第2話 エルフの少女に俺の体液を流し込みました

 頭がまだぼんやりする・・・


 俺の名は坂本芳雄。とあるホテルに勤める営業マン・・・ のはず・・ いや、認めよう。俺は今スライムだ、今までの記憶がそれを証明している。

 思い出そうとしてもあまりはっきりとした物は浮かんでこないが、今、俺の中にある経験がその事実を確たるものとして認識させている。


 なぜ今更自我が芽生えたのだろうか? 今人間を食べたのが原因か? そうだ、今さっきおれは人間を食って・・ おぇぇぇえええ


 思い出したら吐き気がしてきた、本能に従って行動していたとはいえ、あいにく俺はカニバリズムの趣味はない。しかし、さっきの光景を反芻せずにはいられない・・ 強烈な経験だった。


 ただ、あの男には同情はするけど、あまり罪の意識とかは感じないな、長いこと魔物やってたせいかな。


 俺は顔を青くしながら(元から青いけど)今の状況、そしてこの場所での記憶を確認しようと試みた。


 最初の記憶は数年くらい前だと思う、多分・・。その時多少でも知性のある生き物を取り込んだのだろう。その後また何年かにわたって、泉に擬態すれば向こうから獲物が寄ってくると学んだ俺は巨大ミミズ、虫の化け物、でかいハゲワシ等々、霧のかかったような記憶の中の話ではあるがそんな生き物たちを吸収していった。


 そして今、俺は遂に人間を吸収し、やっと知性を、人間としての自分の意識を取り戻したんだ・・。彼の荷物も一緒に吸収してしまったようで、身元の確認もここがどんな場所なのか知る手がかりも失ってしまったようだ。


 はぁぁぁ、これからどうしよう・・・・。


 自分の置かれた状況と、今やってしまった事に対するショックのせいでしばらく呆然と立ち尽くしていると、前方に今しがた自分が消化した動物によく似た生き物がいるように見えた。


 先ほど俺が食べてしまったあの動物には鞍のようなものがついていたような気がする、もしあれがこの地域で使っている移動用の動物だとすると、ひょっとしたらあそこに人がいるかもしれない。今の俺の姿を見られたら驚いて怖がられてしまうかもしれなが、ここで呆然としていても仕方がないし、他に手がかりがない以上、その時はその時で対処するしかない。

 兎に角あの動物のいる場所まで移動してみよう。


 完全に立ち直ったわけではない俺ではあったが、己を無理やり奮い立たせ、意を決してずるりと直径10mほどもある巨体を揺らし、その場所へ向かってみたのであった。


 たどりついてみるとそれは確かに先ほど自分が食べた動物だと思えた、芳雄の巨体におびえたのか、ひどく怖がっているように見える。

 しかし注目すべきはそこではない、その動物の背中には明らかに人が乗るためであろう鞍が乗っかっている。


「ああ、ごめんな。ちょ、ちょっと待ってくれ。」


 芳雄はその動物から20mほど離れた場所で立ち止まり、自身の体を収縮させた。泉に擬態していた時に無意識にやっていたことでもある。意識のある今でもできるはずだ。


 すると直径10mほどもあった身体が50cmほどまで縮ませることに成功した。しかし、それでもその動物はブモォブモォと落ち着いてくれない。


(まぁ俺の姿形はさっきと大きさ以外変わってないからなぁ、こいつの主人は食っちまったしどうしたもんか・・・ ん? ちょっと待てよ? 今まで泉に擬態できてたんだから、ひょっとしたら他の物や生き物にも擬態できるんじゃないか?俺。)


 先ほどの男の姿を思い返し、その体を自身の体に投影させるようにイメージしてみる。すると、見る見るうちに身体が再構築され、肌の色や来ていた服まで再現することができた。


