一紗、怒りに震える(五)



 恋に破れたお幸ちゃんは、ソージに選んでもらったという玉簪で喉をついたのだ。幸い、急所は逸れていたので大事には至らなかったお幸ちゃんは今、薄い煎餅布団に横たわって、障子戸の奥に広がる銀世界をぼんやりと眺めている。


「どうしてあんなことをしたんだ……」


 声を絞り出して尋ねる私を、虚ろな双眸がじいっと見上げる。


「宗次郎さんは……どう? ちゃんと傷ついている?」


 その言葉に、思わず胸倉を掴んでいた。胸倉を掴まれたお幸ちゃんはというと、一切動揺することなく、操り人形のようにぐったりしている。


「なんで……? なんでそんなひどいことが言えるんだよ!?」

「宗次郎さん、私になんて言ったと思う?」

「え?」

「自分は修行中の身だから、私の想いには応えられないって言ったのよ」


 厚く包帯の巻かれた痛々しい首元を、じっと見つめる。傷を負ったのはお幸ちゃんだけど、ソージの負った心の傷の方が深い。振った女が目の前で自刃しようとしたのだ。あの日以来、ソージの笑顔を見ていない。


「私は……振られたことが悲しかったわけじゃない。嘘をつかれたことが、悲しかったの」


 だからもっと苦しめばいいと、お幸ちゃんが口の端に微笑を浮かべる。引き攣った笑みを見ると、無理をしていることはひと目でわかった。


「二人の間に起きたことはわからないけれど……私は、ソージを傷つけるやつを決して許さない」


 胸倉を掴んでいた手を放せば、糸が切れた人形のように、お幸ちゃんの身体は布団の上へ落ちた。途端に競り上がる、大粒の涙。涙を拭うこともせずに、静かに泣くお幸ちゃんを置いて、座敷を出た。

 背中で、消え入りそうなほど小さな謝罪を聞いた気がした。


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