第14話 美味しくなさそうなゼリー
スライムの体は強力だが、鈍足だ、サンドワームはこの部屋だと大きすぎる。
今変身できる物の中で最も使い勝手がいいのがこの人間体である。ただし、最も脆いのもこの体なので気を付けなければいけない。
ほんの数メートル先、人の背丈ほどもある緑色の液体の入った大きなボトルの前で男は立ち止まった。追い詰めた!と思い襲いかかる。男は拳を振りかぶりガシャアッと、ボトルをたたき割りながら手を突っ込んだ。
意味の分からない行動に薄気味悪さを感じながらも、とりあえずおどしのつもりで刃を振り下ろす----ぐにぃ---男の手に張り付いたゼリーのようなものにナイフがめり込んだ。そのまま自分の腕まで吸い込まれそうな感覚に恐怖を覚え、咄嗟にナイフを手から離し、男から距離をとる。
(なんだ、ありゃあ。)
信じられない光景に芳雄は目を見開いた。男の腕には緑色のスライムのようなものがまとわりつき、それを盾のように使い身を守っているようだ。
ナイフはその中に完全に入り込みゆっくりと男の手に向かっていく。
「んん?貴様、マンティスでは無いようだなぁ。」
カシャンと男の左目が後頭部からレールを通って前面に戻り、両目で芳雄の姿を捉えた。
「う・・・。」
「マンティスは腐っても元帝国正騎士だ、ナイフ使い一つとっても確実に目標を切り裂く技量を持っているんだぞぉ? 貴様の動きは素人のそれだったな。」
ナイフはゼリーの中を通り、男の右手に収まった。男はナイフの刃を見たり左手でもてあそんだりしている。一体何なのだあの緑色の物は。
「ああ、これかぁ? ヒヒヒ、どうだぁ? 素晴らしいだろう? ワタシの技術で変異させたスライム細胞だぁ。大抵の物理的な衝撃に抵抗力を持っている。 ・・・門番の目を潜り抜けたのは見事だったぞぉ? だがここまでだなぁ。検体をここまで運んでくれたのは礼を言おう・・・・・ おお? 貴様も相当な魔力量を持っているようだな。ヒヒヒヒ、どうだ? このままおとなしくしてもらえれば苦しまずに実験してやるが?」
「な」
「な?」
「何言ってんだてめえ!」
右手をスライム体に変え、相手の顔面に向かって伸ばした。しかし、やはり腕に纏ったスライム細胞に防がれる。
触れた部分から消化液を出してみたが、伸ばした腕から出る消化液では量が少なく大して溶かせなかった。
「ほほぅ、面白い体をしているなぁ! 益々興味が出てきたぞぉ! あのエルフだけでも良かったがこれは思わぬ収穫だ! しかしこの消化液は危険だなぁ。」
男の顔がさらにニヤニヤとゆがみ、さらに俺から距離をとろうと壁際まで下がった。
「逃がすか!」
こうなったら体全体で包んで消化してやろうと、相手に近づく。
カチリ・・・
(なんの音だ・・?)
ガコォ!!!!!
いきなり左側の壁が開いた
(もう知るか! いろいろありすぎてどうでもいいわ!さっさと奴を殺して終わりだ!)
一瞬目をやるが構わず突進しタックルの体制に入る・・・ が
ドゴォ!
左からのものすごい衝撃に吹き飛ばされた。
「グルル....」
ゲホッっと血反吐を吐きながら吹き飛ばられた方を見る。そこには獅子の体にサソリの尾、そして蝙蝠の翼をもった化け物がいた。
・・・マンティコア・・だっけ?昔やったゲームにこんな奴がいた気がする。
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