 おおこれはすげえ! もしかしたら泉に擬態できたのも泉そのものを吸収したからなのかも。


 そんなことを考え、困惑している様子の動物に近づいていった。

 先ほどの巨体の印象をぬぐえずいまだ警戒を解くことのできないその”カバ”であったが、自身の主人の姿を見て多少安堵したのであろう、芳雄が近づくのを許してくれた。


「お前ここがどこかわかるか?」

「ブモォ?」

「はぁ・・・ いや、何でもない。」


 これからどうしようかと空を見つめながら途方に暮れる。

 するとカバがいきなり俺の服の裾をくわえて引っ張り始めた。


「うおっと!?」

「ブモォ!」

「なんだよ急に! そっちに行けばいいのか?」

「ブモォ!」


 カバに導かれるままついて行くと岩場の影に布に包まれた荷物のようなものがあった。


(なんだろう? この場所がどこなのかわかるような手がかりがあるといいけど)

 さらに近づくとそれは荷物ではなく眠っている人の形に見えた。


「も、もしかして人か!?」

「ブモォ!」

 興奮を覚え、ちょっと声をかけてみようと思った。が、懸念が一つある。


(あ~そっか、日本語が通じるわけねぇよなぁ。)

 そうなのだ、ここは明らかに日本ではない、こんな荒野のような砂漠地帯は、元々旅行好きで日本のさまざまな場所に行ったことがある自分でも、いったい何処なのか皆目見当がつかない。


 それでもなにか行動をしないとこちらに気付いてもらえないだろう、今は少しでも情報が欲しいのだ。どうやら寝ているようだが起こすしかあるまい。


「え、えくすきゅーずみー?」


 思いっきり日本語英語であるが尋ねてみた、が、無視される。


「すいません! 失礼ですが起きてもらえますか!?」


 開き直って通じないことを承知でちょっと大きな声を出してみる。が、それでも付いてもらえない。

 流石に変だと感じ、胸騒ぎがしたサトシはフードに手をかけてみた。


「ちょっと! いくら言葉がわからないからと言って無視しないで・・・」


 顔を覗き込んだ彼の目に移った人物、それは可憐でとても美しい印象を受けるが、目はうつろに息も絶え絶えで今にも死んでしまいそうな少女であった。


(え、これやばくね? もしかしてこれって熱中症か!?)


 よく見れば、本来は白いのであろう肌は強い日光のせいで赤くはれ、乾燥でカサカサになっている。唇は重度の脱水症状のためか所々が割れて血が滲み赤い線ができている。


「水! 水はどこだ! 積み荷は!?」

 そばにいる動物も見ても他に積み荷がある様子はない、そこで彼は思い出す。もう一匹の動物の一緒に積み荷を消化してしまった事を。


(やばい! 俺のせいでこの子まで死なすわけにはいかない! なんとかしないと! なんとか・・!)


 と、周囲を見回すがそこは人っ子一人訪れない砂漠のど真ん中である、当然水場はおろか、草木一本生えている様子はない。


(くっそおおおお! なにかできることはないのか! せめて彼女の体温をこれ以上上げないためになにか!

 ・・・まてよ ・・そうだ、今俺はスライムだ、擬態を解いて本来の姿になれば俺の体はほとんどが水分で構成されるはず、そしてきっと気化熱で俺の体は周囲より低くなるんじゃないか。その状態で彼女を覆ってやれば・・・)


 年頃の女の子にそんなことをやってもいいものかと多少罪悪感はあるが今は一刻を争う事態である。ためらいを捨て彼女に抱きつく、そして。


--擬態解除--


「ブモォ!?」


 身体が元のスライム状態へと変化する。少女の身体がスライムに包まれ顔だけが外に出ている状態になる。熱交換により彼女のほてりが徐々に収まり、少しだけ彼女の呼吸が楽になったように感じる。


 よし・・ 正直不安だったけど上手くいったみたいだな、あとは水分だが・・・。


 そこで俺は彼女を包んでいく時に思いついたことを実行可能かどうか思案する。いや、実行することは可能だろう。しかし自分がこれをやって彼女になにか影響が出ないか、彼女の体を包んだ時よりも不安なのだ。だが今はためらっている場合ではない。


 俺は右手(?)を突き出しそこに意識を集中させる。


 今、自分はスライムだ。この体には擬態する能力が備わっている。そして今まで泉に擬態して獲物を狩っていた、そう、俺は「泉」になることができるのだ、つまり自分の体から水を生成できるはずなのだ。問題はそれが人体にとって悪影響及ぼさないかどうかであるが今は余談の許されない状況だ。やるしか、ない。


