第14話 嫁探し大会
木場沢超自然生命体対策センターの会議室に人が集まっている。
そこには光輝の姿もあった。
一番前の席に座っている。
「今日、皆に集まってもらったのは他でもない」
ホワイトボードの前にいる男性が皆に向けて話し始める。
彼の名前は
マイナスとは言え、超自然生命体対策局に所属する者の中では数少ない、男性のCランク魔力保持者だ。
現在大学四年生。
自信に満ちた表情をしており、中々に凛々しく端正な顔立ちをしている。
その彼が、拳を握りよく通る声で言った。
「木場沢超自然生命体対策センターに所属している、大宮光輝。彼についてだ」
光輝が物凄く嫌そうな顔をする。
「大宮光輝。このむっつりスケベは、自分の本性を隠して毎日草しか食ってませんみたいな顔をしながら卑劣にもその立場を利用して、毎日隊の部下達にセクハラ三昧の日々を送っているらしい」
「異議ありです!」
「却下!」
「!?」
立ち上がり告げた異議を、高速で却下され驚く光輝。
横に座っていた少年が光輝の腕を引いて座らせる。
「座れ、光輝」
「黒木さん」
彼の名前は
Dランクの魔力保持者だった。
涼しげな切れ長の目をした、無表情な少年。
光輝よりも年上で、彼は高校三年生だった。
「まずは神無月さんの話を最後まで聞け」
「あの人に最後まで好き放題言わせておいたら俺の株だだ下がりなんですけど」
「その方が面白いからいいだろう」
「………………」
魔力保持者は女性の方が多い。
なので今この場にいる者も、光輝、神無月、黒木の三人を除けば全員が女性だった。
そんな中であんな事を言われたら止めたくもなる。
「だが!」
神無月の声が無駄にデカくなる。
「俺は、嬉しい! 光輝が女に積極的になってくれて!」
「すいません。メインの会議はさっき終わりましたし俺もう帰っていいですか?」
「駄目だ」
即答だった。
「皆も知っての通り、光輝は世界で唯一の特殊特性、『強化』を持っている。そして光輝はその特性を生かし、Eランクの少ない魔力量で魔族を二頭も仕留めている」
会議室内の空気が引き締まる。
「そこで上層部は、この特殊特性に実力以上の結果を導く大きな可能性があると考えた」
Eランクを局に迎え入れるのは、通常研究対象として。
とは言え、研究と言っても実際のところ大した事は出来ない。
珍しいというだけで持っている特殊特性はそれぞればらばら、言い方は悪いが何の役にも立たない役立たずな特性を持っている場合も多い。
役に立つ物を持っていたとしても、今度は魔力量が問題になる。
Eランクでは魔力量が少なすぎてそれを生かす事も出来ないのだ。
つまり珍しさから雇ってはいるものの、局はEランクに期待なんかしていないのだ。
だが、光輝は違った。
神無月の言うように、今までに魔族を二頭も倒していた。
それも、政府から強さ、知能の高さ、共に危険視されていたかなり凶悪な物を。
「光輝」
「なんですか?」
「子供を作れ」
「………………は?」
「聞こえなかったか? その特殊特性を継がせる為に、子供を作れと言ったんだ」
「馬鹿ですかあなたは」
会議室の中がざわざわとし始める。
「まぁ聞け」
「聞きたくないですけど」
「魔力や魔力特性が親から子に遺伝する確率は、あまり高くないと言われている。魔力保持者の両親から非魔力保持者の子供が産まれる事はよくある話だし、逆に非魔力保持者の両親から高い魔力ランクの子供が産まれる事もある話だ」
「ですよね。じゃあ意味無いじゃないですか」
「だがゼロじゃない。それが重要なんだ」
国別に魔力保持者の割合を見ると、日本を含むアジアに多く、逆にヨーロッパ諸国やそこから移住した人々が多く住むアメリカやオーストラリア等には少ない。
その理由は色々と言われているが、一つの可能性として魔女狩りのせいではないかと言われている。
魔力保持者を魔女として優先的に処刑した結果、魔力保持者が少なくなってしまったのではないかと。
キリスト教圏以外の国に魔力保持者が多いのはそのせいだ。
だがそう考えると、やはり魔力には大きな要素として遺伝が関係しているという事になる。
「ゼロじゃない。それだけで大きな可能性だ。そのままじゃ強化なんて珍しい特殊特性、そうそう発現しないだろうからな」
「はぁ……そうですか」
光輝はもう帰る用意を始めている。
「黒木!」
「はい」
「ちょ、黒木さん! うわー……面倒くさぁ……」
黒木が光輝を捕まえ帰れないようにする。
「という訳でだ。話を端折るが、要は光輝に子供を作って欲しいんだよ。それも、確率を上げる為に魔力保持者の女とだ」
会議室内の空気が変わる。
「そこで!」
ダン、と後ろに隠してあった大きなフリップを出す。
「『第二回 強化魔力保持者光輝君の嫁探し大会』を始めます!」
ワー、と皆が拍手する。
「尚、今回嫁として認定され光輝との子供を作って下さった方には、超自然生命体対策局からお祝い金及び、研究協力費が支払われます!」
ワー、と会場内のテンションが上がる。
「要は金の為って事じゃないですか! 嫌ですよそんなの! …………そ、それに、それにですね? その……俺には好きな人がいるので、こんな事されても……」
「光輝。もう誰も聞いてないぞ」
黒木がクールに告げる。
「よし、じゃあ早速アピールタイムだ! 一人ずつ前に出て光輝にアピールしてもらうぞ!」
