合流 ~親知らぬ神子と親を敬愛する神子

 夜。住宅地の中を輝彦は歩いていた。

「ここが件の怪物モンスターがいる街か。確かこのあたりに……」

 輝彦が進む先には草間千早くさま・ちはやの家がある。その輝彦に近づく影があった。

「……誰だ?」

 かけられた声に振り返る輝彦。そこには学生服に身を包んだ京一がいた。コートを着た男性と、学生服を着た少年。外見だけで言えばどちらも夜に出歩いて怪しまれない存在ではない。

 だが、二人は気づいていた。目の前にいる者が神子アマデウスであることに。

「人に名を聞くときは、自分から名乗るものだと思うが如何か?」

「……前橋京一まえばし・けいいち

「ふむ。素直だな。よし、では吾輩も答えよう。吾輩の名前は尾崎輝彦おざき・てるひこ。オーディンの神子だ」

「神子? ……なんだそれは?」

 何、と輝彦は口元を手で覆った。目の前の少年が神子であることは確かだ。だが、自分が神子であることを知らない? 隠しているのか……?

「まあいい。吾輩の目的はこの街に顕現する怪物だ。放置すればこの地を極寒に包む絶界アイランドを形成するほどの存在になるという。吾輩はそれをどうにかしたいのだ」

「草野さんに憑いている何かに心当たりがあるのか?」

「実は皆目。今のところは情報収集の段階だ。京一君も似たようなものかな?」

 輝彦の言葉に無言で頷く京一。

「どうだろう。我々は同じ目的を持つ運命共同体パーティのようだ。一つ手を組まないか?」

「それは――」

「ちょ、ちょっと待つんだな! その男は怪しいんだな!」

 と、突如それに割り込むように丸々とした男が会話に割って入る。何者? と二人が疑っているのを察して、自己紹介をする。

「ボ、ボクの名前は飛山則夫とびやま・のりおなんだな。確かに丸々としているけど、怪しい物じゃないんだな! キミと同じ神子なんだな!」

「……え? その……神子ってなんだ?」

 繰り返される未知の単語。だがそれを気にせず則夫は続ける。

「そこの男はオーディンていう策謀の神様の子供なんだな。だから仲間にするのは不安がある。だけどボクはあのハトホルの子なんだな。だから安心して――」

「待て。吾輩の主神を冒涜する言葉は聞き捨てならんぞ」

 則夫の言葉を遮るように輝彦は静かに言う。それ以上の暴言を許さぬとばかりに強く威圧するように。それに怯えるように、則夫は言葉を止める。

「あのさ。さっきから言っている神子って何だ? なんとかの子供とか言ってるけど、それはもしかして俺の親と何か関係があるのか? 俺、親の記憶がないんだ」

 その隙に割り込むように、京一は質問をぶつける。親の記憶のない京一にとって、親のことが分かるならどんなことでも聞いてみたい。それがどんなに怪しい相手であっても。

「だからボクは怪しくはない……待って、親神の記憶がない? それってもしかして……」

「『忘却の子』と言う奴でござるな」

 からん、と下駄の音を響かせて一人の男が割って入る。和装に下駄。一言でいえば『侍』と言える格好の男。

「失礼。拙者、山本光正やまもと・みつまさと申す。貴殿らもあの草間と言う娘に取り憑いた怪物を討つために集ったものであろうか。ならば拙者もその運命共同体に加えてほしい」

「……いいだろう、これも何かの縁だ」

 輝彦は一秒思考し、光正の提案を受け入れる。怪物の正体が不明である以上、戦力は多いに越したことはない。

「……わかった。その方が詳しい話が聞けそうだ。いろいろ教えてくれ」

「うん。その方がよさそうなんだな。荒事は苦手なんで、強い人がいてくれると助かるんだな」

かたじけない。これからも宜しく給う」

 こうして、四人は運命共同体として怪物に挑むことになる。だがその腹の中は、


(草野さんを助けないと……)

(『アテナの執行者』……それが来るより先に、怪物の力を我が物にする必要がある。その為にこの神子達を利用した方がよさそうだ)

(怪物の調伏後、不要となれば彼らも斬る。それが我が修羅道)

(巨乳、巨乳、きょ・にゅ・う!)


 運命共同体とは思えないほど、意思統一が為されていなかった。

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