放課後、春雨の中で

雨が降る前に帰りたかったのに、校庭に出てから数秒で本降りになってしまって私は仕方なく昇降口に引き返した。雨なんて何もいいことはない。じめじめして気持ち悪いし、行動が制限されるし、いっそのこと全部洗い流してほしい。嫌なものを溶かして何もかもなくなってしまえばいいのに。

そんなことを考えながら止む様子のない雨をぼーっと眺めていると、誰かが隣に座ってきた。横目で見ると可愛らしい顔立ちをしていて私とは違う世界に住んでいそうな女の子だ。声をかけても仕方ないし、しばらく雨を見つめていると後ろから声がして隣の子はその声の子と一緒の傘で帰っていった。想像通り、やっぱり私とは違かった。

「ま、普通そうだよね」

 考えていたことが自然と口から漏れていた。ここにこうして座っている人なんているわけがなく、普通は誰かから借りたりとか一緒に帰ったりするのが普通だ。そんな分かりきったことを考えれば考えるほど心の中に嫌な感情が渦巻いていって、私はその場を飛び出して外に出た。この雨が私の心を洗い流してくれるような気がしたから。濡れるのは気持ち悪かったけど、それ以上にこの気持ちを今は消し去りたかった。頬に流れているのは雨に違いない。

「なに馬鹿なことしてんの。風邪ひくよ」

 可愛い花柄が視界を遮って、振り返ると呆れた顔をしたクラスメートが私に傘を差しだしていた。

「つっ立ってないでさっさと濡れないところに来るの」

 彼女に手を引かれ、強引に昇降口まで連れ戻された。お礼を言うべきなんだろうけど言葉が上手く出てこない。俯いていると今度は突然視界が水色になった。感触的にどうやらタオルを投げつけられたらしい。

「別に何も言わなくていいよ。体冷やさないようにしな」

 どうして私に優しくしてくれるのだろうと思いながら、私はさっきの場所に座る。彼女も隣に座り、しばらく沈黙が続いた。その状況に耐えられなくて借りたタオルで顔を覆い隠した。一人でいると錯覚した方が安心する。

「あ……」

 どのくらい時間が経っただろうか。まだ隣にいた彼女が突然声を発した。タオルを取って顔を上げると、さっきまでの雨が嘘のように晴れ、虹がかかっていた。さっきまで落ち込んでいたはずなのに、少し気持ちが明るくなった気がした。

「雨も案外悪くないかもね」

 私の呟きが彼女に届いたかは分からない。けれど、彼女は優しい笑顔で私を見ていた。今なら一歩前に進めるかもしれない。深呼吸をしてもう一度だけ空を見上げた。透き通るような青空と輝き架ける虹が私に勇気をくれる気がしたから。

「あなたの……あなたの名前を教えてもらっていい?」

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