閑話其の一 小太りの男

 時は戻り、芳雄たちが研究所を立った直後の事。


「う、ぐ。」


 がれきの中から一人の男が身を起こした。


「ぶはっ、はー、飛んだ目にあったぜ。ケインズ! おい! ケインズ! どこだ!」


 彼はこの研究所の門番だった小太りの男である、芳雄たちの戦いの最中運よくがれきの隙間に入り込めた彼はほとぼりが冷めるまで逃げる機会をうかがっていたのだ。


「ケインズ!返事をしろ!ケイ・・・。」


 彼はようやく、がれきにうずもれたケインズを見つけたが、時すでに遅く体は無残に潰されていた後だった。


「う、うあああ」


 変わり果てた姿になったかつての相棒に腰を抜かし、後ずさった彼の手ににちゃりと生暖かい者が触れた。恐る恐る振り返ると。


「ひぃぃぃいいいい!!」


 そこには右腕が吹き飛ばされ、虚ろな目で虚空を見上げる所長の姿があった。


「な、なんてこった・・・お、おれはこれからどうすれば・・・、とにかくこここここから逃げねぇと・・・・。」


 狂乱しながらもなんとか平静を取り戻そうと息を整えた彼は、あることを思い出した。


「そうだ、あれがあった・・・」


 急いでアレがある場所へ向かう、目指すは研究所の裏手にある小屋だ。

 しかし、その小屋も瓦礫の下敷きになってしまったようで屋根がひしゃげ、入り口のシャッターは歪んでしまっている。


「どうか無事でいてくれよ・・・・」


 なんとか歪んだシャッターを取り外し、中のものを確認する。彼の目的であったそれはがれきと埃を被ってしまったものの、壊れずにそこにいてくれていたようだ。


「良かった・・・これで帰れるよな?頼む!動いてくれ!お前が動かねぇと俺はここで野垂れ死んじまうんだ!」


 それに跨がり魔方陣にてをかざす、すると「フィィィィィン」という音が響き、ゆっくりと動き始めた。


「よし!これさえ動けばなんとかなりそうだ!」


 正面に二つのライトと、四つの足をもったソレはがしょんがしょんと男を揺らしながら進み始める。


「早く・・・早く逃げないと・・・、もしこんな失態が本部にばれたら俺は・・・・。」


 丸い四つの足跡を残しながら彼は砂漠の風の中へ消えていったのだった。

 

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