第24話 パンに染みたバターの味

 二人に纏わりついてしまった”俺”を引き剥がし、取り乱していた二人をなだめ、服を着せてから話を聞いてみる事にした。


「・・・で? いったい何があったんだ?」


 二人が来ている服はこの家にあった、人さらいの物と思われる男物の服だ。一応女物の服も無いことは無かったのだが、スケスケだったりアソコの部分に穴が開いていたりと---エルは不思議な顔をし、ルリは赤面していた---とても使えるようなものではなかった。


 まず、赤いライダースジャケットを羽織ったルリが口を開く。胸は全く収まりきらないのでジッパーは胸の下のあたりまでで止まり、サラシを巻いている。丈も有っていないようでへそが見え、大事な部分は白い布を巻いてすませている。長い黒髪はこれまた赤い髪留めをどこからか見つけたらしく、ポニーテールにしてまとめ、下半身の蜘蛛の部分は赤い布を垂らして大事な部分が見えないようにしている。


「そ、それが、エルと風呂に入っていたら急に大きな物音がして、その後恐ろしい叫び声が聞こえてきて・・・。」

「恐ろしくなって二人で一緒にずっとお風呂場に籠っていたのです・・・。」


 ルリは白いワンピース・・・ではなく、大きなTシャツをワンピースのように羽織っている、しかしやはり未だに下着はつけていないようで、うっすらと二つのポッチが浮き出ている。下は青い短パンを履いているようだ。ショートヘアの金髪の頭は未だに先の方が散切りで気の毒な感じなので、早いとこ美容院にでも連れて行ってやりたいと思う。


「なるほど、それは大変だったな。」


 一息つき、まだ涙目な二人の頭を撫でて落ち着かせる。しかし、妙だな、この家は三人(正確には一匹と二人)で着いた時にくまなく調べたはずだ。俺たち以外には誰も居なかったはずなんだが。


「やっぱり幽霊だったのでしょうか?」


 落ち着いたらしいエルがそんなことをつぶやいた。


 ゆーれい? うーん、俺としてはもう既になんでもありなこの世界で、幽霊ぐらい出てももう驚かない自信があるんだが。


「ひっ、ちょっとエル。こ、怖い事言わないでよ。」


 いやぁ、正直幽霊なんかよりあのクリーピーとかいう豚の方が色んな意味で恐ろしいと思う。間違いなく。というかルリも幽霊がダメなのか、何事にも冷静なタイプのように見えるんだが意外だな。


「あなた! 何よその顔は!」

「ひょっとして芳雄様は幽霊のこと信じてないのですか?」


「いや、そういうわけじゃないんだが・・・俺的にはもういろいろありすぎて幽霊ぐらいじゃもうビビらないと言うか。」

「・・・出かけた先で何かあったんですか?」

「豚に会ってきた。」

「はい?」

「それは冗談で、実は・・・。」


 俺は奴隷販売所で話した事を二人に語った


「・・・そんなことがあったんですか。」

「しかし、そんなに恐ろしいやつだったの?そのクリーピーって男は。」

「ああ、身の毛もよだつような奴だった、出来れば二度とお目にかかりたくないね。」


 エルは少し耳を垂らし、顔を伏せていかにも残念そうな表情をした。


「じゃあ、ここも早いところ立ち去らないといけないですね・・・。」

「そうね、でも今日ぐらいはもう少しゆっくりしましょう。」

「そうだな、とりあえず飯にしようか。」


 そういうと二人はキラキラとした顔を浮かべて俺を見てきた。


 いや、今日はちゃんと食事を買ってきたからね?


 夕食はみんなでソファに座り、帰りに買ったパンにバターを塗って焼いて食べた。


 パンとバターだけの質素な食事のはずなのに、数年ぶりのまともな食事に涙が出てくる。表面はカリッっと香ばしく、中はふんわりとはいかないが溶けたバターが染み込んで、濃いミルクの芳醇な香りを口(身体)いっぱいに含ませてくれる。

 そしてバターが染み込み切らなかった部分のパンは、付け合わせた牛乳と一緒に体の中に溶け込ませた。

 ちらりと二人の様子を見る、エルは一心不乱にパンを掻き込みんでいる。少しむせながらも牛乳で喉に引っかかったパンを流し込むと、とても幸せそうな笑みを浮かべていた。

 ルリはクッションの上に座り、一口一口幸せを噛みしめるようにじっくりと食べている。

 これ以上ないだろうと思えるほど、充実した食事だった。


 しかし食べ終わると当然のように俺の体液を要求された。二人とも結構食べたような気がするが、ルリによると「それは別腹」らしい。

 牛乳を入れていたグラスに注いで差し出した。


「ゴク・・・ゴク・・・。」

「コク・・・コク・・・。」

「「ん~?」」


「ん? どした?」

「なんか物足りないわ。」

「そうですね・・・やっぱり直接芳雄様からいただきたいです。」


 その後もどうしてもと言うので仕方なくいつものように触手を伸ばし、二人の口に銜えさせた。


「ん・・・。ゴキュ・・・ゴキュ・・・ゴキュ・・・。」

「コクリ・・・コクリ・・・コクリ・・・。」

「「ぷはっ、やっぱりこうじゃないとだめね(ですね)」」


 違いが判らん。


「ブモォ!」


 庭にいるカバが「俺も」と言っているようだ。

 お前もか。


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「どうしてこうなった。」


 俺は現在、エルとルリに両脇から抱えられる格好で寝させられている。

 抱き枕じゃねーんだぞ!


「ったく、こんなに無防備で、誰かさんに襲われても知らないぞ?」


 両脇で涙目で寝ている二人に小さく、なるべく優しい声で話しかける。もちろんこんなに傷ついている二人を見ればそんな気は起らない。

 よほど不安なんだろう、そして疲れていたんだろう。こんなに近くで話しかけているのに起きる気配もしない。

 考えてみれば当然だ、俺を含めみんなここ数日余りに濃すぎる体験をした。特に二人は何度も絶望し、危険な目にもあった。ここで生きていることだけでも幸運と思えるほどに。

 今はゆっくり休めと意志をこめ、二人の頭を優しく撫でた後、俺もゆっくりと意識を手放した。

 

-------





 ああ、良く寝た。ん? 両脇にいる二人はなんだ? ああそうか、"俺がさらってきたんだっけ"か。

 なんだか体が軽いな、よし、一発抜くか。


 そう思い俺は日課である奴隷部屋の門を開けようとベッドを出た、場所は書斎にある本棚の裏だ。俺はろうそくを準備し、いつものように隠し通路を開けるスイッチである本を引き抜く。


 さて、今日はどのようにいたぶってやろうか。

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