第8話 改めてよろしくね

 翌朝


「------!!!」

目覚めたエルは俺を見るなり昨日のことを思い出したらしく、また顔を青くした。しかし今回は気を失うことはなく、今度は顔を赤くして泣き始めた。


「(もうお嫁にいけないよおお!!)」


 多分こんなことを言ってるんだろう。

 エルはあの鞍を乗せたカバの腹に顔をうずめてじたばたしている。やっぱりこの動物忠誠心が高いようで、俺が寝ずに火の番をしている時も俺たちの周りから離れることはなかった。


「自己紹介忘れてた俺も悪かったけど、あの場合はしょうがないって。それに秘密の事なら俺が言わなきゃばれないし、この世界じゃスライムが喋る何てことないんだろ?それならめったなことじゃ喋りかけられることはない、大丈夫だって」

「----!」


 そう宥めたが相変わらず涙をいっぱいに浮かべて俺に非難の目を浴びせてくる。


「それにルリちゃんのこともあるだろ?」

「!」


 そう言うとエルは眉根を上げてうつむいた。

「俺が言えた義理じゃないけど、いつまでもこんなところで大事な幼馴染をほっとくわけにもいかないだろ?俺も一緒に行くって決めたし、立ち止まってる暇はないんじゃないかな。」

「・・・・。」


 沈黙が痛い


「ーーー・・・・・。」


 首輪のせいで声が出ないため、ため息をひとつついた彼女は俺の頭に手を乗せてきた。


(そうですね、私もなにがあろうとサヤを救うと覚悟を決めましたし、自分の痴態がちょっと男の人に漏れたからって・・・ 漏れたからって・・・・)


 涙を目いっぱい蓄えて、今にも泣きだしそうだ。


(まぁ、その、俺の故郷だとエルくらいの年齢でもまだ父親とお風呂に入っているって人もたくさんいたらしいし、そんなに気にするなって。)


 そういうと脱力したのかエルが俺の上に覆いかぶさってきた。俺はそれをプヨンと受け止めた。


 はぁ~~~・・・、とまた大きなため息が聞こえ。


(もういいです、早くルリのところに行きましょう)


 うん、本当ご愁傷さま。


 さて、じゃあ行きますか、とカバにポンと乗った時ふと思った。


(あ、そうだエル、朝ごはんどうする?)

 エルは急に言われて驚き、怪訝そうな顔を浮かべた。


(え・・あるんですか?)

(いや、確かに食べる物はないけど、これからまた砂漠を行かなきゃならないんだし。水分補給だけでもした方がいいんじゃないか?)

(あ~なるほど、確かにそれはそうですね、でも今は不思議とおなかも減ってないですし、のどもそんなに渇いてないんですよ。貴方からいただいた水のおかげかもしれませんね・・・と言うか食料全部消化しちゃったあなたが言います?それ?)


 痛いところを突かれた。彼女のジト目から目をそらす。


(う・・ そういわれると辛い・・ が、用心ってこともあるし、いくら今のどが渇いてなくたって水分補給しておかないとまた熱射病で倒れてしまうぞ?)

(それはそうですね。お心遣いありがとうございます。・・でやっぱあれですか昨日の・・)

(え!? あ、覚えてたのか、ってか意識あったのか?)

(はい、おぼろげですが)


 そう言うとエルはすこし顔を伏せた。俺は昨日飲ませた物のことをどう打ち明けようかと思案していたので手間が省けてちょっと拍子抜けした。


(うん、まぁ、あれしかないかな他に飲むようなものはないし。背に腹は代えられないと思って我慢してくれ)

(はい・・・)


 益々俯いてしまった。まぁそりゃ元は泉の水とはいえ魔物の分泌液とか嫌だろう。でもなにも飲まないでおくと干からびちゃうし、仕方ない、我慢してもらうしかない。

 

 しかし、俺はこの時、彼女がうつむいていた本当の意味を知る由もなかった。

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