第10話 変☆身
(ヨシオさん! ヨシオさん!)
(なんだよ、もー、遠慮すんなとは言ったけどさぁ、さすがに1時間おきはきついよぉ。)
(いや、そうではなくもう日が落ちそうです。)
(え? あ、やば、火起こさないとな。)
火を起こすのは昨日と同じ手順でやった。
(でも今日はどうします? 囲いにできる窪みとかは見当たりませんが・・。)
(ああ、今回は考えがあるんだ。ふふふ、ちょっと離れていたまえ。)
(え? あ、はい。)
エルは俺の頭に乗せていた手をどけて2mほど距離をとった。そして俺はこほんと咳払いしたあと。
「変身! 巨大ミミズ!」
そう叫び10mほどの巨大なミミズに変化した。そして穴を掘るべく体をつり上げ、地面に体当たりした。
ずももも、とある程度まで掘ったところで変化を解き。振りかえる。
「ちょっとやりすぎた。」
そこには縦3m横5mほどの大穴が空いていた。エルは突然現れた怪物に思い切り顔を引きつらせていた。
(どうやって降りようね? これ。)
(どうやって降りようね? じゃないですよ! もう本当にびっくりしたんですから!)
大穴の縁でエルはまた俺の頭に手を乗せていた、大穴は垂直に縦3mある。
(でも、まさかサンドワームに変身できるなんて思いませんでした。)
エルは感嘆とした声で言った。
(ああ、あれってサンドワームって言うんだ)
(何気ないように言ってますけど、あれでも伝説の怪物ですよ?)
(え? マジ?)
意外だ、食べたときはでかいから印象に残っていたんだが、さして苦労した覚えはなかった。
(ただのでかいミミズじゃないの?)
(半分くらい大きさのものなら私の住んでいた国にもいましたが、それでも騎士10人がかりでやっと倒せるような怪物です。さっきの大きさなら町くらいの規模の集落なら滅びかねませんよ?)
(うええ!?)
(でもすごいです。ヨシオさんといっしょならなんとかできそうな気がしてきました。)
エルはまっすぐキラキラとした目で俺を見た。
(で、どうします? 穴はできましたけど降りれなかったら意味ないですよ?)
(ん~わかった、じゃあこうしよう)
そう言って俺は体を滑り台のように変化させ、穴の下まで降ろした。
(本当になんでもありなんですね。)
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朝になった。
俺はエルを起こし、カバに水を飲ませた。もちろんこのカバにもエルほど定期的に水は飲ませている、おかげでだんだん俺になついてきているようだ、可愛い奴め。ちなみに昨日エルにちゃんとした名前を教えてもらった。”カバクダ”というらしい、カバの見た目にラクダのこぶ・・・ まんまだな。
その後エルの水分補給も完了し、ルリというエルの友人がいるかもしれない場所に向かって出立した。
相変わらず刺すような暑さが続く、俺を持っているエルの汗が身体の中に吸収されていく。
いや、そういう趣味じゃなくてね? 自然と入っていってしまうんだよ。
その後も変わらない景色に嫌気が指してきた所で、それは現れた。
(おい、あれ。)
(なにか見えてきましたね。)
それは箱に窓をつけたような建物だった、白いのは暑さ対策なのだろうか?日光が建物に反射して眩しい。門番がいることを考え、カバを岩影に隠し、二人で隠れながら近づいていった。
(入り口は・・・ あそこだな門番が二人いるみたいだ)
(あの白い建物の周りはまた白い壁に囲まれてるようですからこっそり忍び込むには厳しいですね)
(そうだなぁ、下手に壁を上ったりしたらばれそうだしここは正面突破といくしかないか)
(やっぱり昨日の夜考えた作戦でいきますか、中がどうなっているかわからいので少し不安ですが)
(その辺はなるようになるしかないな)
エルはクスリと笑い真剣な声で「はい」と言った、彼女も覚悟を決めたようだ。
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「はいすとーっぷ!」
門の右手にいた小太りな体に髭を蓄えた目付きの悪いおっさんに呼び止められた、左手には長身で頬のこけた青年がいる。二人とも同じ薄いピンク色のベストようなものを着ている、ピンク色は砂漠では迷彩の役目を持つらしいが。同じ服なのはこれが制服だからなのだろうか。
二人ともいかにもやる気のない感じだ、こんな辺鄙な場所に二人だけでたたされているのだ、仕方がないとも思う。
「よぉマンティスの旦那か、ずいぶん早いご到着じゃないか、あと獲物が手に入ったと聞いてはいたが、ここに来るまであと1日はかかると思っていたぞ?」
今俺はあの奴隷狩りの姿になっている、これで傍目には怪しくは見えないはずだ。エルは後ろについて顔を伏せてもらっている、少しでも悲壮感を出す演出だ。
「え? あ、ああ、その、今回は道中の魔物が少なくて、運が良かったんですよ。」
「ですよ? おいおい敬語なんて似合わない口調をするなよ、そんなキャラじゃないだろお前は。」
うわっまじか、出鼻をくじかれた。
「い、いやだよ、ちょっとからかっただけだよ、気にするなよ。」
ぐっ今度は普通に変な口調になってしまった。
「そうそう、その口調がお前には合ってるよ」
合ってるのかよ。
「しかしそうか、あの噂は本当だったのか」
「あの噂ってなんだよ?」
「なんだ? 危険だと言われてた例のあのルートを通ってきたんじゃないのか?」
「危険なルート? ・・・・ああ、そうだよ、うん実は噂であのルートが安全になったって聞いてな、よ。半信半疑だったが通ってみることにしたんだよ、結果はご覧の通りだよ。」
危ない、エルがとっさに足先で俺に触れてテレパシーで実はあのルートは元々危険な道だったと教えてくれた。
「良かったな、あのルートが安全になったのならもうヒィヒィ言いながらくることもなくなるだろう。」
「ああ、じゃあ中に入って彼女を引き渡したいんだ、よ。」
「彼女? なんだいつも奴隷を”これ”呼ばわりして物扱いするお前にしては珍しいな。」
「ふぇ!? さ、流石にこんなに可憐な少女をモノ扱いするのは、俺だって気が引けるよ、ははは。」
「なんだ? その反応は? ん~?」
小太りの男が俺の表情を覗き込んできた。やばい! ちょっと不自然すぎたか!? せっかくエルがフォローしてくれたのに無駄になっちまう!
「さてはお前・・・」
「な、なんだよ・・」
自分でもわかるくらい目が泳ぎ始めていた。
「惚れたな?」
予想外の反応に一瞬思考が停止する。横の長身の男が未だにつまらなそうな顔をしているのが目に入った。
「はぁ!?」
「いや~でもわかるよ、そんな子をあの親父にやっちまうなんてもったいないなんて思ってんだろ?」
なにこいつめっちゃニヤニヤしてくる、キモイ。
「しかしだな、ここまできてお前だって引き返せねえだろ? この計画が成功すりゃ俺もお前もこれから安定した生活が手に入るんだ、あきらめな」
「お、おお」
「よし、じゃあ、中に入れ。おいケインズ! マンティスさんを研究所に中に案内してやれ!」
ケインズの呼ばれた長身の男は眠そうな目を凝らし小太りの男と何事か小声で話した後「入れ」と言って俺とエルを建物の中に導いてくれた。
ふぅ、とりあえず第一関門突破だな。
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「わかるな?」
「ああ、あいつ違うな」
「殺せ」
「了解」
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