エピローグ 『これからの世界[Our worlds]』

エピローグ 『これからの世界[Our worlds]』

×ケイ×


「……本当にいいのか? なんなら、いつでも来れるように残しておいてもいいんだぞ」

「いえ、やっちゃってください」


 立体パズルの世界を俯瞰できる位置に並び立ち、ケイはトリシャに最後の確認を行った。

 まだ巡っていない世界も多いのだが、世界を再編してから旅を続けたいと頼まれたのだ。


「ふとした瞬間に、戻りたくなってしまいそうですから」


 トリシャはおそらく自分の故郷である世界のピースに目を向けて、少しだけ微笑む。


「だから、いいんです。本当の足ではないけど、もう、ケイから足をもらったから。お父様のところに、いつまでも居るわけにはいかないから。……心配を、かけられないから」

「……そうか、わかった。なら始めるぞ」


 軽く手を横に振る。すると、世界がバラバラになって、ピースが書き換わり始めた。

 世界をめぐるいくつかの天体も、その速度をあげていく。


「新しい世界へ」

「はい。……さよならです、お父様」


 世界がどんどん新しくなっていく。それを二人で見下ろしながら、ふと、トリシャがなにかを思いだしたように口を開いた。


「そういえば、ケイ。お礼がまだでした。――助けに来てくれて、ありがとうございます」

「ん? ああ……いや、別に礼を言われることじゃない。オレが、オレの心が、そうしたいからそうしただけだ。そこに道理はない。正しいかと言われると、オレ自身も判断できない。……あるいは『俺』は、知っているのかもしれないが」


 未だに、燃え上がるようだったトリシャを助けたいと思う気持ちをケイは言葉に出来ない。それを知るにはきっと、もっとたくさんトリシャと一緒に居なければいけないのだろう。


「オレはお前をとられたくないと思った。たとえ父親相手でも、傍に置いておきたいと思った。傲慢かもしれないが、ただそれだけだ。なにを一番優先していたかと言えば、口でなんだかんだ言いながらもその一心が最優先だった」

「……そ、そうですか……」


 そこまで言って、ふと気づく。トリシャの顔が赤い。


「どうかしたか?」

「い、いえっ。なんだか告白みたいだったので、つい、その。変な気分に」

「……ああ」


 とりようによってはそう思われるかもしれないと今更ながら気づく。

 訂正しようかと考えたケイだったが、代わりに少し笑みを浮かべて言葉を返した。


「今はまだ告白ではない」

「今はまだっ!?」

「冗談だ。別に言葉以上の他意はないから」

「……、なんだか、ケイ、ちょっと変わりました?」


 半眼を向けてくるトリシャこそ、ちょっと変わったと思う。

 いや、少しずつ旅の中で変わっていったのだろう。

 そしてこれからもきっと、変わり続ける。


「いいことだろう? 変わることは。オレは今から、自分がどう変わるのか楽しみだ」

「……まぁ、それは私もそうです。自分がどうなるのか。すごく楽しみですから」

「それでいいのさ、メギストスよ。人は変わるものだ――止まった部屋の中で永遠に閉じこもっていることなんて、できやしない」


 めぐっていた天体の動きが徐々に緩やかに。ピースの塗り替えは完了し、あとは元通りに組まれるだけ。


「さぁ、行こう。旅の続きだ」

「はい。おいしいものと、笑顔と――それからいつか、お父様に楽しい話しをたくさんしてあげるために」

「そうだな」


 音を立てて、世界が組み上げられる。

 さまざまな世界が組み合わされた、大きな一つの立体パズル。

 その中に、二人は再び落ちていく。

 先に何が起こるかわからない世界で、二人はずっと――旅をする。


                              END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界Puzzle! 七歌 @7ka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