第弐話 ヘタレ飯綱使い

一.

 飯綱いづな使い― または飯縄使いは飯綱、つまり狐や狐霊の中でも管狐を使役する妖術使いである。管狐の使い方も様々で、占術、予言、福をもたらすことも出来れば、憎むべき相手に管狐を取り憑かせて物を盗って来させるという悪行も出来る。管狐をどう使うかはその飯綱使いの力と良心にかかっている。

 玉泉高校に通う飯綱太権いづなたいげんは、名の通り飯綱使いの家系の人間であり、飯綱家の長男である。少し明るめの茶髪に栗色の瞳の、一見すると普通の男子高校生である。だが、太権は飯綱家の跡継ぎであるにも拘らず、今まで一度も管狐を使役したことが無いのである。飯綱家のしきたりでは〝使役する管狐を自分で見つけて来る〟というものがあるのだが、太権は未だにパートナーと言える管狐を見つけられていない。一方、彼の二人の姉は幼い頃にあっさりと管狐を見つけ、自由に操っている。あるとき、姉たちにどうやって管狐を見つけたのかを尋ねてみると、

『遠足で山に行ったときにいたわよ』

『そうそう、山には結構いるのよねー』

 という答えが帰って来たので、一人で近くの山に行き、遭難しかけた為に両親からこっぴどく叱られた、などということもあった。そうして結局パートナーを見つけられないまま、16年経ってしまった。そして、彼の名である〝太権〟は一族が信仰する〝飯綱権現〟から一部を頂戴したものであり、太権自身も〝名前負けしている〟と痛感している。昔から友人たちにもいじられてきた。更に最近、彼が抱えるプレッシャーを大きくしてしまう出来事があった。姉二人の言葉である。

『あんたまだ管狐見つけてないのー? あたしの貸してあげようか?』

『ぷっ、何言ってんの! ダメに決まってんじゃん。でもあんたが跡継ぎで本当、心配だわー』

「…あの女ども、今の彼氏に元彼の物品晒してやろうか…!」

 怒りのままに太権は思わず独り言を吐き捨てた。姉だけでなく両親にも本気で心配されており、学校へ向かう足も重くなる。だが、そんな気分をあっさりと吹き飛ばしてくれる出来事が、この後に起こるのであった。 

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