第九夜 青虫と猫の生態系

 ちりちりちり……。

 青空の下、涼やかな風が路地の間を通り抜け、過ごし易い季節が来たことを主張する。

 薄紫の竜胆が、中の鈴を鳴らして歌い、それに共鳴するように一間先の竜胆も歌で返事を返す。

 ちりん、と鳴れば、ちりん、と返す、その歌声を聴いているのは一人の少女だ。

 少女は何かを熱心に凝視めている——家と家の間には塀が一枚ある——。どうやら見ているのは、塀に蔓を巻きつけた朝顔のような植物である。否、正確には、その葉を食む青虫である。

 何時の間にか少女の隣には女性が立っていて、少女と話をしている。葉を食べている青虫に近づいている猫が居て、それについての話である。

「猫は青虫を食べるの?」

 女性が問うと、少女は答えて、

「青虫は葉に含まれる葉緑素を分解して無害にするから。体が緑なのは無害になった葉緑素が体内に蓄積されるから。」

「そう。じゃあ、あの猫は葉が食べられないんで、代わりに青虫を狙っているんだ。」

「うん。」

 そういう話をしていた。


 猫は青虫を食べたのだろうか…。


               (起床)

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