第19話 女の子二人+αに俺の体液を流し込みました。

 とりあえず俺たち二匹+二人は来た道を戻ることにした、エルとルリによると二日ほど戻ればサラティーナ王国の街に着くらしい、連れ去られた後最後に寄った街になるそうだ。


 道中に自己紹介を済ませる、ルリは俺が元人間でしかも異世界から来たことを聞くと訝しげな顔をしていたが最終的には納得してくれた。

 ルリは本名をルリアーナと言うらしく、とある理由で故郷を追われ、森の中で傷つき隠れていたところをエルに助けてもらったということがあったそうだ。以来二人は親友となり、時々森の中で会っていたらしい、しかしその隙をあの人さらいに狙われてしまったそうだ。


 それからルリの体に何が起こったのか聞いてみたが、彼女もなぜ急に具合が悪くなったのかわからないそうだ、特に持病も持っていないらしい。

 ただあの場所は、どこか国の生体兵器の研究所だったそうで、彼女は改造される寸前だったらしく、怪しい薬をあの管から投与されていたということだったので、もしかしたらその副作用が起こったのかもしれないと俺は考えた。

 しかし人体改造なんて本当に物騒な施設だったんだな。


 それからなぜあの液体で治ったのかも謎だ、ルリによると体の中に流し込まれるたびにどんどん楽になり、力が戻っていったということだった。


 (どんな病気でも治す不思議な水と言うとものすごくうさん臭く聞こえるな。)


 二人にその液体を与えながらそんなことをぼんやりと考えていると、エルが液体を飲みながら難しい顔をしている。


「ゴク・・・?ゴク・・?ゴク・・・?」

「どした?エル」

「ひゃんか・・・ゴク・・・まへより・・・ゴク・・・・、おいひくなってまふ・・・ゴキュ・・。」


 そうか、それは良かったな、でも飲むかしゃべるかどっちかにしようか。

 美味しい美味しいと言われるのは悪い気はしないがな。


 日が落ちてきたので野営の準備を整える。また今日も虫眼鏡モードになって火をつけようと思ったら。


「私に任せてください!」


 と、エルに言われたので任せてみることにした。ファイヤートーチ!とエルが叫ぶと巨大な火の玉が目の前に浮かび、集めた枯れサボテンが一瞬にして灰になった。・・・え?


「な、なにこの威力・・・ エル、貴方どうしちゃったの?」

「ご、ごめんなさい。あ、あれ? 私こんなに大きな魔法使えなかったはずなんですけど・・・。」


 寝る前にまた一つ謎が増えてしまったようだ・・・。


「また、サボテン集めないとですよね・・・。」


 仕事も増えたようだ・・・。


 ルリが言うには、とりあえずエルは威力が調節できるようになるまで練習してきた方がいいと言うことなので。申し訳なさそうな顔をして離れていったエルを見送り、ルリと二人で枯れサボテンを集めることにした。


 棘があるサボテンを物理無効でひょいひょいと集めていくが、ルリも額に汗をかきながら負けじと自分の糸を器用に投網のように使い効率よく集めている。俺はサボテンを集めつつ、感心しながらその姿を眺めていた。

 暫く作業を続けているとルリが口を開いた。


「エルの魔法のことなんだけどさ。」

「うん。」

「あの子、元々魔力は人より少なくてあんなに大きな魔法を作り出すことなんてできないはずなの。」

「ふーん、やっぱりそうなのか。」


 まぁ、言動からなんとなくそんな気はしていたけど。


「しかしまさかあのマンティコアを一撃とはね。」

「え?」


 ん? 俺今変なこと言ったか?


