第4話別離

 ヒカルは振り返った。ツヨシは二階からヒカルを見下ろしている。部屋の照明をつけていないので、ツヨシは暗い四角の窓わく内に上半身を浮かび上がらせている。

「ヒカル、俺の祖父は生涯労働というものを一切しなかった人なんだ。一生ぷー太郎だよ。それでも彼の息子、つまり俺の父親はハーバード大学を出て民間のシンクタンクで世界経済を追いかけてる。もしかしたら俺はおじいちゃんに似たのかもしれない」

 ツヨシがさわやかにヒカルに話しかけた。そして続ける。

「世の中の既成概念というのは意外とデタラメだ。俺たちニートの心持ち次第じゃあ働かないことなんて大した問題じゃないんだよ。だから、ニートはもっと堂々と生きるべきなのさ」

 ツヨシは笑顔だ。

「ヒカル、今日はわざわざ来てくれてありがとう、うれしかったよ。お礼にオマエの願いを一つ叶えてやるよ。俺は神さまだからな」

 やるせなさと徒労。ヒカルは疲れていた。陽気ともいえるツヨシを見て、ますますそれを感じた。

「ああ、素敵なパートナーが欲しいな」

 ヒカルは話半分で答えた。

「さよなら、元気で」

 正直なところヒカルは納得できないままだ。いまいち癪でもある。しかし、そのままヒカルはツヨシと別れた。

 ヒカルは帰りの電車でもの思いにふける。そしてクソ真面目に働くのがバカらしくなった。つり革につかまるヒカルが不安定にクルクル揺れる。

 そののち、6月になってヒカルは仕事でブラジルへ旅立った。

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