第28話 誰が何と言おうとヘルメット!
サラティーナ王国デザートの街南東部にある丸い屋根をしたイスラム教のモスクのような小さな古い建物。中には神に選ばれた真の勇者にしか開くとができないという封印された扉があり、その奥には勇者のために用意されたという試練の道が続いているのだと言う。
「それがここか。」
「そうみたいですね。」
エルが道具屋で魔力認識阻害用に買った楕円の縁の銀色の眼鏡をかけなおしながら答えてきた。
俺たちは買い出しと昼食---俺の触手から体液を飲み込む二人を見て流石のマドカも引いていた---と散髪を終えた後、その建物の前に並び立っている。まぁ俺だけは散髪を終えてきれいなショートカットになったエルの頭の上なのだが。
壁がキラキラ輝いて見えるのはやはりここにも魔力阻害用の石の欠片が混ぜこんであるからなんだろう。
「中に入るんですか?」
「まさか、ちょっと様子を見るだけだよ、真の勇者じゃないと扉の中には入れないんだろ?」
それに未来の花嫁が云々言ってるようなナンパ野郎にエルを合わせるなんて言語道断だ。しかし、それでもここに来たのは気になることがあったからだ。
「シカシ、なぜその伝説の勇者様がエルがさらわれた事を知っているのカ、気にかかるナ。」
武器屋で買った大きな大剣を背中にしょったマドカが疑問を呈してきた。
そう、問題はそこだ。エルがあの研究所にさらわれる予定だったことを知っていたのはあの人さらい
と研究所の人間、あとはあの奴隷販売所の職員ぐらいのものだろう。 実は黒幕が勇者だったのかとも思ったが、わざわざ花嫁にするためにあんな場所にさらわせるなんて面倒くさすぎる。
「勇者様が来たっていうのに思ったより閑散としてるわね。」
これまた武器屋で買った二つの短剣を腰に携えたのルリ言う通り、ここは街の外れにあるためか、時折四足歩行の乗り物や、カバクダを引くなにかの作業員のような人たちが通り過ぎるが、どこか閑散としている印象を受ける。つい先日”この世界のだれもが知っているという伝説の勇者様”が訪れたという場所にしてはいささか寂しい気がする。
もっとこう、野次馬のような輩がいてもおかしくはないような気がするのだが。
「ひょっとしたラ情報統制がされておるのかもしれぬナ。」
「情報統制ですか?」
「なんで?」
「わからヌ。」
ズルッ
言ってみただけかよ。
「いや、それって案外当たってるかもしれないわよ。」
ん?知っているのかルリ。
「勇者って魔王でもかなわないような超人的な力を持っているらしいんだけど、最初は力が弱くて最弱のモンスターにもやられちゃうくらいなんだって。だから最初のうちはあまり目立たずに修行をするみたいなの。力が弱いうちから目立った行動をすると、魔王軍や力試しのような輩が喧嘩を売ってくる可能性があるからなんだって。」
なるほど、レベルを上げる前にやられないようにしているってことか。そう考えると理に適っている気がする。あれ?でも・・・
「なんでそんなことをルリが知っているのさ?」
「えっ、あ、いや。む、昔とある人から聞いたことがあったのよ。ってゆーかあんたやっぱりそれ(・・)は無いわよ。」
「? 何のことだ?」
「その頭にかぶっているものの事よ」
マドカとルリの視点が俺の頭の上に注がれる。
「安全のためにヘルメットをかぶっているだけだ! 何もおかしなことはないだろう?」
「芳雄様・・・。」
「いやそれ、どう見ても」
「鍋じゃない! ヘルメットだ!」
そう、これは断じて調理器具などではない! きちんとした俺の装備品なのだ! 他に装備できるものが無かったからかぶってるんじゃないんだからね!
「プッ」
笑うなそこのニ本角娘~~~!
「じゃあ、そろそろ中に入ってみますか。」
エルが何事もなかったように話を進める。ぬぅ、腕を上げたなこのエルフっ子。
「そうだな、勇者の野郎を見つけたらこの鍋アタックでけちょんけちょんにしてやる。」
「けちょんけちょんにしてどうするのよ、てゆうか鍋って認めてるじゃない。」
「実は私も勇者様が入ったと言う封印の扉に興味があるんですよ。」
「お? エルって思ったよりミーハーだったのか?」
「ハラが減ったノウ・・・。手早く終わらそうゾ。」
エルの「違いますよー」と言う抗議の声を聴きながら、俺たちは建物の中へと入っていった。
入口に入ってすぐ、立っていた犬耳の中年の男性に右手を差し出された。
ルリが当然のようにその手を掴む。が、犬耳男は顔をしかめて手を払いのけた。
「違う! 入場料1000エンスだ!」
あ、入場料いるのねここ。
ルリさん顔真っ赤です。
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