黒木がスッと光輝に紙とペンを渡す。
そこには沢山の名前とメモ欄が用意されていた。
「アピールを聞いて、気になった子がいたらそこにメモしろ」
「帰りたいです」
「まずはエントリーナンバー1番!」
「事前エントリーあったんですね」
「テンプレ金髪ツンデレ巨乳ツインテールキャラのー……エルサ・オルゾン!」
「ちょっと! どういう紹介の仕方よ!」
テンプレ金髪ツンデレ巨乳ツインテールな感じの少女が、ぷりぷり怒りながら前に出てきた。
「エルちゃんもエントリーしてくれたんだ」
光輝が爽やかな笑顔で彼女に声をかける。
「はっ、はぁ~!? 違うわよ!」
反射的に顔を赤くして光輝に怒鳴る。
光輝とエルサは知り合いだった。
一時期同じ隊にいた事があるのだ。
と言うか、今この会議室にいるほとんどの人間は、何らかの機会に光輝と知り合った者ばかりであった。
「今そこにいるって事はさ。エルちゃん、俺のお嫁さんになってくれるの?」
「!?」
エルサの顔が真っ赤になる。
光輝が突然強気な態度になったのは、彼女の性格を見越してだ。
挑発すればテンプレツンデレの彼女は怒る。
こうやって参加者を上手く口車に乗せて全員辞退させ、この妙な大会をさっさと終わらせる事にしたのだ。
「……そ、そうね。やぶさかではないわ」
「え!?」
計画が速攻で狂った。
「ま、まぁ? 私もあんたには借りがあるし? ……いえ、違うわね。借りとか関係無しに、あんたと結婚するのも悪くないと思うわ」
「あれ!? だ、だってエルちゃん俺の事めっちゃ嫌ってたじゃん!?」
「あれは……あれよ。……ツンデレよ」
「!?」
自分で言っちゃうのかよ!
そう思うが驚きで声が出ない。
「うちは両親スウェーデン人だけど私は日本で産まれ育った日本人だから、両親も日本人と結婚する事に関して何か言うつもりは無いみたいだし……。それに私、今十七歳で結婚も出来る年齢だから、そっちも問題ないし」
(どうしよう、結構具体的な将来の話されてる……)
「エルサ・オルゾンさんは特殊特性は無いものの、魔力ランクがなんとCランク。ご両親も日本に来た理由が魔力に関しての研究の為と、今回の大会中一、二を争う優良物件となっております」
神無月の解説がウザい。
「エントリーナンバー14番、アピール始めるわ」
そこへ突如乱入者が現れた。
「はぁ? 突然何言ってんだお前。待て待て、順番守れ。却下だ却下。自分の番まで座って待っ――」
パァン! と最後まで言う前に神無月の額が割れ、大量の赤い液体が辺りに飛び散った。
「がはっ」
白目で倒れ込む神無月。
額に張り付くプラスチックの欠片。
超速で赤いホワイトボードマーカーを投げつけられたのだった。
「エントリーナンバー14番、宮本鈴子。本大会中唯一の。ゆ・い・い・つ・の、魔力ランクBよ」
「宮本さん!?」
大宮隊の鈴子だった。
「更に特殊特性も持っている。今大会での最有力候補は、間違いなく私だと思うわ」
フッと馬鹿にしたような鼻息の後、ドヤァと胸を張る。
「……いや、て言うかその前にさ。エントリーしてた人十四人以上いるの?」
光輝が色々な意味で驚愕する。
「よかったな」
そんな光輝の肩を黒木がポンと叩く。
「モテモテで」
「そ、そうですけど……そうですか? いやでもこれ」
「お待ちなさい!」
そこへ、新たに席を立つ少女が。
「あらあら、可哀想な方ですわね。魔力しかアピール出来るポイントが無いだなんて」
「…………はぁ? 何よ低ランク。私に喧嘩売ってるの?」
「
鈴子に意見する彼女は、
毛先がクルンとワンカールしたロングヘアーで、腕を組んで挑発的な表情をしていた。
現在高校二年生で、魔力ランクはD+だった。
「私にはありますわよ! 魔力以外にアピールする事がいくらでも! 何故なら私は、魔力関係無しに光輝さんの事を心の底から愛しているからこそ、ここにいるのですから!」
両腕を広げて大袈裟な身振りで告げる。
「流石ギャオスね。ギャオギャオギャオギャオうるさい鳴き声」
「その首、貰いますわ」
鳴子が両手を寄せて、不思議な指の組み方をしながら鈴子に向ける。
すると彼女の手に、キィィィイイン……と魔力が収束していく。
「ストップ! ストーップ!」
慌てて光輝が鳴子を押さえる。
「やん、もう光輝さんたら大胆ですわね」
「いやいや、そんな冗談で済むような軽い話じゃなかったよね」
鳴子は特殊特性持ちだった。
彼女の持つ特殊特性は、超音波。
本来は色々と使い道がある特性なのだが、彼女はある一種類の使い方しかしない。
知らない、と言った方がいいだろうか。
特殊特性持ちの中には持っている特性を上手く生かせず、一般特性のみで戦う者も多い。
彼女もそのタイプだった。
ある特撮怪獣映画を見るまでは。
鈴子が呼んで怒らせた彼女のあだ名は、そこから来ている。
「超音波メスなんかこんな所で使ったら大変な事になるよ」
「大丈夫ですわ。彼女はBランクなんですから」
「いや、Bランクって言ってもね?」
「大変です!」
そこへ、会議室に一人の女性が入ってきた。
対策局の局員の人だった。
「大宮君!」
「はい。俺ですか?」
「実は――」
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