変態紳士の嗜み
谷崎伊呂波
第1話 拝啓、皆さまへ
拝啓
北のオホーツク海気団が過ぎますと、御日柄も良く、温暖な春の日差しが薄らと見えてきたように思います。
ところで、皆様方はいかがお過ごしでしょうか?
冬眠の時期ももう幾何か経つと終了いたします。目覚めの季節が到来するのです。来る日にかけ、皆様方はお力を蓄えなさっていますか?性力的に活動なさっていますか?私の方は安心してください。この寒い冬を無事凌ぎ、温暖な春が到来いたしますと、身も心も一皮むけた私を目の当たりにすることでしょう。
冬と言うのは実にみのりの無い季節です。野に咲く花々には活気がなく、虫のさざめく声もなければ、空模様もどことなく気力が無いように思われます。寒々しい空風が乾いた空気を呼び込み、人々の生気を抽出しているのかもしれません。
かくいう私も今年の冬には少々活力を奪われてしました。食事も喉を通らず、軟便に苦しみ、一時期はうなされて睡眠もままならないほどでした。
雲行きが怪しくなりますとすぐに沈痛な面持ちになり、早く冬が過ぎないかと考えるばかり。あれもこれも、全て冬が悪いのです。
――――特に、譲れない物もあります。
それは女性の方々は寒さに耐えしのぐため服を着こみ、冬の空風にスカートの裾を取られない様、ズボンを履いてしまうことです。
これには、さすがの私も遺憾としがたい怒りを覚えました。
なぜそこでズボンを履いてしまうのですか?ローライズか、ホットパンツに黒のストッキングではいけないのですか?
私は8分の怒りと、2分の『ズボンでもいいなぁ』と言う気持ちで断固、宣言いたします。
お願いですから黒のストッキングを履いてください、と。
この際、黄金比などは気にしません。膝上10センチから垣間見えるぷっくりとした柔肌などには興味ありません、いや、嘘ですすごく興味があります、できれば黒のストッキングからはみ出た太腿のお肉を拝ませてください何でもしますから。
・・・・・・・少々取り乱してしまいました。申し訳ありません。
が、兎にも角にも、私は女性の方々が服を着こんでしまうのが、非常に、悲しい。そう、悲しいのです。
皆様方、考えてみてください。特に女性の方々は己の存在価値について考えてみてください。
さらさらとした髪、透き通るほど肌理細やかな肌、健康的にすらりと伸びた足に、薄らと骨の浮き出た脇腹。
それを、それらの魅力を殺すことがいかに愚かか、罪な事か。
私はこの冬、苦しみました。
雪の降り積もるある朝の事。学校への道すがら、私は前方で自転車に跨る女子高生を見て、愕然としてしまいました。なんと、あろうことか、前方で二列横隊になりながら友達と仲良くおしゃべりをするその女子高生は、スカートの下にジャージを履いているではありませんか!私は、あの時ほど惨めに感じた事は在りません、あの時ほど自らの無力さを痛感したことはありません。
何故なんだ!君には、大衆の前で披露すべきおみ足があると言うのに、なぜ隠してしまうんだ!私には甚だ理解できない!
あのエロスを醸し出す黒のストッキングは実にいい!大人の女性から、少し背伸びをした学生まで、その誰もが履いたとしても私は一向に構わない。
寧ろ履いて!全国の皆様方はあのエロスの塊に身を包んで!
私にとって、この冬は苦痛でしかなかった。
なぜこの学校には温水プールが無い。ビキニ?セパレート?ワンピース?タンキニ?モノキニ?マイクロ?ノンノンノーン。私は―――、競泳水着が見たいんだ!競泳水着だ、競泳水着を見させろ!
あの体にフィットした質感!布面積が広い事により滲み出るあの清純さ!伸縮性のある素材を使用しているため、しっかり肌に張り付き、胸部がやや小さ目の人でも十分に醸し出されるあのエロス!寧ろ、私は胸部が小さい人にこそ競泳水着を進めたい!そして、独特の背徳感を身に纏ってほしい!
偉い人は言いました『貧乳はステータスだ!希少価値だ!』と。
――――まさにその通り!まな板?寧ろ、私はそのまな板の上でご飯が食べたい!
長袖のジャージに身を包んだ女子バスケットボール部。なぜユニフォームを着ない!ユニフォームに身を包み、汗を流すことによってはじめて女子バスケットボール部だと言えるのだろ!あのだぼだぼのユニフォームを身に纏う事により、試合中、『ひょっとしたらポロリがあるかもしれない』、と思えて女子バスケットボール部なのだろ!
それから夏用の体操服で練習をしているバレーボール部。確かに君たちはちゃんと夏用の体操服で、こんな寒い中練習をしている。よくがんばって――――とでも言うと思ったかぁぁぁああああああ!!そこはブルマだろ、健康的な太腿だろ!エロスが足りない、綺麗な足が足りない。
そして、何よりも陸上部!
スパッツが好きだぁぁぁぁあああああ!
私はスパッツが大好きだぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!
スパッツが好きだ!ホットパンツよりもスパッツが好きだ、ただのパンツよりもスパッツが好きだ、ショートパンツよりもスパッツが好きだ、紐パンよりもスパッツが好きだ、フルバックよりもバックレースよりもローライズよりもGストリングよりもボーイズレッグよりも短パンよりも、スパッツが大好きだぁぁぁぁああああああ!!
スパッツぅぅぅううううう!なぜ寒くなったら誰も履かないんだぁぁぁぁぁあああああ!いいじゃないかエロスじゃないか美しいじゃないか!スカートの下に短パンを履くのは本当に勘弁してもらいたい!出来得ることならスパッツを、普通のパンツよりもスパッツを!
パンツじゃとダメなんですか?―――ダメです!スパッツじゃないと。
スパッツ!スパッツスパッツスパッツスパッツ、スパッツスパッツスパッツスパッツ、スパッツスパッツ、スパッツスパッツスパッツ、スパッツスパッツスパッツ!!
―――と、1月下旬の私ならば取り乱していた事でしょう。しかし、春先を迎えた私は頑としてくじけません。これから、光あふれる未来に向かって、期待に胸を躍らせて、双翼を広げて羽搏くのです。
皆様方はお体にお気をつけてください。季節の変わり目ですから、大変お身体の調子を崩す人が多いように思います。ですので、くれぐれもお気を付けを。
それから春は、特に春先は不審者がよく目撃されるらしいので、ご身辺の方にもお気を付け、ご自愛くださいませ。
それでは今回はこれぐらいで失礼いたします。
スパッツを、何卒よろしく。
敬具
変態紳士 天草義輝
天草義輝(あまのよしてる)、男、高校二年、主席番号一番、趣味はギャルゲー、学校では笑顔をモットーに生きている、好きなキャラクター・某有名ギャルゲー『ややかみ』に出てくる『八咲逢(やざきあい)』、好物・スパッツ、一時期スパッツを愛し過ぎたが故に食事が喉を通らなくなり衰弱死しかけた経験あり。
そして最重要なのは、天野義輝は、『童貞』である。
重ねて言おう。
――――彼は『童貞』である。と
変態紳士の嗜み 谷崎伊呂波 @kurosibadaisuki
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