第七夜 蝶と魂
吾は列車の中にゐたりき。百年も前に走りたるが如き古めかしき列車なり。席は向かひ合はせの木製――但し
……
而して、窓の側、其のいと近くある處に一ひらの蝶、顯れき。
吾は思ひき。蝶の魂の
向かひの席に人一人ゐることに氣が付きぬ。暗がりにて見難きも、吾に相談すべき事のある風情なり。紺か藍か定かならぬ、茶かも知られぬ着物を着てゐて、渠が仕ふるべきさる令孃を搜せり。然らば、此女は女中ならむ。令孃の名は『ふみ』といふなり。捨て置くことも情けなく思へば、吾も合力せむとす。……令孃、女中、共に既に死人にあらむや。
いつしか女中の木片になりつるを掌に乘せ步きたり。木片は吾を導きて、うね〳〵と動きたり。はたして疊敷きの部屋に入りぬ。其處には白衣を着たる老人が立ちて、此方を見るなり、あな、『實驗』の終はりつるか、との聲を發せり。
その言葉を聞くや否や、『ふみ』を殺したるは吾なりしかと覺ゆ。さりとて如何なる實驗かを知らず。斯く思ひつるのみ。女中も、既に死にたるべし。
而して、木片になりたる女中の、ギ、ギ、と太く長く伸び始めることあり。『令孃』を殺せし吾を絞め殺さむとす。
なれど、己が死を覺えたる故にかあらむ、動き鈍く、また伸び遲し。さにあれども少しう伸び續けたり。吾を絞め殺さむとの執念なり。たとへば吾の夜眠りゐて無防備なる頸を絞めむ。あゝ、吾は最早眠ること叶はずなれり。
(起床)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます