第15話 むだむだむだむだむだむだ

ルリ視点


 一体何が起こっている。


 最初エルが連れてこられたのだと思っていた、聞こえていた会話も私の想像に違わないものだったはず、しかし今の状況はなんだ?

 私は今、目隠しさせられているため音でしか今の状況を捉えることができない・・不意にガシャァという何かが割れたような音が聞こえた後、なにか言い争っているような声が聞こえてきた・・門番の目を潜り抜けた?どういうこと?・・・まさか助けが来たとでも・・・。


「な、なにが・・・むぅ・・。」


 思わず出た声は誰かの手によってふさがれてしまった。小さく、柔らかい手だ・・まさか・・。


「エル・・・・?」


 消え入るような声でそう尋ねるとその手で私の頭を撫でてくれた。そしてそのまま私の後頭部まで両手を廻し、目隠しをとろうとしてくれるようだ。


「ごめん・・ごめん・・・。」


 涙があふれた、元はと言えば私が森で狩りをしようなどと言わなければこんなことにはならなかったはずだ。私の涙は止まることなく、彼女の肩を濡らし続けた。


 目隠しが外され


「ありがとう・・。」


 と、言った。久しぶりに見たエルはうるんだ瞳を持った笑顔で頷いてくれた。


芳雄視点


 飛ばされた先にはエルと・・・・・ええと、手術着を着た蜘蛛女?がいた。え、蜘蛛女!?


「ゴホッ、エ、エルその子がルリって子?」


 血反吐を吐きながら、エルに聞いてみた。エルは心配そうな顔をしながら頷いた。


「そうか、よかった無事だったか・・・。」

「わ、私はアラクネ族のルリと言います。貴方もエルといっしょにここまで助けに来てくれたの?」


 なるほど、つまりここは生体実験の研究所ってとこか。しかしちょっと目のやり場に困るな、上半身は薄い手術着一枚だけだし、豊満な胸についたふたつのポッチが浮き出ているのがわかる。腰から下はなるほどアラクネらしく艶やかな光沢を放つ蜘蛛の体になっている。切れ長の目が二つと額に小さな目が三つある以外は美形なお姉さんって感じだ。


「ああ、まぁそんな感じだ。ちょっと待ってろ、今拘束具を溶かしてやる・・・。」

「させるか!」

「ぐっ。」


 メスが俺の手の甲に刺さった、焼けるように痛かったが手をスライム体に戻し消化してやった。こいつなんてことしてやがんだと、男をにらむ。


「おめーマジで頭おかしいだろ、罪もない人間を改造するとか信じらんねえ。」

「人間だとぉ? 化物の分際で笑わせてくれるな。生物兵器として我が帝国の礎になれるのだぞぉ? むしろ感謝して欲しいくらいだよ。」


 淡々と話す様子に頭が沸騰しそうになる。その時


「ガァアア!!」


 マンティコアがこっちにその長い牙を煌めかせ飛びかかってきた。


「ちぃっ!」


 ザシュッ


「ギャアアアア!!」


 叫んだのはマンティコアの方、向かってきたところにカウンターを合わせようと服の中をスライム状にしておいたのが功を奏した、消化液で溶かされたマンティコアの指先から煙が出ている。ざまぁみろ。


「むっなんと、正体はスライムだったかぁ!ここまで知能の高いスライムは初めて見るぞぉ!末永く研究できそうだなぁ!ヒヒヒヒ!」


 言いながら、なおも向かってくるマンティコア。迎え撃つ体勢に入る・・が


「なに!?」

「ガァ!」


 俺の手前で急ブレーキをかけ、サソリの尾を振り上げてきた。

 ブス


「うぐ!? あ!? あああぁあ!!?」


 刺されたところが痛い? い、痛い!!


「ほぉーーー!通常生物にサソリ毒は筋肉の収縮作用を起こさせ呼吸困難に至らしめるが、スライムに刺すとそのような反応になるのか!!」


 うれしそうに観察しやがって!くそっ!


「お、おらぁ!」


手を伸ばすが、もうかすりもしない


「ヒヒヒィ!! 無駄無駄ぁ! スライムの反応速度でマンティコアの回避能力に対応できるか!」


 ブス

 ブス


「ぐあぁぁあ!」


 痛い!痛い!くそっなんでも溶かせると思ったこの体だけど、毒は効くのか。再び振り上げられるマンティコアの尾、なんとか迎撃しようと身構えた俺の目の前に何かの影出てくるのが見えた。


 ドゴォ!!

 マンティコアが宙を舞う。


「大丈夫か!?」


 それは------拘束具と管を外したルリの姿だった。

 形勢逆転だ、ふ~と息を吐きだす。


「ま、まさか、その拘束具はわが帝国の技術の粋を集めたものなんだぞ!!」

(拘束具に技術の粋を集めるなんてきっと変態な国家なんだろうなぁ)


 エルさん、緊張感もって。


「こうなったら・・。」

「逃がさねえよ?」

「巨大化だ!」

「へ?」


 男は懐から取り出した注射器を倒れていたマンティコアに突き刺した。

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