「あのマンティコアにとどめを刺したのは貴方じゃないの?」

「え、いや、俺はほとんど何もしてないよ? あの魔法で即死したみたいだった。」


 ルリは難しい顔をしてうつむいてしまった。ぼそぼそと、「そうなると宮廷魔術師以上?まさか・・・。」なんてことを呟いている。 宮廷魔術師ってなんだろう・・・なんかすごそうな響きはするけど・・・。

 ルリは再び顔を上げた。


「あの液体はきっとあなたが思っているよりすごいものだと思うよ、あんなに魔力が濃くて体力も傷も回復できるなんて・・・ まるで神話に出てくる回復の泉のようだよ・・・。」


 微妙にすごいのかよくわからんネーミングだな。


「やっぱりその液体のせいだと思う?エルの魔力が増したのって。」

「・・・確実なことは言えないけれど、その可能性は大きいと思うわ。」


 薄々思っていたことではあるが、その言葉に気が重くなる。俺は他人の体を変化させてしまったのだ。そのおかげで命を救われたわけで、結果的に良かったことなのかもしれないが、責任の重さを感じる。


「それにエルのあの目・・・ あれはちょっと異常よ。あんなに濃い魔力を宿した目なんて私今まで見たことがないわ。」


 目か、確かにエルの目を見た瞬間言いようのない魅力を感じてしまった自分がいたのを覚えている。あれもその強い魔力のせいだったのだろうか。


「目を見ただけで魔力の量が分かるのか?」

「流石に一般人には見分けがつかないでしょうけど、見る人が見ればわかってしまうわ。街に着いたら認識を阻害するアイテムを買った方がいいわね。」


 しかしこの世界でも異常だと思われるほどの物なのかあれは・・・ 本当に一体何なんだろう、自分の事だけどやっぱりちょっと怖い。


 なんてことを思っていると急にズイッと顔を寄せられた。


「でもあの液体、あんなに甘露のように甘く、芳醇でいてさわやかな香りもついているなんてもう私病み付きになっちゃったわ、だからこれからも時々味あわせてね。」


 俺は彼女の妖艶ともいえる笑みを間近で見せられて、女性経験のほとんどない彼はなんとか「ああ」と返すことしか出来なかった。


 枯れサボテンを集め終え、エルを呼びに行く。

 まだ少し苦戦しているらしく「本当はもう少し炎を小さくしたいのですが。」と言っていたので先に火の玉を作ってもらいそこに枯れサボテンをつけた。

 

「こんなに大きな魔法が日に何回も使えるなんて・・・ 正直に言ってちょっと怖いですね。」


 日が落ちて、3人で炎を見つめているとエルがこんなことを漏らした。いつもマイペースな性格で自身の急激な変化にもあまり気にすることなくふるまっていたように見えたので、予想外の言葉に沈黙を返してしまう。


「今の言葉、世の魔法使いたちが聞いたら泣いて羨ましがると思うわよ。」


 ルリが苦笑しながら突っ込みを入れてくれた。


「エル、確認の意味でもちゃんと教えてほしいんだけど、やっぱり魔力が増えた原因は俺の体液を飲んだせいだと思う?」


 エルはしばらく思案した後、俺から目をそらし「わかりません」と、答えた後


「でも、あの液体のおかげで私は2度も命を救われました。ですから悪いものではないのは確かだと思います。」


 最初にエルに出会った時と、マンティコアを倒した時かな。

 思考を逸らしていたらエルは「それに」と続けた後、顔をゆっくりとこちらによせて。


「あんなに美味しい飲み物は今まで飲んだことはありませんでした、これからもよろしくお願いしますね」


 微笑みながら言ってきた。

 お前もか。


 と、言うことでご要望にお応えし二人と一匹にたっぷりとあの液体を味あわせてあげた後、その日は眠りについたのだった。


 

 次の日、久しぶりに緊張感の無い夜を過ごせた俺たちはすっきりした気持ちで目覚めることができた。

 もはや習慣と化した朝食代わりの液体流し込みを済ませ、早々にその場を立つ。目指すは砂漠のオアシス、サラティーナだ!


「「もっひょぉ・・・。」」「ブモォ・・。」


 三人ともわかったからちょっとは恰好つかせてください。

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