一紗、とりあえず成長する(二)



「一紗、道場に行こうぜ。若先生がこっそり稽古をつけてくれるってさ」


 噂をすれば影。理不尽にもむかっ腹を立てていた相手が、縁側からひょっこり顔を出していることに、私は条件反射でつんけんどんな返答をしていた。


「先に行っててよ」

「なんだあ? ご機嫌ななめだな。ははあ、さてはまたおかみさんに絞られたな?」

「絞られてねえよ。縛られてもねえ」

「じゃあなんだよ。あ、苦手な繕いものをさせられて、へそを曲げてんのか」


 しつこく絡んでくるソージに、不快指数は増す。そんな私に気づいていないのか、ソージは縁側にどっかりと腰を据えてしまった。


「はあ? なんだよ、てめえ。上がってくんなよ」

「あーあ。また指先真っ赤じゃん。お前さ、お幸の半分でいいから女らしくなったらどうよ? 爪の垢でも煎じて飲ませてもらえば?」


 くつくつ、とソージは楽しげに笑っている。だから、冗談だとはわかっているけれど。けれど!


「……うっせえんだよう、クソチビがあああ。せめて私の背を追い越してから女を語りやがれってんだ、このすっとこどっこい」


 ソージの髪の毛を鷲掴みにすると、それを思いっきり引っ張った。ぎゃあ、という悲鳴とともに、黒々とした髪が掌からパラパラと散る。


「このクソ猿があっ! 信じられねえっ! 周助先生みたいにハゲたらお前のせいだかんな!?」

「おうおう、上等だよ。チビでハゲなんて、もう仏門に下るしかねえなあ。一生ハゲの菩提でも弔ってろ」

「もうお前が何を言っているのかわからねえよ」


 ぎゃあぎゃあと言い合う私たちを、お幸ちゃんがくすくすと笑いながら見守っていた。


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