第7話 この素材は自由な形にできるみたいです。

 そうだ、日が落ちてきたから早くたき火をしないと、この辺は夜すごく寒くなるから。念話でエルにそう言った、エルも昨日までの旅路でわかっていたらしく素直に応じてくれた。


 二人して薪の代わりになりそうな枯れたサボテン枯れたサボテンを集める。砂が少ないので枯れサボテンが砂に埋まっているという心配もなく、すぐに燃料は集めることができた。物理無効な俺はともかくエルにはサボテンの棘は危ないし、今まで熱射病で死にかけてたんだから無理しないでいいよと言ったが彼女も結構な量の燃料を集めてきてくれた。

 ちなみに集めた場所は俺が泉に擬態していた窪みだ、ここなら日差し夜多少風が吹いても火が消えたりはしないだろう。


 ありがとう、お疲れさまと言ったらにこっと笑ってくれた。


 それはさておき早速次の問題だ、どうやって火を起こすか。一応エルに聞いてみるがやはり火を起こすような道具は持っていないらしい、ああ、そりゃそうか、彼女があの衣服以外何も持っていないのは直に確認済みである。


 日は徐々に落ちていく・・。


 早くしなければと焦りそうになったが、一つの方法を思いついた。まず、燃料を抱えて窪みの淵の日の当たる場所に行った、エルはきょとんとしながらこっちを見ている。そして俺はおもむろに自分の体を平べったく真ん中だけが膨らむように身体を変えた。巨大な虫眼鏡である。

 太陽の光が集まり、強い熱量を持たせた点を燃料に向ける。しばらくくすぶっていたが、次第に火が付いた---離れたところから拍手の音が聞こえた、ふふん---そして焚火くらいの大きさになるまで火を調節した。


 すっかり日も落ちて砂漠に静寂が訪れる、時折強い風が吹く音が聞こえるが窪みの中は微風並みに収まっている。

 パチ・・・ パチ・・・と、燃えるサボテンを二人で見ていた。


(今度からなるべくお互い触れあっていきませんか?)


 エルは座りながら俺の頭に手を添えて、急にこんなことを言ってきた。俺の今の大きさは50cmくらいなので彼女のひじ掛けみたいになっている。


(え?何?欲求不満?)

(ち、違いますぅ!急に何かが起こったときコミュニケーションが取れてないと不便でしょ!それに、貴方の声だけが通じて私の声が通じないなんて不公平です。)


 エルが俺の頭を叩くので、ポヨンポヨンと身体が跳ねる。


(なるほど)

(それにテレパシーの練習もしていかないといつまでも不便なままですし)


 確かにサボテン拾いの時もお互いの意志が上手く伝わらなくて不便だった。


(じゃあ今度からなるべく離れないようにしようか)

(はい、しかしスライムとこんな話をする日が来るとは思いませんでした。)

(俺もまさかスライムになるとは思わなかったよ。)

(・・・。)


 急に会話が途切れた、おや? っと思いエルを見上げるとぎょっとした顔でこちらを見ている。


(え、え~とスライムさん?)

(ん、なに?)

(スライムさんは、スライムさんですよね?)


 急に何を言ってるんだといぶかしげな表情を彼女に向けた。


(スライムさんは、ずっとスライムさんだったんですよね?)

(いや、だから俺はずっとスライムだったわけじゃないよ。それにちゃんと名前もいったじゃ・・・。)


 彼女はますます目を見開き俺を見た、焚火の明かりしかないのでよく見え無いが、若干青ざめているように感じる。

 そこで俺は思い出した、確かに自己紹介はした。だがそれは”日本語”で、だ、あの時実は俺は焦ってしまって”こっちの言葉”で自己紹介するのを忘れていた。


(エルさん)

(はい)

(すいません、あなたに勘違いさせてしまったようです。)


(・・・。)

(あの時ちゃんと自己紹介してませんでしたが、俺は異世界からやってきた元人間で名を芳雄といいます。)


 エルの顔が白くなった、と、思ったがすぐさま真っ赤になりトスン、と後ろに倒れた。


 ・・・あれ?もしかして今夜は俺一人で火の番?

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