第八夜 死の伝染(けがれ)

 片田舎に老夫婦が住んでいる。

 その仲は特に良くもなく悪くもなく、到って普通の、老いたつがいの人間であった。

 ある時、夫が死んだ。病であった。医者にも見せたが、老衰であるとのことだった。

 死に様までが何の変哲もない。

 奇妙なことと言えば、死んだ夫の片方の手の、人差し指と薬指が屈曲しているくらいのことで、それも良くあることのような如何どうでもいことだ。それよりも葬式の仕度の方がガタがきた身体には大変だった。

それから何ヶ月かち、漸く生活も——以前のままとはいえないけれども——落ち着いてきた頃、村役場から電話が入った。どうやら大学の卒業論文を書くために、この近くの遺跡を調査したい学生が来るので、旦那が亡くなったところ悪いが協力してくれないか、協力といっても、数日泊めるだけで好く、あとは手間がかからないから…ということだった。村長とは古い知り合いだ。おそらく夫を失ったあとの気を紛らわそうという心使いなのだろう。確かに疲れて少し呆けてきたかという自覚はあったので快諾した。

 ただ、遺跡など、ここら辺にあっただろうか?神主がいない崩れたような神社があるくらいだと思ったが。


 二人は女性であった。名前は何と言っただろうか、覚えていない。ただ片方の女は眼鏡を掛けていたことだけを覚えている。到って普通の人たちだった。


               (起床)

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