第6話 今更だけども・・・


 やはりここは魔法の使えるファンタジックな世界で、俺が元いた世界とは違うらしい。


 なんてこった、どうやって元の体に戻ればいいのかってことでさえ難題だったのに帰るためには世界まで超えないといけないなんて・・・・。

 ただ、帰る前にこの知らない世界をちょっとめぐってからにしたいとも思ってしまうのは旅行好きの性なのか。


(どうやら、ここは俺が元いた世界とは違うらしいわ、そんな大陸も国も聞いたことないもの)

(元いた世界ですか、スライムさんはこの世界で生まれたわけではないんですか?)

(うん、俺は元々日本っていう国に住んでいたんだ。)

(でしたら納得です、私、言葉が喋れるスライムなんて聞いたことも見たこともなかったですもの。)


 ん? いや、その前に俺、元人間だったんだけど・・ まぁいいや今は確かにスライムだし。


(喋れると言えばその魔道具ってのはなんなの?)

(これが、あの人さらいにつけられたのですが、これをつけられると声が出なくなるらしくて)

(外すことはできないの?)

(あの人が言うには無理に外そうとすると爆発してしまうみたいです。)

 

 何それエグッ。

 外し方がわからないんじゃどうしようもないなぁ。

 

 はぁ、と息をつく。


 ああ、そうそう、肝心なことを聞いてなかった。


(そういえば、遅くなってしまったけど、君の名前はなんて言うんだ?)

(はい! 私はエル=クリスティアナ=ゼルディアスと申します、エルとお呼びください。)

(エルね。エルはなんでこんなところで行き倒れてたの?)


(実は故郷で私の友達と遊んでいたところを人さらいに見つかり--その時はその友達が身を挺して守ってくれて私は難を逃れたのですが--そのあと追手に捕まってしまって・・・ 奴隷として売られ、砂漠の真ん中にいるというとある方に買われ運ばれていたのです。道中--あ、私を運んでいたのがその人さらいの人でした--水分を与えてもらえず、気を失っていたところ、気が付いたらあなた様に助けられていたというわけです。)


 ふ~む、思ったより込み入った事情があったらしい。人さらいがいるとは平和な日本では考えられないような世界みたいだ。

 しかしさっき殺してしまったのは人さらいだったのか、薄情かもしれないがそのことに少し罪悪感が薄れた。


(それで、どうする? 故郷へもどるのか?)

(いえ、私としてはこのまま私を買ったという人のいるところに行きたいです。)

(え!? なんで? 自分から危険なところに行ってどうするの?)

(人さらいが言っていたのです、これからお友達のところに連れて行ってやるから楽しみにしてろと)

(なるほど、ということはこの先に・・)

(はい、ルリがいるはずです・・)


 ルリというのはエルの友人のことだろうか。


(・・助けにいくつもりか?)

(・・はい)

 

 テレパシーではあったが、とても小さい声だった。しかし同時に意志の強さを感じる声でもあった。


(でも君は今魔法を使えないんだろう?きっとそのルリって子も君が再び捕まるような危険を冒すことなんて望んでないはずだ、君をかばって捕まったって言ってたじゃないか。)

(でも!・・・ルリは私のことを身を呈して守ってくれました。今度は私の番だと思います。)

 

 少女は体を震わせて俺の言葉を遮るようにそう言った。正直気丈というよりも無謀だと俺は思う。相手はさっきまで彼女を拘束していたやつの親玉、しかも彼女は魔法という力を失っている、この世界の常識に詳しくない俺が言うのもなんだが、このまま敵の所に行ってどのような策を用いたとしても結果は見えているように思える。


 さて、俺はどうしようか。今のところこの世界にはなんのあてもない。目の前には今のところ唯一頼れる少女がいる、しかし彼女はこれから死地に赴くと言う・・・迷うことはないか。それに俺、なんか嫌いじゃないんだよね、こういう心意気みたいなの。


(そうか、じゃあ俺も行く。その子を助けよう)


 俺の言葉に彼女は大きく目を見開いた。

(え? 嘘、そんな関係ない人を巻き込むわけには・・・)

(旅は道連れ世は情けって言ってな、旅の出会いは大事にするタチなんだよ俺は。それにこんなところに居ても干からびるだけだしな)


 エルは眉をしかめた。

(でも・・ どんな危険が待っているかわかりませんよ? あなたにとって利益があるとも思えませんし。)

(信用できないか?)

(いや、そういうわけではないですけど、これは私達の問題ですから関係ない方を巻き込むわけには・・・)


 俺を気遣ってくれたようだ、わらをも掴みたい所だろうに、俺は益々この子の事が気に入った。う~ん、と一度唸った後言葉をつづける。


(あのな、俺は今さっき自我を持った所でなんの”あて”もないんだ、それにこの道を戻って人さらいの元々いた場所に行ったとしても、そこにいるのは俺の同族ではなく人間だろ? 俺はモンスターだ、この世界の常識がどういうものなのか俺にはわかったもんじゃないが、あまりいい顔はされないだろうってことは予想できる、さっきエルが言っただろう? 言葉の通じるスライムなんて初めて見たって、俺が誰かに見つかったら問答無用で切りかかってくるやつとかいるんじゃないか?)


 実際はどうなるかわからないが、俺の知っているゲームに出てくるスライムって大体最弱のモンスターで勇者に一番最初にやられるし、そんな感じになるイメージがある。エルもテレパシーで「確かに」って言っちゃってるし。

 俺はエルの目をじっとみた。


(それに対しエルは今のところこの世界で唯一のコミュニケーションのできる、俺にとって唯一の頼りだ。

 なにも善意だけで決めたわけじゃない、俺のためにも君たちに協力しようっていうんだ。それと俺の性分だ。)

(性分?)

(さっき言っただろ旅は道連れ世は情け、一期一会とも言うかな。)

 

(貴方の言葉を信じるなら確かに理には適っているように思えます。私にとっても魅力的な提案です。)


 エルはあきらめたように息を吐いた。しかしその目に希望の光がともったのを俺は見逃さなかった。表情も幾分晴れ晴れとしたものになった。


(わかりました、少なくともあの人さらいと一緒に行くよりは全然いいですしね!)

(こんなかわいい子にそんな風に思ってもらえてうれしいな。)

(・・・・思いっきり下心聞こえてますよ。)


 おっと、まだ俺も完全にテレパシーに慣れたわけじゃなかったか。


(こほん、行く以外ないよ。)

(・・。)


 エルは俺をじっと睨んでいるが、その口元はわずかに緩んでいる。それを見て俺もうれしくなった。



 こうして俺はこの世界で初めての仲間を手に入れたのだった、まぁ実はさっきから本当は心細いって何度も思ってたみたいだから断られるなんてはなから思ってなかったけどね。

しかし、それにしても。


((この会話方法・・早く慣れないとなぁ。))


 砂漠の真ん中で二人は苦笑いし合ったのだった。------

(私の名前はエル・・、エル=クレスティアナ=ゼルディアスです。)

(エル、エル♪ エルはラブのエル♪)

(??)

(すいません続けてください)

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