第25話 おばけの正体

  ・・・・・・俺は今何をやっているんだ!?

 

 気が付くと俺の目の前には地下へと続く階段があった。この先は・・・たしか奴隷部屋だ・・・。そう人さらいの記憶が残っている。

 

 喉をゴクリと鳴らす音が頭の中に響いてくる。

----ひょっとしたらこの先に誰かいるかもしれない----


 一瞬エルとルリを呼びに行こうか迷ったが、やめた。

 この先は拷問が行われていたかもしれないような部屋だ、あまり二人には見せたくない。それにひょっとしたら危害を加えてくるような奴がいるかもしれない。

 俺の中であの二人はすでにかけがえのないものになっていた。あの二人がいなければここまでたどり着けなかったし、あの美味い飯にもありつけなかっただろう。それに知性を得てからの道中、大変なこともあったけれど楽しく、人間らしくいられたのもあの子たちのおかげだ。

 二人を危険な目に合わせたくないと強く思う。


 俺は意を決し、薄暗い階段をポヨンポヨンと降りて行った。


階段を下りると鋼鉄製の扉があった。慎重に、少しだけ隙間を開けて中の様子を探るが小さなろうそくの明かりでは部屋の奥までは覗き見ることは出来ない。


 その隙間から身体とろうそくを滑り込ませ、部屋の中をゆっくりと進む。


 ガシャン!!


 耳をつんざくような音にに体が文字通り震え上がる。


「だ、誰だ!」


 歯(ないけど)を食いしばり恐怖に耐え、声をかける。


「誰かいるのカ。」


 低い・・・が、女性の声だ。ハスキーボイスというやつだろう。


「俺は、通りすがりのスライムだ! お前は何者だ!」


 ごくりと生唾を飲み込む音が頭に響く、

 

「スライムだト? フ、フハハハハハハ!!」


 部屋の中に女の笑い声がこだまする。


「奴の趣味の悪さも大概なものだナ! まさかスライムに凌辱させるとハ。シカシ、思い通りになると思うナヨ! この身に触れた瞬間貴様をくろうてくれるハ!!」


 ヤツとはあの人さらいの事だろうか? しかし彼女は誤解している。


「この家の主人の事なら俺が殺した! それに俺はお前に危害を与えに来たのではない。」

「何? 奴がスライム如きニ? 馬鹿を言うナ! 多勢に無勢だったとはいエ、儂の攻撃をかわシ、罠にかけ生け捕ったほどの男だゾ? 儂を愚弄する気カ!」


 なんだか凄く古風なしゃべり方をする奴だな。それに相当自分の力に自信があるように思える。しかし今重要なのは、こいつが敵か味方かと言う事だけだ。


「本当の事だ。俺が食ったからな、その「奴」の姿に変身することもできる。」

「ホゥ。マコトの事なのカ?」

「ほらこの通り。」


 あの人さらいの姿に変身して見せた、光源がこっちにあるから向こうからは見えるはずだ。


「ナント! フフ、貴様ただのスライムでは無いのカ。

 コレハオモシロイ! それデ? 貴様は敵カ? 味方カ?」

「こっちが聞きたい! お前はなにもn」


 バン!!


「芳雄!」

「芳雄様! 大丈夫ですか!?」


 突然部屋が明るくなった、騒ぎを聞きつけたエル達がドアを開けて外の光が入ってきたみたいだ。そういえばこいつにつられてかなり大声で話していた気がする。

 急に明るくなったために目が慣れず眩しい。徐々に視界が晴れてくると目の前に身の丈2mはあるだろう大女が鎖に磔にされている光景が飛び込んできた。


 肌は赤褐色で身体中傷だらけ、驚くべきは焦げ茶色の髪の毛の隙間から二つの白い角が見えている事だろう。

 服装は一応大事なところは隠れているが、ただぼろきれが巻かれているだけのようでかなり激しく肌が露出している。胸はルリほどではないが大きく張り出しているのがはっきりとわかり、ぼろきれからその下半分が見えている。しかし体つきがすごい、女性的な丸みは残しつつも腹ははっきりと6つに割れ、足は長く、トップアスリート顔負けだ。そしてこれだけ痛々しい恰好をしながらも眼光は鋭く、炎をたたえたような深紅の瞳でこちらを油断なく睨めつけてくる。


 と、思ったらその目を大きく見開き俺から視線を外した。俺の後ろに何かあるのかと思い振り返ると、エルが口を押えこちらも大きく目を見開いているようだ。もう一度視線を大女に戻す。

 二人は知り合いだったのか?


「エル!? 無事ダッタのカ!!」

「マ、マドカ姫様!?」


 え? ひめさま? 俺が目を点にしていると、そのマドカ姫が説明してくれた。


「エルは儂の国の隣国の姫君デナ。とても親しくシテおったのだガ、攫われたト言う話を聞いて居ても立っても居られズ、探しに来ていた次第なのダ。」


 え? なにが? エルが? 姫君?


 ゆっくりと視線をエルに向けると困ったような顔をしながら言葉を紡いだ。


「黙っていて申し訳ありませんでした・・・。実は私はゼルディアス王家の娘・・・つまり第4ゼルディアス王女なのです・・・。」

「「プ、プリンセスーーーー!!??」」


 俺とルリが同時に叫んだ。

 あれ? ルリも知らなかったの?


「早ク、拘束を解いてくれんかノウ・・・。」

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