 恐る恐る右手(本人は手のつもり)を確認するとそこに3Lほどの水を湛えた薄いスライムの膜につつまれたタンクが確認できた。そしてその一部を細い管状にして彼女の口の中に入れてみる。


「ほ、ほら、水(?)だぞ、飲めるか?」


 若干の不安は隠せないが彼女に尋ねてみる、しかし既に彼女には水を飲む体力すら無いようで、管から出てくる水を嚥下している様子は見受けられない。


「そんなに弱ってるのか、仕方ない、ちょっと苦しいかもしれないけど・・。」

 芳雄は差し込んでいた管を彼女の呼吸を妨げないようにさらに細く伸ばし、彼女ののどの奥まで差し込み、少しずつ自分の体液を流し込み始めた。


--変化は劇的だった。

 

 赤く腫れ、カサカサしていた肌や唇はハリを取り戻し、虚ろだった目には光が宿った。髪の毛までもつやを取り戻し、金色に輝き始めた。


「え?なにこれ? 俺の体液どうなってんの? なんかエOクサー的な効能でもあるの? ちょっと怖いんだけど・・・。」


 若干不安になりながらもさらに体液を流し込み続けていると彼女も力を取り戻し始めたらしく、コクンコクンと自分の意志で嚥下しはじめた。


 500mlほどあった芳雄の体液をすべて飲み終えたところで疲れていたのだろうか、そのままゆっくりと目を閉じスヤスヤと寝息を立て始めた。


(ほっ、よかった~、とりあえずなんとかなったみたいだ。俺の体液すげぇな、いや、擬態した元の泉の効能なのかもしれない。よっぽど疲れていたんだろう、ぐっすり寝てるわ。)

「ブモォ」

「あーよしよし、お前のおかげでなんとかなったわ、ありがとうな。」


 俺は安堵し、改めて彼女を観察してみる。スライムの身体で覆ってみた時から気になっていたことではあるのだが・・。


(この子、人間じゃない・・よなぁ・・。)

 耳の形が明らかに普通ではない、獣っぽい雰囲気を細長い形状をしている。よく漫画やゲーム手かなんでエルフの耳のように見える。


(やっぱり異世界かなんかなのかな~ここ、まぁ自分の体とか、図鑑でも見たことない動物がいる時点で薄々そんな気はしてんだけど・・)

 先ほどから横にいる鞍を携えた動物を見てみる。

(ひょっとしてこいつも動物じゃなく魔物かなんかだったりすんのかな)

 と、考えていたところで再び思考を自分の状態の事へと戻す。


(こいつも・・・ そう、こいつ”も”なんだよなぁ・・ はは・・。 あ゛ーー・・ これからどうやって生きていけばいいんだろう・・・。)


 そう、今の俺”も”また魔物なのだ、いや横にいる生き物はまだ動物の域をでないが、彼は明らかに普通の生き物ではない。元にいた世界の物理法則を超越した存在になっているのである。


 そんな自分の置かれている状況に自嘲していると、ぐにゅっと自分の体に覆われた少女が身じろぎした、彼女の柔らかな感触を体全体が感じとってしまう。


(うおっ、ちょっと違う意味でやばいこれ! しかもこの子下着つけてないみたいだし!)


 芳雄は体全体で少女の体を覆ってはいるが、取り込んでいるわけではない、あくまで触れているだけにしてある。取り込んでしまうと自分の意志とは関係なく消化してしまう可能性を考慮したのだ。しかしその結果彼女の胸についた突起が芳雄の内壁にくにゅくにゅと当たっているのがわかる。


(・・・やわらけー、気持ちいい・・・。

 っは!いかんいかん! と、とりあえず意識を逸らそう。1・2・3・5・7・11・・・)


 ゴソッ・・・

(はわああぁぁ! じ、じゅうさん・・・ じゅうなな・・・)


つい魔物化による増幅された本能に身を委ねてしまいそうになる自分を抑えながら、気をそらすため素数を数えていった。

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