第27話 伝説の勇者様の噂
「モット、肉を買うべきダ。」
「せっかく移動用モンスターがいるんですからルリも乗れるくらいの馬車が欲しいですね。」
「俺としてはちゃんとした装備が欲しいな。命を守るものだし、揃えていた方がいいんじゃないか?」
「芳雄・・・、あんた装備できないじゃん・・・。」
「」
こほん。
俺たちは今、街で旅のための買い出しをしている。どっかの帝国の調査隊があの研究所へ向かうらしく、昨日奴隷販売所で俺が言ったことがそのうち嘘だとばれるだろうからその前に旅の支度をするためだ。
ちなみに俺の姿はスライムのままで、エルの頭の上に鎮座し、エルとルリは奴隷販売所のやつらに見つかるといけないからマスクをしてもらっている。
エルたちと会話をしながら、先ほどマドカから聞いた話を反芻する。
戦国大名佐竹義重・・・確か昔やった歴史シュミレーションゲームでは関東にいるそこそこ強い武将という印象だったというのを覚えている。
「驚きすぎて声も出ないカ。」
とマドカに言われたが、最初ピンと来なくて固まってしまっただけだ。ルリはびっくりしていたがこっちの世界では誰もが知るような有名人なのだろうか。
俺がマドカに俺が元いた世界で昔活躍した人物だと伝えると。
「オオオ! それは本当カ!? 流石父上だ!」
などと返してきた。歴史の授業でも大河ドラマでもほとんど出てこないこともあり、あまり詳しくないんだがね。父親が異世界から来たと聞いて驚かなかったのは日ごろ自分の武勇伝を聞いているからとのことだった。俺が異世界から来たと聞いて大して驚かなかったのはこのせいか。
彼も俺のようにこの世界にモンスターとして転生してしまったんだろうか?
しかし百人瞬殺なんて物騒な二つ名だな。
・・・彼に会って聞いてみたい。
この世界にどのようにして現れたのか、どのように過ごしてきたのか。そして・・・。
元の世界に帰る方法を知っているのか。
正直に言って今の俺は元の世界とこの世界、どちらがいいかと言われたら答えることができない。既にこの世界で関わったものを作りすぎた。それに、個人的な趣味として、このまだ殆ど見知らぬ世界の事をもっとよく知りたいとも思っている。
ただ家族に会いたいとか望郷の思いが無いわけではないのも事実だ。俺がいなくなってきっと心配している人がいるだろう、せめて無事だという報告だけでもしたい。
さて、思考を買い物に戻そうか。
俺たちが三者三様に意見を言っている中、ルリが口を開いた。
「ってゆーかその前に、私が言っていたエル用の魔力感知阻害効果のある眼鏡を探すのが先じゃない?」
「あ。」
すっかり忘れていた、やはりこういう時一番しっかりしているのはルリだな。そのまま街を歩いていると。
「あったわ、あれが目的の道具屋、きっと魔道具も取り扱っているはずよ。」
ルリがとあるコンビニぐらい大きさの店の看板を指さした、確かに「道具屋 ピーターパン」と書いてある。ルリによると基本的に魔道具はこういった普通の道具屋でも取り扱っているものなんだという、もっと大きな街に行けば魔道具専門店なんかもあるらしいが、魔力感知阻害用アイテムはそれなりに需要があるものだから、このような汎用物を取り扱ってる店でも売っているだろうと言うことだ。
早速中に入り、軽く猫耳のおばちゃん店員(需要あるのかと思ったのは内緒だ)とあいさつを交わした後、店内を物色する。店の品ぞろえを見ると、ハサミや羽ペンなどの日用品のほか、やはり地球では見たことのない小瓶に入った色とりどりの薬---体力回復薬、解毒剤と書いてある---や、紫色の奇妙な形をした石---魔力回復用の石らしい---が置いてあった。
俺とエルが興味深くカウンターにあるそれらを物色していると店員のおばちゃんが話しかけてきた。
「あら、スライムの従魔なんて珍しいわね。」
「そうですか? でもいい子なんですよ、凄く頼りになりますし。」
俺はエルの従魔で基本的に喋れないと言う設定になっている。喋るスライムなんて珍しすぎるし、街にいる魔物は基本的にみんな従魔の類だからだ。
てか猫耳なのに語尾に「にゃ」とかつけないんだな、まぁ当たり前か。
「従魔といえばこの前この店に凄い人が来たのよ!」
「凄い人ですか?」
「ふふふ、本当は口止めされているんだけど、どうしてもっていうなら教えてあげるわ。」
なにやらこの店員のおばちゃん様子を見るにその凄い人の話がしたくてたまらないらしい。従魔の話題もその”凄い人”の話がしたくて振ってきたんだろう。
(どうします?聞きますか?)
エル、ここは空気を読むところだ。こういう時は逃げるが勝ちなのだ。
「どうしてもって顔してるわね~、うふふ。じゃあ教えてあげるわ。」
しかしまわりこまれてしまった! 仕方ない、聞くだけ聞いてみるか。
「なんとあのクリフォード様! つまり伝説の勇者様が来てくださったのよ!」
「それは凄いです!」
(凄いの?)
(勿論です! 知らないんですか? あのクリフォード様ですよ!)
悪いが全く知らない、なおもおばちゃんはまくしたてる。
「いやおばちゃんね、最初はまさかと思ったのよ。まさかこんな場末の道具屋にあの伝説の勇者様が来てくれるなんてね。でもねやっぱり神様って見てくれてるのね、なんとつい一昨日の事よ、正真正銘あのクリフォード様が本当に来てくださったの! 猫型の従魔を連れてね。あの従魔もかわいかったわねぇ、語尾に”にゃあ”なんてつけちゃって、うふふ。それにしても思い出すわぁ、あの方が私を見てくださったときの細めた黒色の瞳! 優し気な笑顔! 本当に素敵な方だったわぁ。本当はもっとあの方と話していたかったのだけれど、なにか急用があるとかで足早に立ち去ってしまわれたのよねえ。大事な使命があるなんておっしゃっていたから仕方ない事だけれど。」
(色々突っ込みたいけど、それって面倒くさくなって苦笑いしながら逃げたってだけじゃ・・・。)
(私もそう思います。)
珍しくエルが毒を吐いている、流石にちょっとしんどいと感じているようだ。
そんな俺たちを尻目におばちゃんのお喋りは続く。
「そうそう、貴方の前にあるその回復薬を手に取りながらね、”俺には救わなければならない人がいる”なんて、はぁ、正に正義のヒーローねぇ・・・。」
おばちゃんはうっとりしながら明後日の方を向いている。俺らには何の関係もない話だし、いい加減切り上げて、次の店に行きたいんだが・・・、ルリはまだ眼鏡を物色しているのだろうか。
「”俺が助けに行くのをずっと待っているはずなんだ! そう! 俺の未来の花嫁たるエルフの姫君が砂漠の真ん中で!”ですって、正に白馬の王子様ねぇ・・・。」
ヒーローか王子様かどっちかにして欲し・・・ん? 今なんて言った?
俺とエルは血相を変えおばちゃんに詰め寄った。
「おばさま! その勇者様って今どこに向かわれたかってわかりますか!?」
「うふふ、何? やっぱり興味あるんじゃないの。今頃あの方は・・・。」
エルの緊張が俺に伝わってくる。
「真の勇者にしか開くことができないっていう洞窟に潜っているはずよ。」
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