第三世界『空の世界 テソハノラ[tess-O-har-nola]』

第三世界『空の世界 テソハノラ[tess-O-har-nola]』 その1

×トリシャ×


 壁を越えた先に、足場は無かった。

 というか、そもそも、大地に相当するものが視界には一切存在しなかった。

 上下左右どこを見ても、空。遠くを見ると何か浮いている気がしたが、ややテンパっているトリシャにはそれがなんなのかを理解する余裕はない。


「ある、っく、ないっ!?」

『落ち着け。別にいままでだって空中ランニングしてたんだから、そのまま続ければいいだけの話だ』


 ケイの発した言葉に、わずかに落ち着きを取り戻す。そして、危うく落下しそうになっていた自分の体を、どうにか空中を踏みしめてその場に静止させた。


「っはぁあ~~……あ、焦りました……まさかいきなり地面のない世界に来るなんて」

「地面が無いってわけじゃないみたいだがな。ほら、遠くを見てみろ」


 言われて、改めて遠くを見る。ケイによって改造された目をこらしてみれば、遠くには確かに陸地が浮かんでいた。


「陸地……と、言っていいのか微妙ですね。地続きではない、空中に浮いているものも地面と言ってよいのかどうか」

『確かに微妙なラインだが、どうやら地続きという概念ではあるようだぞ?』

「はぁ……? えっと……」


 言葉の意味は分からなかったが、どうにか理解しようと周囲を観察する。

 時刻は変わらず昼ごろのようだ。目を凝らすと、ケイに言われて見た方向意外にも、いろんな方向に大小様々な陸地がある。

 上を見上げると、雲と太陽。太陽が三つほどあるように見えるが、そう暑い感じはしなかった。強く輝いているのは一つだけのようなので、他の二つは月のような光を反射しているものなのかもしれない。

 そして下をみると――なにもない。

 本当に、足元にはなにもなかった。上には空、下には陸か海という考えを持っていると、頭がおかしくなりそうな光景だった。

 下には、ただ、闇が広がっている。

 特殊な磁場か何かでそこに収束させられているのか、世界の全貌はとてもわからないが、丸みを帯びた水平線からその闇は球体にまとまっているものであるとわかった。

 黒く丸い闇の上に、陸地が浮かび、そのさらに外側に大気圏が存在している、ということのようだ。どこから大気が生まれているのかさっぱりだったが。


「しかし地続きの意味はさっぱり――ん?」


 観察を続けていると、ふと、空中に浮かぶ陸地と丸い闇の間に『繋がり』があるように見えた。細い糸のようなものが何千本か、でこぼことした底面に繋がっているようだ。

 ケイにいじくられた眼球でもそれはぎりぎり捉えられるほどの細さで、数が多いためにどうにか視認できるレベルだった。


「なるほど、あの糸があるから一応地続きなんじゃないかってことですね?」

『ちょっと苦しい言い分かもしれないがな。だが、どうにも浮かんでいる陸地はあの糸のようなものでこの球体の闇にしっかりと固定されているようだし……間違いではないだろう』

「たとえ浮かんでいる陸地でも、根底でつながっていれば地続きですよね、一応は」

『そういうことだ。さ、まずは手近な島に行くぞ』

「はい。……あの、疲れたので歩きでもいいですか?」

『別に許可なんて求めなくていいぞ。運ばれてる分際で走れとは言わない』


 苦笑気味に言われて、ありがとうございます、と同じく少しだけ笑って返す。

 そしてトリシャは不思議な世界の空を、ゆっくりと歩いて行った。

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