閑話其の二 とあるダンジョンの中で

これは芳雄が研究所を立った次の日の話である。


 剣を携え、冒険者のような恰好をした一人の若者と、彼の肩に乗ったの猫の姿をした一匹の従魔が、とある洞窟のダンジョンに潜っていた。


「なぁ、本当にこのダンジョンの先に俺の最初の仲間がいるのか?」

「そのはずにゃ、このダンジョンの試練を乗り越えた先にお前の最初の仲間であり人生の伴侶となる者が捉えられているはずにゃ」


 人生の伴侶と言う言葉に若者の心は踊った、なにせ彼は中学3年生の頃を最後に同年代の女の子はおろか、若い女性とほとんど交流したことが無かったからだ。

 その原因は肩にいる猫にあったりするのだが彼はそれを知らない。


「人生の伴侶か~ うは~ 楽しみだな~。美人だったらいいなぁ。」

「それはもうこの世界でもとびっきりの美人にゃ、期待しているといいにゃ。」


 緊張感の無いお喋りをしながら洞窟の中を進んでいく、若者はカンテラやたいまつを持っていないようだが、この洞窟の中にあるさまざまな光を発光している水晶の輝きによって暗がりの中を進むことは避けられているようだ。

 しばらくすると従魔の方が異変に気付いた。


「おかしいにゃ。」

「なにが?」

「モンスターが全然いないにゃ、ここにはレベリングに最適な大量のモンスターがいたはずなんにゃが。」


 どうやらこの従魔によるとこのダンジョンにはこの若者のために用意されたような大量のモンスターがいたらしい、それが忽然と姿を消している。


「先に誰かが来て倒しちゃったんじゃないの?」

「それはないにゃ! シゲルがこのダンジョンの封印を解くまで誰も入っていないはずにゃ! ジゲルも見たじゃにゃいか!」


 どうやら自分たち以外の”人間”がこのダンジョンに踏み入れたはずはないとこの従魔は確信しているらしい、しかしシゲルと呼ばれた若者は事の重大さが分かっていないようだ。


「ちょっと俺の事はこの世界では”クリフォード”って呼べって言ったじゃん!」

「そんなことよりもうちょっと慎重になれにゃ!」

「別にいいじゃん、危険が無いなら無いで越したことないし。さっさと進もうぜ」

「シゲ・・・、クリフォードはレベリングの大切さがわかってないにゃ! 低レベルで急に強いモンスターと遭遇したらどうする気にゃ!」

「はいはい、わかりましたよ~。でも俺って、たとえ死んでも何度でもセーブポイントで復活できるんでしょ?だったらそこまで心配する必要なんてないって。」

「それはそうにゃが・・・ あ、待つにゃ! そんなに急いでいくとトラップが・・・。」

「え?・・・・・うわぁぁぁぁああああああ!!!???」

「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」


 迂闊な若者と猫の従魔は悲鳴とともに何十メートルもある落とし穴の中に消えていってしまった。

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