小さな役者に五分の魂⑤
さて、定期公演。
年に一回、ゴールデンウィーク明けの放課後に、体育館を借りて行っている。
今回の演目は『祈りの姫』。巫女として生きてきた姫が隣国の王子に恋をしてしまい、他国に嫁ぐことを認めない王様がフィアンセである騎士と王子を決闘させ、王子を殺してしまおうと算段を立てる、というのが大体のあらすじ。
監督、三野勇気
主演、月浦理穂子
久遠寺奏
田原克己
そう書かれたポスターが、実は意外と多かった久遠寺ファンを引き寄せて、例年以上の反響を見せた。王子役だった二年生は少しだけ悔しそうにしていたけれど、自業自得だ。
「終わったねー」
この公演が終わると、三年生はそろそろ引退時期を決めなければならない。
私以外の三年生は、三年生になった瞬間に引退という形で辞めて行った。受験に専念したいから、と理由をつければこの学校では大体のことを許される。
「私は夏まで残るわ。勉強も大事だけど」
「そう、僕も残ろうかな、大学行かないしね」
「そうなの? 部長別に成績悪くなかったわよね?」
「ああ、えっと、金銭的な関係でね」
「あー」
高校三年生ならではの会話。でも、この学校から雇ってくれる会社ってあるのだろうか。進学校だから、うちの学校が就職に関して何を知っているのか、という話でもある。
「奏君は公務員よね?」
「はい、なんで一応大学には行きます」
奏君は私よりもしっかり進路を考えていた。
演劇部専用の倉庫で、大道具を使えそうなものと仕えなさそうなもので分類しながら、私は応える。
「皆、しっかりと考えてるのね」
「美仔先輩はどうするんすか。進路」
「大学には、行くかなーっていうくらい?」
曖昧すぎると言われるかもしれないけど、本当にそんなことしか考えてないのだ。内申点はいいから推薦は来るとは思うし。その中から適当に選ぼうと思っている。
「結局私は、演劇の道に行きたいっていうことしか考えてないからなぁ」
「それはそれで素敵だと思いますけどね」
「ありがとう」
とはいえ、現代の日本の子供にしてみれば、「何を呑気な」と言われることは間違いないような楽観さだ。言われたところで、「だって私は演劇の道にしか興味ないのよ」としか返しようがないのだけど。
「オギってどんな道に行くのかとか聞いたことある?」
「いえ、全然。そんな仲良くなかったんで」
「あ、そう」
そういえば、奏君が来るまでは田原君との方が仲良かった。
一年生から演劇部で、やめていないのは二人だけだったから、仲がいいのは不思議なことじゃない。
「美仔先輩と、オギって本当に付き合ってないんすよね」
「付き合ってないよ」
「じゃあ、どういう関係なんすか?」
どう、と言われるとどうなのだろう。
付きまとわれている人間(私)と、付きまとっている人間(オギ)。
が、真理ではあるけど、なんかしっくりこない。あいつが私に付きまとっている理由は「小さくて可愛いから」、つまりあいつの好みだったからで。私もそれが完全に嫌ではないし、むしろあいつを信頼はしてるし。
うーん、と?
「……先輩後輩?」
「ダウト」
考え抜いた末に出した結論は一蹴されてしまった。
とはいえ、一番しっくりくるのはその表現なのだけど。
あいつも私を「センパイ」としか呼ばないし、そういえばあいつから名前を呼ばれたことってないし。
「ちょっと聞いてくるわ」
「え、誰に」
「オギに、私とあんたの関係って何? って」
「あ、聞いちゃうんすね」
実際あいつが私のことをどう思ってるかどうかなんてあいつにしかわからないし、私がどうこう悩むよりは聞いた方が早い。
「オギ、今部室です」
「ありがとう。……ああ、そうだ奏君」
「はい」
「今日の王子役、素晴らしかった。次も頑張ってね」
そういうと、奏君は笑って「はい」と答えた。
その笑顔がとっても綺麗だったから、もしかしたら奏君は女の子なのかもしれないけど、憶測を言ったってしょうがない。
だって奏君自身が秘密にしたいことなのだし、それに次の役も、おそらく男性役なのだろうから。
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