撃手段が超近距離しかなかったのが問題だった。もう一度同じようなことが起こらない無いとは限らない、この姿で戦える手段を増やしておきたい。

 だけど・・・。 


「何をやっているんですか?」

「んー、遠距離から攻撃できるような新技を開発しようとしてるんだけどな・・・。これじゃぁなぁ。」


 分離したスライムには知性は宿せないらしい、サボテンに当たったら消化液を出すように命令しようと試みているんだが。さっきからサボテンに当たっても表面に付着するだけでなんのダメージも与えられていない。


「うーんもっと、速度を出せれば威力も上がるんだろうけどこれが限界だなぁ」

「これじゃ、ただの嫌がらせにしかつかえないわね。」


 ルリの言葉にスライムの表面一部が口をへの字にしたように捻じ曲がる。


「もっと重くするというのはどうでしょう。」

「飛ばす破片をもっと大きくしろってこと? でもそれだと扱いが難しくなるし・・・。」

「いえ、そうではありません。芳雄様、魔法を使った事は?」

「魔法? もしかして俺も使えるようにしてくれるのか!?」

「いえ。そうではないんですけど・・・。」


 なんだよ、期待したのに。


「体の中にある力を圧縮させ具現化させるのが私達の使う魔法の原理なのですが、芳雄様のスライム体でも同じようなことができるんではないかと。」

「んー、つまり体積は同じでもスライムを圧縮する。つまり密度を増す事によって重くしてみろってこと?」

「そうです、それなら多少は威力が上がるのでは?」


 んー、でも”多少”はだろうなぁ、でもちょっとやってみるか。


 ・・・・・・!!!


「うおお!? 想像してたのと違うけどこれはすげえ! 流石エル!」

「いや、私もまさかこうなるとは思わなかったんですけど。えへへ。」


----


現在・洞窟内


「ぎゃあああああ!! なんなのよこれはあぁぁあ!!」


 ショゴスの触手を俺が打ち出したスライムの球が通過していく、通過された触手は急激な”圧力”がくわわり、当たった部分は圧縮されその先が破裂する。

 数個は本体に当たり、鉄球が当たったような窪みが作られたようだ。


「おおし! いい感じの威力だな!」

「ただの下等なスライムのくせにいい!! せっかくここの洞窟の魔物をすべて取り込んで上位種になったっていうのになんでよ!!」


 え、ひょっとしてこいつって俺の上位種なのか? てことは俺も成長するとこんな感じになるのか? それは嫌だなぁ。


 俺はなおもスライム弾を作りだし、ショゴスにぶち当てていく。ショゴスは防御しようと触手を本体の前に束ね、壁を作ろうとしたがその触手ごと俺のスライム弾にやられてしまい、俺の攻撃をなすすべなく受け

、かなりのダメージを負っているようだ。


 その時。


「いや、それは流石に卑怯じゃ・・・。」

「何を言ってるにゃ! 今がレベルを上げるチャンスにゃ!」


 後ろの方から何か聞こえてくる。

 どうやら勇者のやつがとどめを刺そうと出てきたらしい。


「おい! まて、まだこいつは・・・。」

「ホホホ! バカね! 取り込んであたくしの糧にしてやるわ!」

 

 ショゴスが再び繰り出した無数の触手が俺のわきを通り過ぎ、勇者の方へ向かっていく。

 いくつかは俺のスライム弾で落としたが、それでも多くの触手が勇者へと向かってしまう。


「うわあああああ!!」

「にゃあああああ!!」

「フホホホホホ!! やったわ! 勇者の力があたくしの・・・」


 ベチィィィイイン!


「ホフゥウウウ!?!?」


 急に起きた何かをつぶしたような音とともにそのすべての触手が地面に落ちた。

 

「間に合ったカ!」

 

 振り返るとマドカが大剣を横に倒してショゴスの上に振り下ろし、押し潰してしまったようだ。ショゴスのいた周囲とマドカにも少し奴の破片が散乱している。

 エッグいな。


「ありがとう助かったよ。」

「なんのこれしキ。」

「・・・それで、そいつが勇者なの?」

「たぶんな。」

 

 ルリに問いかけられ、もう一度勇者の方を一瞥する。

 しかし、潰したと思っていた奴の声が再び聞こえてきた。


「油断したわねええ!!!!」

「ぐああああ!!」


 奴の声にまた振り返るとマドカが苦悶の表情を浮かべ、叫び始めた。潰されたショゴスはいまだ生きていたようで、付着した破片が赤くなっているからマドカの身体を吸収しようと血を吸っているのだろう、


「マドカ姫!」

「くそっ! ルリ! その破片に触るな! お前までやられてしまうぞ!」


 思わずマドカに触れようとしたルリに注意を促し駆け寄る。ショゴスは本体から伸びていた触手の方もマドカに襲い掛かり、彼女の身体を溶かし始めているようだ。


「グハッ!ガァ!」


 まずい! マドカの口から鮮血が飛び散り始めた。この短い間に内臓まで達してしまったのか!?


「うおおおお!」


 俺はマドカに付着しているショゴスに襲い掛かり必死に吸収していく、やられる前に吸収しつくしてやるしかない。


「ぎゃあ! またお前か! あたしの邪魔をするな!」

「お前こそマドカから離れやがれ!」


 ショゴスも俺を溶かそうと俺に対しても消化液を出し始めた、しかしそのおかげでマドカの方が鈍ったようだ。俺への攻撃もジクジクと焼けるような痛みが走るが大したものではない、このまま吸収しつくしてやる!


「うおおおお!」

「ぐっくそおおお、あたくしが消える! 消えてしまう・・・!」


 マドカの身体の中にまで入り込んでいた破片も一つ残らず吸収させてもらう。最後に「ナンデ、アンタミタイナ下位種ニアタクシガ・・・。」と聞こえた。

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