異世界と政治経済学批判

 異世界とは何のことなのか?「常識と非常識」が逆転していることだろうか?異世界に対する基本的な定義はファイヤーアーベントの言葉を使うのが手っ取り早い。「」このように異世界という言葉を使うとき、基本的にそれは私たちの考えている世界との別の関係性のことを指している。つまり異世界を視るものの剰余享楽を問題にしているのだ。異世界は現実に存在すると思われている社会とは別の価値体系を持っていなければならない。そうでなければ我々が異世界を視て楽しむことなどできないだろう。異世界に入るためという欲望はまさに自分自身の持っている価値体系が異世界の価値体系に利潤を生み出すと言う動機で生み出される。この反復は自身の剰余享楽と剰余価値が一体となっていることから導き出される。まさに現実の社会においていかなる交換価値も持たないものだからこそ、異世界においてはそれが利潤となるのだ。現実の社会における交換価値のあるものの貶めはここから出てくる。一般的なというのもおかしいが、ファンタジー世界における基本的な幻想は資源の無際限の豊富さと、暴力手段の個人集中である。この暴力手段の個人集中は現実の世界の価値観と異世界の価値観の利潤に等しい。具体的には経験値や知識などがそうである。資源の無際限の豊富さのほうは、資源を「採集」するという行為に幻想がある。つまり資源の独占は行われておらず、現実の社会から来た人物が資源を収集しようとするのにふさわしい状況なのである。もっと露悪的にいえば異なる交換体系を持つ世界を異なる価値観で征服するという植民地貿易であり、まさに人々の幻想のなかに植民地を見つけたというわけなのだ。

 このような植民地貿易に正確に対応するのが異星人からの侵略というようなSFものである。問題は宇宙人が資本の怪物であるということにではなく、我々の実際の感覚が資本と遭遇するときには、宇宙人のような形象(侵略者、奇生体)をもって経験されるだろうということである。まさに人種差別主義の源泉なのだ。つまり人種差別主義者は資本の気味の悪さをのである。簡単な例を挙げよう。安い賃金の外国人労働者が大量に雇用された場合、被害を被るのは間違いなくもとからその職場に勤めていた人たちである。これは事実であり否定できない。ただしこれが「安い賃金の」ではなく、「外国人の」(あるいはetc…)という項に脅威を感じるというところにイデオロギー的な神秘化がある。それはもとから働いていた人たちに自分達はある一定の優遇を受けているということを思い出させるからだ。だから彼らが資本制を批判するような立場に立つのは自分の立場の優位を崩すという行為と等しいことになる。そうである以上、彼らにとって人種差別主義者になるのが合理的な選択ではないだろうか?これはモンスターを倒すと資源が手に入るということと対応関係にある。ここには奪うという象徴が欠けている。いかなる資源もある土地から手に入るものであり、我々はそれを征服しないことには手に入れることができない。それがモンスターという形象をとることに文明と野蛮という言葉を思い出さざるを得ないような神秘化がある。つまり外部委託をしているのだ。「東方project」の幻想郷のすばらしいところはこの関係を逆転し人間の恐怖(資源)を妖怪が得るという形式にしたことにある。幻想郷が食糧を輸入しているのは公然の秘密であり、それは幻想郷の人間との均衡を保つために必要不可欠である。ちょうどモンスターを刈りすぎても資源が手に入らなくならないのとは反対に。(まあこちら側に人間はいっぱいいるのだが)幻想郷の政体は非常に洗練された世界である。なぜならそこでは反乱が異変になる、あるいは暴力が遊戯になるという意味で反乱と暴力が推奨されているからである。もし本当に反乱が起こったなら強力な暴力以外に解決策はない。これは芥川がいう「アホと悪党」のためのゲームであり、弱者が本質的に権力を主張した場合、なすすべがない。ここに現実の世界と同じ疑問、ジジェクが出している疑問と似たようなものを感じてもいいだろう。それは本質的に反乱が推奨されているような社会でいかに新しい普遍性を主張できるような政治体制を敷くことができるのか、という問いである。もしかすると逆なのかもしれない。幻想郷が我々の世界を侵略するということにこそ、本質的な変化があるのかもしれない。幻想郷は「恐怖政治」ではなく「恐怖による政治」である。「恐れるべき唯一のもの、それは恐怖」というような世界である。これは希望なのだろうか?もし恐怖に代わって信仰が勝利するようならば、希望はなくなってしまうだろう。では他に何かあるのか?現実の世界を搾取するという選択肢があるではないか!まるでメビウスの輪のように異世界の方もまったく同じ結論に達したわけだ。さてどちらが勝つのだろうか?

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