第17話 これにて一件落着?

エル視点


 さっき芳雄様がナイフに刺されたとき、大量の血が飛び散っていたのを覚えている。たしかルリが拘束されていた部屋の上の階だったはずだ。

 そう思い私はがれきをかき分けていく、時折芳雄様の闘いの激震が走る、急がなければ。


「おい・・・。」


 ハッとして振り返るとがれきに体を潰され、今にも生き途絶えそうなあの男がいた。ここまで吹き飛ばされたようだ。悲鳴を上げたかったがやはり声が出ない。


「お前・・ワタシを助けろ・・・。」


 聞こえないことにしよう、今は血を探すのが先だ。


「その首輪なら・・・ワタシがとりはずせるぞ・・・。」


 手が止まる。


「その首輪はな・・・実はワタシがマンティスに送ったものなのだ・・・だから・・・ワタシの血液で外せるようにしてある・・。」


 ごくりとのどが鳴る。彼は本当のことを言っているの?もしも嘘なら狙いは?

           

「嘘ではない・・・今ワタシが縋ることができるのはお前だけだ・・・信じろ・・・・。」


 ゆっくりと立ち上がり男を見下ろす。


「そうだ・・・早くこっちへ・・・。」


 一歩ずつ、男に近づいていく。そうだ、彼はうそをつく必要なんてないじゃない。


「首輪を・・・。」


 もう一度喉を鳴らし、首を男に差し出す。男の顔が笑みに歪んだ。


「フヒヒヒ!!かかったな!」


 首を引こうとしたが、血まみれの男の手が伸び首輪ごと掴まれてしまう。


「ワタシの研究を台無しにしやがって! 道連れにしてやるぞおおおおお!!!!」 



芳雄視点


「ぐあっ!」


 変身したはいいが、攻撃が当たらない。


 芳雄は苦しんでいた、マンティコアは距離を保ちつつ常にヒットアンドアウェイで確実にダメージを与えてくる。

 芳雄もなんとか打開しようと身体を地面にもぐりこませ、一気に相手に向かって突っ込んだり。長い身体を使いフェイントを絡ませたり工夫はするのだが、どうしても単発でしかダメージが与えられず。マンティコアは危なくなったら空に逃げ、体を回復させた後仕掛けてくるものだからたまったものではない。 


 なんという塩試合・・しかしこのままではジリ貧である。確実に負けるのは芳雄の方だ。

 戦いながら芳雄は自らの運命を思っていた。


 なぜ俺はこの世界にスライムになって、現れたのだろうか。ひょっとしたら何かの使命でもあったのだろうか。いや、よそう、今はエルとルリたちをちゃんと逃がすために戦いに集中しよう。はぁ~しかし月並みだけど、死ぬ前に童貞捨てたかったなぁ~。


 その時だった。


「グラビティ!!!!!」


 透き通るような、しかし力強い声が天に響き渡り、マンティコアが何かに押しつぶされるように落ちてきて、ドカンと地面に激突した。

 声のする方を見ると。


「お待たせしました!芳雄様!」


 がれきの上で満面の笑みを浮かべたエルの姿があった。


-------------


「声が出るようになったのか!」

「はい! おかげさまでこれで魔法が使えるようになりました!」


 エルは目を潤ませて、しかしこぼれんばかりの笑顔浮かべて答えた。


「しかし無事でよかった~、でも逃げてくれてもよかったんだよ?」

「そんな、芳雄様を置いていくことなんてできませんよ」


 嬉しいことをいってくれる。しかしそうか、さっきのは魔法だったのか。すごい、目の前で魔法を見てしまったぞ! 日本に帰ったら自慢話にできるな・・・いや誰も信じてくれないか、でもいいな~魔法だぞ! 魔法!


 目の前でゆっくりと立ち上がってきたマンティコアを見ながらそんなのんきなことを考える。それほどエルがしゃべれるようになったこと、そして笑顔になった事が嬉しい。エルとであってからまだ短い期間だったけど、すでに俺の中ではエルとの絆はそれほど大事なものになっていたのだ。


 マンティコアは鋭い視線を俺に向けた。まだやる気なのだろうか?それともあのマンティコアは改造によって既に理性が飛んでいるのであろうか。

 なんにせよ、これで形成逆転といこう、いい加減引導を渡してやる。


「いくぞ、エル。」

「はい! 芳雄様!」


 今度はこちらからかけていく、もう不意打ちはまっぴらだからな!


 奴もここで決め時だと理解したのだろう。こちらに向けて轟音を轟かせ駆けてくる、しかしもう上空には逃げられない。サソリの尾を突き刺してきた時がお前の最後だと迎撃するために身体をスライムに戻す。しかし、マンティコアは突然急ブレーキをかけ口をこっちに向けて大きく開いた。


 フュオオオオオオ・・・・!!!!


 マンティコアの口の前にうねりのある黒い玉のようなものが膨張しながら現れる。


 ここにきて新技とか想定外なんですけどおおお!!


「アンチマジック!!」


 再びエルの透き通った声が空に響く。すると、マンティコアの目の前に現れていた巨大な玉が急速に縮小し始めた。


「ナイスだエル!」


 そうエルに声をかけ、再びサンドワームに変身し身体をくるりと回転させ尾を頭部に叩きつける、人間でいうところの胴回し回転蹴りだ。


 すさまじい衝撃がマンティコアの頭部に炸裂し、ドゴォン!という音が周囲の空気に衝撃波となって伝わっていく。


 やった!

 そう思った一瞬の隙を突きマンティコアの凶刃がサンドワームの身体を引き裂く。


「うぐぁ! まだくたばんねぇのかよ!」


 俺はそのままマンティコアに己の身体を絡み付かせ自由を奪おうとすると今度はサソリの尾を突き刺してきた。あまりの激痛に気が遠のきそうのなるのを必死にこらえ身体をスライム体に戻す。


 そして俺は奴の身体を、俺に同化させていった。奴が消える刹那、「アリガトウ・・・」と聞こえた気がした・・・。


「なんとかなりましたね。」

「ああ、なんとか倒せたよ。エルのおかげだ、ありがとうな。」

「いえ、私は別に・・・。私こそルリの事を助けて頂きありがとうございました。」


 身体も縮めた後、頭を下げるエルの頭をポンポンと撫でてやる。

 それから気になる事を聞いてみた。


「ルリちゃんはどうしたの?」

「はい、向こうの方で隠れているはずです。」


 エルはカバのいた岩場の方を指示した、良かった彼女も無事なようだ。身体をエルの身長の半分くらいまで縮ませルリの元へポヨンポヨンと体をはねながら向かう。


「あれ? 芳雄様? そんなに機敏に動けましたっけ? それに体も少し緑がかっているような。」

「ん~、なんかあいつを吸収したら体が軽くなってな、進化的ななにかが起こったのかも」


 そう、俺はどうやらあいつを倒したからか毒を吸収しすぎたからかはわからないが、あの戦いを経て進化したらしい、体が軽いし力がみなぎっているのを感じる。

 生き延びたことだし、せっかくだからこの体についても調べた方がいいかもしれないな。


 そんなことを考えながら歩いていくとどうもルリの姿が見えた、だがどうも様子がおかしい。


「ルリ! 終わったよ!」


 エルが声をかけてもなんの反応も帰ってこない。ひょっとして、なにか不測の事態でも起こったのか!?

 俺たちは一瞬顔を見合わせルリの元へ駆けて行った。

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