第30話 スーパーボールVS無数のひOQ
洞窟の中は意外と明るい、カンテラすらいらないくらいだ。不思議なことに壁面に無数にある鉱石や色とりどりの水晶が光り輝いてるおかげで足元の心配をせずに歩いてこれている。まったくファンタジー万歳だな。
「きれいです。」
「そうだな。」
そんな光景に見蕩れながら歩いていると、俺たちの前を歩くルリが何やら訝しんでいるようだ。
「変ね。」
「何が。」
「魔物が一匹もいないわ、勇者の試練と言うにはおかしな話だと思わない?」
そういわれてみると、確かに全く魔物に会わない。
「もう既に勇者がみんな倒しちゃったんじゃないの?」
「ん~、それにしては戦闘の後が無さすぎる気がするのよね。」
確かに、そう考えると不気味に思えてきた。
「そうだのウ。歯ごたえが無さ過ぎてツマランワ。」
マドカさん、先頭なんだからもちょっと緊張感を持った方がいいと思いますよ。
「シカシお主ら、周囲に見蕩れてないでもうちょい緊張感をもテ。」
「アッハイ、スイマセン。」
完全なる正論の前には口を閉じるしかないですよね。
その時。
タスケテー!!!
近い! このすぐ先にいるようだ。
「大丈夫カー! 助けにキタゾー!! 勇者殿! どこにおられるのジャー!!。」
マドカの勇ましさに溢れた大声をあげる。余りの迫力に俺の心の中が熱く燃えるような気持になってくる。
「助けがきた、助けが来たぞ! テンテン! おーい! ここだー!」
若い男の声だ、どうやら左の壁にあるすきまの奥から聞こえてくるみたいだ。
「よし、この隙間なら俺が通れる。三人は回り込んで合流してくれ。」
「わかったわ。」
「承知しタ。」
「私は芳雄様についていきます。その・・・私も多分通れると思いますので・・・。その・・・引っかかる部分がn・・・。」
あっ
「そうか! ありがとう! 一緒に行こう!」
先を言わせないようにわざと大声を出した。
わざわざ自分から言わなくてもいいのに・・・。
「じゃあ私たちは壁伝いに周り込んでくるわ。」
「気を付けるのだゾ。」
二人を見送り、隙間に向かう。
「おーい! 早く来てくれー!」
なんだ? 何かに襲われているのか?
「今行く! エル、気を付けてついてこい。」
隙間に入ると、奥に行くほどに徐々に狭くなっていくのを感じる。しかしこの体なら障害になどならない、ニュルリと抜けると目の前に巨大な影が見えた。
「ひええ!? またスライム!!?」
「もうおしまいにゃ!」
巨大な青い宝石のそばでいかにもヒロイックな鎧を着た若い男が倒れている。恐らくあれが勇者なんだろう。
「落ち着け! 俺は味方・・・。」
パコン
「うお!?」
影が俺の頭に向かって腕を叩きつけてきた。あわてて躱したがかぶっていた、な・・・ヘルメットが溶かされてしまった、あぶない。
・・・いや、これは腕じゃない。まさか、これは!?
「スライムだと・・・。」
眼前に全高3mはあろうかというスライムがそびえ立っている。
「スライムみたいな下位種と一緒にしないでもらいたいわねぇ、あたくしはショゴス、ショゴスのベロッサよ。それにしても、ムホホホホ。何かと思ったらただのバブルスライムが出てくるとはね。勇者もつくづく運が尽きたようねぇ。」
スライムがしゃべった!?
いや、俺も喋れるけど、こういう知能の低そうな生物が喋るとびっくりするんだな。そういえば皆と初めて会った時も驚かれたっけ。
しかし、こいつは本当になんなのだろうか? ショゴスってなんだ? 紫色の身体は粘体のそれなのだが、いたるところに無数の目、口、牙を生やし、うねうねと脈打っている。
「まぁ、それでも喋ることができるってことはそれなりに魔力は持っているみたいね。ちょうどいいわ、そこのバカ勇者と一緒にあたくしの栄養になりなさい!」
ベロッサと名乗るショゴスが無数の触手を浮かばせ、次々と叩きつけてきた。俺はそれをスーパーボールのように跳ねながら躱す、ベチンベチンと壁に触手が当たるたびにじゅわっと当たった部分がえぐられたように溶かされている。
「ひいいいい!!」
勇者の方を見ると縮こまりながらあの青い宝石に抱きついているようだ。
不思議なことにベロッサの攻撃は青い宝石を避けるようにただ地面や壁を叩いている。
「ちぃっ! 忌々しい石ころねぇ、まぁいいわ、バカ勇者はそこから動けないみたいだし! こっちを片付けてからゆっくりと調理する事にしましょ。」
言うないなや勇者の方に向けていた触手を俺の方に叩きつけてきた、先ほどの倍の数の触手が俺を襲う。・・・しかし。
「ちょこまかとうっとおしいわね、さっさと捕まっちゃいなさい!」
確かに物量は凄いのだが遅いのだ、あのマンティコアに比べるとあくびが出るほどである。しかも触手の使い方も単調だ、遅いなら遅いなりに詰め将棋のように物量で追い詰めながら戦えばいいのに。
しかし、躱しながら本体に攻撃ができるほど余裕があるわけではない。下手くそでも余りに手数が多すぎるのだ。戦況は膠着状態へと移っていく。
かわす かわす かわす かわす かわすかわすかわすかわす・・・・・・。
ポヨン ポヨン ポヨン ポン ポン ポン ポンポンポンポン・・・・・・。
よっしゃ、徐々にこの身体の使い方が分かってきた。速度が上がっていく。
ベチン ベチン ベチン ベチン ベチン・・・!!!
当てる 当てる 当てる 当てるぅぅぅぅぅううううう・・・!!!
ショゴスの方は余裕がなくなってきたようだ、触手同士打ち付けあい絡まったりし始めている。
「きぃぃぃいいい! この虫けらが! 本当にうっざいわぁ! こうなったら。」
更に大量の触手を出してきた、もはや壁のようだ。
「ふー、ふー、さぁ! これで逃げられないわよぉ!」
うねうねと動く壁が決壊し津波のように押し寄せてくる。
・・・あれを試してみるか。
「よっし! じゃあそろそろ俺も攻撃するぞ!」
「ホホホホ! 無駄よ! もう避けられないわ!」
だから俺が攻撃する番だっつってんのに、バカなんじゃないかこいつ。
俺は身体の一部を膨らませ、そこにありったけの”俺”を詰め込み始めた。
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