第13話 やっぱ大根でした

 少し時間がさかのぼって。ケインズがエルを殺そうとした時の事。


芳雄視点


 あっっっぶねええええ!!


 うつ伏せのままの俺の背中に冷や汗がぶわっと湧いていた。間一髪だった、少しでも遅れていればこのひょろ長い男の持ったナイフが、エルの首をかっさばいていただろう。

 芳雄はがっくりと失神した男の顔を見た。男が油断した隙をつき、男の死角からゆっくりと首に細長くしたスライムの体を巻き付け、一気に締め上げたのだ。


「エル!大丈夫だったか?」

(えへへへ~芳雄様に可憐って言われちゃった~。)

 ・・・大丈夫そうだな。てか「様」ってなんだよ。


 俺は安堵し、天井を仰ぎ見た。


(しかし俺の演技が下手くそだったのはともかく。)

(はい。)

(うぐっ・・ なんだってこいつエルにまでいきなり襲ってきやがったんだ?)

(ん~なんででしょう? ここの主の方に引き渡すつもりだと思っていたんですが。)


 なんか腑に落ちないな。なんというか、普通はナイフを向けたきっかけ的なものがあると思うんだが・・・ 本当にいきなり刃を向けた感じなんだよな・・・ う~む・・・。

 エルを様子を見てみると、こっちをじっと見つめかえしてきた、瞳がうるんでいるように見える、やっぱり怖かったんだろうなと思い急激に庇護欲が刺激され、頭を撫でてやった。


(ふふ~。)


 やべえ、くっそかわいい。


(・・・・・はっこんなことしてる場合じゃねえ!早くお前のツレを助けないと!)

(! そ、そうできたね!)


 いやまじでこんなことしてる場合じゃねえ、こんな死体さっきの門番に見られたら騒がれるだろうし・・・。

 あ、そうだ。


(エル、ちょっと待ってて、こいつから使えるもの剥ぎ取るわ。)

(はい!わかりました!)


 うむいい返事だ、やっぱいい子だな。

 さっきからやけにエルのことがやけに可愛く見える・・・ 全く意識とかしてなかったと言えば嘘になるけど・・・ 俺が童貞だからか? なんだろうエルの目を見た時から急に・・・ ああ、いや、それは後でいい、この件が片付いてから考えよう。


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 てゆーかスライムなのに、なに考えてんだ俺は。

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 男の持っていた服を着てナイフを腰に差し外陰をはおり、部屋の一角にあった陰気な雰囲気のする階段を下っていくと扉が現れた。

 驚くほど近代的な扉だった、病院の手術室のような感じだ。確かに研究所っぽいとは思うのだが、もっとこう、異世界って中世的な感じだと思っていたんだけどなぁ・・・。


 とりあえず、ノックをして予め考えていた台詞を言った。


「おい! 俺だ! 捕獲したエルフの少女を連れてきたぞ。」」


 扉に手をかけようとしたら勝手に開いたので驚いた、そしたらねっとりとした笑顔を浮かべた男が目の前に現れた。どうやらこの男がこの場所の主らしい。


 見た目は20代前半だろうか、目は右にしか付いておらず、左目があったのであろう場所には後頭部までレールのようなものが付いている。髪の毛は黒くボサボサで手入れが全くされていないのだろう、臭いも酷い。医者が着るような白衣を纏っているが、インナーはラフな茶色のTシャツで服装なんかに気を使う気はないと主張している。何が嬉しいのか口元は常にニヤけていて、薄気味悪い。その場の流れに任せて会話を続けつつ、部屋の中に気を配ってみたが、試験管と書類だらけでいかにも怪しげな研究が行われている事を思わせる。


 しかし、俺たちが探しているものはそんなものではない。

 会話はエルの事に移る、その時。


「エル・・・ ああ・・・ そんな・・・。」


 いた、いや、ここからだと死角になって見えないが、恐らく右手の奥の方だ。

 横目でちらりとエルを見ると頷きはしないが此方に視線を送ってきた。やはり今の声がルリで間違いないらしい。そうとわかればさっさと目の前の男を始末して、エルとルリを連れて逃げるだけだ。

 檻の鍵を開けよう。と、男が向こうを向き、腰につけていたナイフに手をかけた刹那。


「なんの真似だぁ!」


 後頭部まで続いていたレールに乗った左目に見られていた。


「い、いや。(な、なんだこいつ・・・!!)」


 急に呼びかけられたこと、その後ろについていた目に思わず呆気にとられてしまった。


 突然、男が走り出した!

 おれは暫く呆然としてしまったが、ナイフを引き抜きながら男に追いすがった。


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