第三夜 畸形濫造

 夢。曇天の下に横たわる白亜の洋館。壁にはギリシャ彫刻のような槍や剣を持った男たちが、戦争をしている絵が浮き彫りにされ、其の横には机の上にパピルスを置いて読み物をしている子供が描かれている。この館の広い庭には草木が多く植えられ、とりわけ赤い華をもったものが目立つ。

 道は幾条も其の中に整然と通っていて、傍らを何羽ものからすが、とっとっと、と歩いている。不思議なことに、ただの一羽も飛ばない。更には普通の鴉と違い、翼が三尺ほどの長さで、先が四角く、まるで黒い艶やかな絨毯のようにして引き摺っているものがある。

 ありえない姿をした其れを見て、ある恐ろしい考えが頭の中を通り過ぎた。すなわち、此の館の住人がこのような畸形の動物を作り出しているのではないか、という妄想である。そのとき館の端に眼をやると、牛小屋とも馬小屋ともつかない建物が眼に入った。私の妄想は段々と確信に変わっていった。なぜなら。ここにはあのような小屋があるのに殆ど動物を見ないからである。せいぜい鴉と犬が一頭で、今迄、牛が小屋の中に何頭か入っていったのにも係わらず、決して出てはしていないからだ。なんと禍々しい。暗転。

 爽快な青空の下、召使と思われる老婆があの飛べない鴉たちに餌をやっている。鴉たちはばたばたと死んでゆく。いつのまにかあの禍々しい空気が払われているらしい。子供が一人、庭の端にいる。そこにはちょっとした洞穴ほらあながあり、犬が一頭栖んでいる。人間の頭蓋あたまを抱えながら。子供はその犬のところへ行こうとする。しかし、そこまでのほんの数間の道に、四角い穴が掘られ、水が張られている。そして犬が仰向けに沈んで死んでいる。私はなぜか仏心を出して、その犬を埋葬してやろうと考えたが、執事が先に手を出してしまった。この後のことは良く憶えていない。


               (起床)

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