第14話
「それが、ダグの家から見つかったんですよね。白状させたら事件の先日にダグがジャスティンの家に遊びに行った時に割ってしまったらしくて、とっさに隠して私に押し付けたと」
「ああ、それは……迷惑な話だったね。ともかく疑いが晴れてよかったよ」
ここにシンシアがいたら『茶番! とんだ茶番だわ!』と言ってくれたであろうが、カイルは慰めの言葉で止めておいた。遠い目でダグを見ているドーラだが、怒るどころか呆れ果てているようで余計に哀れになる。
彼女が言うに、森の奥は行くなとかジャスティンに殴られそうになった時に庇ったのはダグなりの良心だったそうだ。
何度も謝ってくれたそうだが、ドーラは真相を聞いた時の反応は「ああ、そう」という気の抜けたものであった。あまりの展開に脱力するのも仕方ないことだろう。
「そのあとジャスティンとダグは喧嘩になって、大人の人を呼んできて、最終的には大人を巻き込んでの殴り合いが始まって……散々でした。今は仲直りしたようであんな風に悪巧みをしているみたいですけど」
「……大変だったね」
どう答えたらいいのかわからずいよいよ収集がつかなくなってきた時、突然男の声が響いた。
「お前ら、また来たのか! ここは立ち入り禁止だ、さっさと帰れ!」
何事だとカイルとドーラが覗き込めば、ダグ達に気づいて叱りつけている見張りと慌てて逃げる少年達の姿が見えた。おそらく一度目は何らかの罰を与えるだけで済んだのだろうが、二度目は彼らも容赦しないだろう。それなりの制裁を受けることになるのはわかっているのか、少年達は石などで反撃をすることなく村へと帰って行った。
「私もそろそろ帰りますね、お昼休みが終わっちゃうんで」
「そうだったね、頑張って」
ダグ達を追う形で戻っていくドーラに手を振り、ようやく目的である見張りに声をかける。若いとは言っても十九のカイルよりは年上であろう彼らは、差し出された許可書を読み、通るように指示をした。礼を言い、横を通り過ぎて少し経った頃。見計らったように大きな声が背後から降りかかった。
「俺、今初めて会ったよ。あの人中で働いてるんだよな、何やってるんだろ」
「先輩の予想だと罪人を入れとく場所があって、そこで料理でも作ってるんじゃないか? 食材買っていたみたいだし」
「俺が聞いたのはブラッドリー令嬢が療養しているとかだけど?」
「それは表向きだって! 誰も令嬢の姿を見たことはないんだから、実際はいないんだろ。まあ、でも案外いるのかもな、村の奴らが噂してるおっかない魔物とかさ」
ギャハハハハと下品な笑い声は木々を反響して、距離のあるカイルの耳へと届いた。実際彼らの言葉は半分は正しくて、半分は間違っている。シンシアはまず存在するが、森の外へ出たことはないので社交界にも行ったことがない。
つまり彼女の姿を知っているものは数えきれるほどしかいないのだ。そしてカイルは実際料理を作っているが、シンシアは罪人でもない。けれど、村の人間の言う魔物は正解なのだ。
シンシアは魔物だ。体は人間のセリーナで中身は魔物のシンシア。そして一緒に住むカイルも元人間の吸血鬼。なぜ吸血鬼になってしまったのかは未だシンシアも知らないことだ。
それらは、友人候補となっているドーラには伝えてなかった。カイル自身も余計な誤解を生んでドーラを逃したくないので言う気もないし、シンシアもそれは望んではいないだろう。ドーラは何も知らなくていい。ただシンシアの心の支えになってくれる人物になってくれればいい、というもがカイルの考えであった。
「あ、カイルお帰りなさい!」
カイルの帰りを待っていたのか、屋敷の庭に咲く花に水を与えていたシンシアが駆け寄ってくる。すると持っていた荷物の半分を奪い取り、がくりと膝を床についた。
「重いだろ? ほら、貸して」
「ぐっ……いいわよ、体力つけるんだから」
一度出てしまうと次に村に行くには日にちを開けなければいけない。外に行けないのだから買い溜めが必要となるのだ。なのでカイルが持つ紙袋や箱等は通常より膨れており、令嬢が持てる重さではなかった。カイルがにこやかに運べているのが信じられないという視線を受け取りつつ、シンシアが猫背になりながらも荷物を運ぶ姿を見守る。
「急に体力つけるってどうしたんだい?」
「……あのね、私だって力になれるんだから……今言えなくても、いつかは話してよね」
手を震わせながら言うシンシアに、見抜かれていたかとカイルは思わず笑みを浮かべていた。それに気づいてか怪訝そうにするシンシアから、やり返しと言わんばかりにカイルは荷物を取り返した。急に腕が軽くなって反応が遅れたシンシアに、カイルはしてやったりと笑みを浮かべて早々に屋敷に入っていく。
「ちょっとカイル、それはずるい!」
慌てて追いかけてくるシンシアを横目で見つつ、カイルは思った。シンシアは時々驚くほど鋭い。こちらが必死に隠していることを、察知してしまう。だからこそ、彼女は自分自身を傷つけてしまうのだ。
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