尾崎輝彦 ~神の軍を求める者
それはかつて神が人間を統治していた時代を復興させようとする者達。
大半の神々が大誓約の後に世界を離れて世界の舵取りを人間たちに委ねたことに対し、反感を持つ者を指す。
それは愚かな人間に呆れる一部の神々でもあり、そういった神々に唆された
そんな神統主義者だが、人間達に世界の統治を任せた神々の神子の中からも現れていた。その一人が
「おお、主神オーディンよ! 今宵も吾輩は勝利しました! 貴方様の加護のおかげです!」
両手を大きく広げ、勝利のポーズをとる輝彦。年齢は三十を超えてはいるが四十には達していないだろう。茶色の帽子とトレンチコートに身を包み、左目を隠すように眼帯をしている。その周りには鎧を着た女性のような幽霊が飛び交っていた。知る人が見ればそれは北欧神話における魂の運び手、ヴァルキリーであることに気づくだろう。
輝彦の周りには、多くの神子達が倒れていた。輝彦を狙った神子達だ。手加減したのか、神子の生命力故か、全員生きている。
「吾輩の野望を妨げようとする者たちよ、選ぶがいい。栄光ある死によりヴァルハラに迎えられるか、それとも無様に敗北を噛みしめ逃亡するか!」
その言葉に神子達は立ち上がり、逃亡する。輝彦はそれを追うことなく見送った。その気になれば手にした槍で背中を突き刺すことも容易だったのに。
尾崎輝彦。彼は神統主義者として有名な神子だった。
本来神統主義者はその活動を秘しているのだが、彼はわざわざ次に自分が行う活動を神子側に伝え、その上で戦いに挑んでいた。怪物の開放や、神の力が宿った器具の強奪及び破壊等だ。
だがその反面、自らの利益にならぬと判断した怪物を抹殺したり、今の様に神子を逃したりと詰めが甘い部分があり、他の神統主義者からも反感を受けている。だが輝彦はそれを戯言と言って聞き入れず、自らの美学の元に動いていた。
彼が罰されないのは、ひとえにその能力故だ。北欧神話の戦神オーディンの
単体の戦闘力でも無双の槍使いとも言われるほど強い上に、集団戦になれば味方が戦乙女の加護を得てさらに強くなる。まさに引く手数多の人材なのだ。
「嗚呼、主神オーディンよ! 貴方様の再来は近い! それまでにこの尾崎輝彦は貴方様の為の軍を編成しておきます。クロノス等の神統主義者を廃し、貴方様の号令の元にこの世界全てを統治する。その日が来るまで邁進する次第です!」
……忠誠心が親神の方に向いており、野心がバレバレでなければ、だが。
『我が子、輝彦よ。我はそのような者は望んでおらぬのだが』
「ご安心召されよ我が主神! 貴方様の立場はよく心得ております! 貴方様も大誓約で身を引いた故、建前上はそう言わざるを得ないことは重々承知! ですがこの輝彦、貴方様の心は十分に理科しておりますとも!」
オーディン自ら説得しても、この調子である。親としては呆れるばかりだが、そんな子でも可愛いのか御咎めはないのであった。
「ふむ、新たな怪物だと?」
神統主義者のアジトに戻った輝彦は、休む間もなく次の任務を渡される。
「ああ。なんでも冷たい氷の
「ふん。未だ絶界を生み出せない怪物の保護など、吾輩でなくともできるだろう」
芝居かかった動作で肩をすくめる輝彦。
怪物には大きく二つの段階が存在する。先ず憑依した人間や物体が怪物に変化する。怪物の力を得て周囲に『自分自身の物語』に準じた事件を起こすようになる。そして次の段階では、世界に憑依するように絶界と呼ばれる舞台を形成し、外界から隔絶する。一定の区域内が怪物の物語の舞台となり、いずれは『魔界』と化してその区域は完全に世間から切り離されるのだ。
「それだけならな。だが面倒な相手が動き出した。
「……ほう、『アテナの執行者』か」
言葉を聞いて、輝彦は笑みを浮かべた。ギリシア神アテナに強く愛され、その力を強く受けた少女。彼女には多くの仲間を捕らえられたという。
「よかろう。相手にとって不足はない。我が智謀と策略でかの執行者を退けてくれよう」
ギリシアの戦神に愛された神子。そんな強敵を前に、体内のオーディンの血が燃えるように熱く滾る。その勢いのまま、輝彦は戦場に足を運ぶのであった。
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